第六十八話 私もほしい!!
ヴァルからニブルに戻るにあたって、まずはゲートまで移動する必要があるが、俺達だけなら一日弱もあれば徒歩でたどり着く。
しかし、今回は魔族御一行と一緒になる。
マサルもそのあたりは考慮していたようで、やたらと荘厳な馬車が待機していた。
どうやら俺達は客扱いらしく、馬車に乗るのは俺達で一台。
マサル、それにマサルの側仕えで一台という構成らしい。
どこか気に食わないのは、その馬車が天井に赤い装飾がついており、車体の上半分が白で下半分が黒に塗装されている。
「パ、パトカーだ……」
「ぱとかぁとは何だお館様よ」
「オトンのいたところのお上の乗りモンや。正直あんまいい気分はせんわぁ」
玉藻は地球に最近までいたのか?というほどのことを言い出す。
「ハジメ、この馬車かっこいいね!早く乗ろ!」
「ラグちゃんのどこにこのパトカーもどきがぶっ刺さってるのよ……」
俺達は、マサルに促されゾロゾロと乗り込んでいき、最後が俺になった。
ふとドリトンに目を向けると、ドリトンは笑いをこらえている。
「……くくく。ハジメ容疑者、また今度な……くくくっ」
「そこ!笑うなおっさん!」
「いいから早く乗ってくれ!早く行かないと、またノボルに怒られるんだ」
マサルは少し焦り気味に俺を馬車に押し込んだ。
マサルも自分の馬車に乗り込むといよいよ馬車が動き出す。
ゆっくり走り始めたパトカーもどきだが、俺がその見た目に圧倒されて内装まで気にしていなかったが、アリスが俺に質問してくる。
「ハジメ様、この馬車の窓は敵からの攻撃も想定しているのでしょうか?」
「……なんで?」
「見てください。窓の外に、鉄格子がついています」
そう言ってアリスは窓の鉄格子を掴んで揺さぶるがビクともしない。
俺の横に座る大人モードの玉藻は、頭に黒い雲がついていそうなどんよりした声で俺にいう。
「オトン、これパトカーちゃう。護送車や」
「狐娘、先程言っていった、ぱとかぁとやらではないのか?」
「……せや。パトカーやのうて、護送車。悪党詰め込んで運ぶ乗りモンや……」
なぜに俺は異世界まで来て、護送車に詰め込まれ、ニブルに護送されなきゃならんのだ……。
乗り心地は悪くないが、気分は留置所に運ばれる犯人のそれだ。
「なんと!私だけならいざ知らず!いや、むしろしてほしいぐらいだが!!お館様と主を悪党認定とは許せぬ!今すぐ私がだけが独り占め、いや、身代わりになることを伝えてこよう!!……はぁはぁ」
「息を荒らげるな気持ち悪い」
アリスは目の前でエクスカリバーの平常運転に頭を抱えている。
この変な空気どうしたもんかねと思うと、ふと懐の包を思い出した。
「あぁ、そういえば」
俺はそう言って、懐から三つの包を取り出す。
「これが、玉藻で、こっちがラグちゃん。んで、残りのこれがアリスだな」
「これ何?ハジメ?」
ラグナロクは不思議そうに包を開けていく。
中から出てきた菫の髪飾りを見て、ん〜と目を凝らしている。
あれ?
女の子ってそういうのもらうとテンション上がるもんじゃないの?
するとラグナロクは俺に髪飾りを突き返し、少しうつむきがちに一言。
「……ハジメがつけて」
そう言って俺に頭を向けてくる。
まいったな。
俺こんなのどうやってつけたらいいかわかんねーよ。
すると俺の裾をちょいちょいと玉藻が引っ張ってくる。
ひそひそと俺に耳打ちする玉藻。
「オトン、だめやなぁ。ええか?ここをこうして、これでええねん」
ひそひそと着け方を教えてくれた。
俺は玉藻の頭をワシャッと撫でると、ラグナロクに着けてやった。
「ふふふ……」
ラグナロクはありがとうでも、嬉しいでもなく、どこか上機嫌に窓の外を見ていた。
「ハジメ様、これでどうでしょう?」
アリスの耳に光るイアリングを見せてきた。
アリスの整った顔に、翡翠が合っている。
「似合ってると思うぞ」
「そうですか……!」
アリスもどこか嬉しそうだ。
じゃあ最後に玉藻と思って話しかけようとしたが、エクスカリバーが割って入ってくる。
「して、お館様よ。私には?」
「はっ?」
「私にはなにか、そういった拘束具の贈り物はないのか?」
まっすぐな目で俺を見るな変態。
「……あるわけねーだろ」
「なんと!お館様よ。これはいわゆる独占の証、所有者の証ではないのか!?」
「んなわけあるかい!!」
「わりと間違ってもないでオトン」
「玉藻まで何言い出すんだよ」
俺が玉藻に向き直ると、口に牡丹の簪を横に咥えて、長い髪をまとめている玉藻がいた。
妙な色気を放つその姿はなんとも言い難い大人の女性という雰囲気を発していた。
「自分に親しい女に贈るアクセサリーはな?特に顔周りで首に近いもんなら、それはこの女は俺のやーっていう首輪みたいなもんやで」
ケタケタを笑いながら玉藻は髪をまとめると、シュッと慣れた手付きで簪を差した。
髪がアップになったことで、うなじが強調されてより色気を強く感じる。
「いやいや、そんな独占とか首輪とか、なぁ?」
俺がアリスとラグナロクを見ると、二人は顔を赤くしたままどこか上機嫌のまま答えてくれない。
「私に欲情してもうた?」
今度はゲラゲラと笑う玉藻。
「すまん。どうにもそうは見えん」
「しっつれーな男やなぁオトンは。そこは嘘でもそうだって言わんかいな」
事実なのだ。
血縁がなくても、自分の娘と思ったら、どうにもそんな気が起きない。
「もう待ちきれんぞお館様。早く私にも!!」
「だからねーって。ニブルついたらアリスに買ってもらえよ。お前のご主人様なんだから」
俺がそう言うと、エクスカリバーは目を輝かせた。
「お、お館様……。お館様は賢者様であったか!?何という発想!何という提案!我が主よ!ぜひニブルに到着したら私に首輪を買っていただきたい!!!」
エクスカリバーは俺を賢者といい、まるで神聖な神であるかのように拝むと、アリスに向き直り膝をつき、アリスの両手を握って息を荒らげている。
「やめんか!!」
俺がエクスカリバーの頭を叩いてもエクスカリバーは止まらない。
「ハジメ様、なんてこと言ってくれるんですかぁ……」
せっかくプレゼントで上がっていた気持ちが台無しだという表情で俺を見てくるアリスがそこにいる。
「なんか、ごめん……」
「わが主ーーーーー!!」
「わかりました!わかりましたから!いい子にしてたら買ってあげますから!しばらくおとなしくしてなさい!」
「任されよ!!」
そして、アリスの前で膝をついていたはずのエクスカリバーはすっと立ち上がり、アリスの前で改めて四つんばいになった。
さぁ!とエクスカリバーは顔だけ見れば光るほどのイケメンフェイスをアリスに向けている。
「だからそれはやめてくださ……」
アリスが言い終わる前にノックされた。
「ここで一旦休憩する。食事になるから出てきてくれ」
マサルだった。
マサルがノックの後ドアを開けたのだが、目の前にはアリスの前で四つんばいのイケメンと赤面した王女。
言葉を失うマサルだったが、背中が喋っている。
『エクスカリバー……。同い年として言うけどさ、それ見てるほうが恥ずかしいからやめてくれ』
共感性羞恥を受けたランスロットの言葉だった。




