第六十七話 珍客
「ご用件?」
ルナはみんなの一歩前で静かに魔族に問いを投げた。
ドリトンといる時のほわほわとした印象はそこにはなかった。
ピリピリとした空気が流れている。
俺がラグナロクとアリスからエクスカリバーの汚物扱いの流れのあと、俺もその集団に合流した。
「まだお話できません。ハジメさんを出してください」
魔族の代表者らしき先頭の男が何か言っている。
「おいおい、うちのカミさんには話せないのに、そっちの要件は通そうってのか?それは筋が通らねぇだろ」
ドリトンも普段のチャラけた様子はなく、いつでも戦闘可能という雰囲気を放っていた。
言葉を交わせば交わすほど空気感は悪化していく。
「オトン!待ってたで!」
集団の中から玉藻が俺を見つけて声をあげる。
それに連動して、一斉に魔族が俺に目を向けるが、その代表者は俺がよく知る人物だった。
「あっ!お前!!!」
魔族の先頭で代表をしているのはほかでもない、魔王軍所属の勇者。
ラグナロクを折り、武闘大会では意趣返しに失敗したあの勇者だ。
「お待ちしておりました。要件をお伝えします」
あの狂ったような喋りも無く、今日は落ち着いた雰囲気を出している。
しかしその視線は、油断することなく、俺とラグナロクに注がれている。
勇者は騎士そのものという所作で一例すると名乗りを上げる。
「長きにわたり、名乗ることもなく失礼いたしました。私は魔王軍所属、魔王直轄部隊にて先陣を切らせていただいております、マサルと申します」
どうにも勇者の雰囲気がこれまでと違いすぎて感覚がつかめない。
しかし、明らかな日本名を聞いて、ドリトンも少し反応していた。
「お前、なんだか雰囲気違くね?」
「はい。度重なるハジメさんとラグナロクさんに対する非礼に、魔王様よりお叱りを受けまして」
マサルはそういって再度頭を下げる。
しかし、マサルの後ろからは別のヒソヒソ声が聞こえてくる。
――――「勇者さまもああしてりゃまともに見えるんだけどなぁ……」
――――「普段があれじゃぁなぁ」
――――「今回の武闘大会で負けて、また人間にちょっかいかけたことが魔王様にバレてめちゃめちゃ怒られてたからなぁ」
なんか、威厳が吹き飛びそうなこと言われてるぞ。
「そ、そうか。それで、俺に何の用なんだ?」
「はい。我が魔王様より、ハジメさんにお話しがあるのですが、探し始めた時にはニブルにおらず、見つけた時には武闘大会でした。お声がけしよと思いましたが、こちらも目的があり、そちらのラグナロクさんとの戦闘で動くこともできなくなってしまい、今となってしまいました」
あぁ、確かに、ラグナロクにボッコボコにされてたもんね。
聖属性持ちだから、ラグナロクとそれなりに戦えちゃう猛者ではあるんだよなぁ。
「魔王が俺に何の用なんだ?」
俺は強がってはいるが、正直足は震えている。
そもそもヴァルに俺たちがいるのは、生卵を得るという目的で包んではいるが、魔族から体を躱しているのが本質なんだからな。
「内容については魔王様より直接ご説明させていただければと思います。こちらの要求としては、ハジメさんに我々とともにニブルに戻っていただくことになります」
魔王軍が攻めてきたにしては、悠長なことを言っている。
それでも俺が連行されるという事実に変わりはない。
さてどうしたものか。
大人しく同行した方がいいのか、ここで戦闘まで発展させた方がいいのか。
こっちには無敵のラグちゃんもいるしな。
「少し考えたい」
俺がそういうと、一気にマサルの言葉がくずれていく。
「そ、それは困るんだ!頼むハジメ!俺と一緒に来てくれ!そうしないと俺はノボル、いや、魔王から次は何をされるか!!!」
ずいぶんと取り乱し始めたぞ?
すると、マサルの背中の剣が少し揺れて、なんとなく既視感のある現象が起きる。
――――カシャッカシャッ
『マサル!ビビるな!相手は魔剣一本なんだ、面倒だからもうやっちまえよ!強引に連れてっちまえばいいじゃねーか!』
誰だこいつ。
「あっ……!お前、ちょっとだまってろ!今は大人の大事な話をしてんだから!」
『なぁにが大人の話だよ。昨日一日中正座させらたぐらいで魔王にビビりやがって、これが俺のマスターだと思うと泣けてくるぜ』
あっちゃー。
これ、あいつの背中の剣も喋るタイプだよ。
俺はどう反応したものか困っていると、俺にドリトンがじっとりとした目を向ける。
その目はまるで、お前また厄介ごと持ち込んだな?とでも言いたそうだった。
俺が何度も自身の額を叩いて悩んでいると、俺の後ろから別のやつが反応した。
「おおーーー!ランスロットではないか!新しい主を得たのだな??これはめでたい!ハッハ!」
エクスカリバーがズンズン前に出てくる。
おいちょっとまて。
確かこいつ、知り合いがランスロットって名前だったな……。
まぁこの後の展開は想像に難くないが……。
「エク君。もしかしてこのマサルって勇者の背中でカシャカシャしてるのが?」
「お館様、慧眼である。まさしく我が友、ランスロットである。少し性格と女癖に問題があるが、とても気のいいやつである」
「お前がそれ言っちゃう?」
エクスカリバーは胸をはって、拳で自分の鎧の胸をどんと叩いて見せる。
『ゲッ!お前、エクスカリバーか!?マサル、やべーぞ。俺はあいつとは今顔を合わせたくない。悪いがしばらく俺は黙るから後は何とかしろな』
そういってマサルの背中は静かになった。
「むっ。久しぶりの再会だというのに、ランスロットよ!無視はひどいのである!答えるのである!」
そういって、エクスカリバーはマサルの近くに寄り、マサル越しに背中のランスロットを掴んでカシャカシャ振っている。
『や、やめろ!痛てぇ!!振り回すなバカ力!!」
「おっ!やっと答えたのであるな!うむ。それでよい!久しぶりであるなランスロットよ!!」
『……俺に話しかけんな』
「そういうことをまだいうのであるか??」
エクスカリバーはさらにランスロットを振り回す。
『だぁかぁらぁっ!振り回すなぁぁぁああ!!!』
すると、ランスロットも人型を取った。
俺はラグナロクにエクスカリバーにと見慣れているが、マサルは違ったらしい。
目が点になっている。
「おまえ、人になれるの……?」
「言わなかったか?」
「いってねーよ!!!!」
マサルは俺を魔王のもとに連れていきたいのにそれ以上の出来事に驚いて困惑していた。
「俺がラグちゃんが人になった時って、あんな反応だったのかな?」
「ハジメはそんなことなかったよ。すっごく優しい王子様だった」
ラグナロクが答えるが、嘘つけと思う俺だった。
「それに、あのランスロットってやつ、見た目子供じゃねーか」
ランスロットの姿はまるで子供が騎士の鎧を着ましたという見た目だった。
「ランスロットよ。ほんとおぬしは背が伸びぬな!それではまるで童ではないか!」
「うっせーよ。俺と同い年の癖にガタイばっか成長させやがって。俺はこの外見でこまったことねーよ!知ってるか?この見た目だとな、買い物するとき、おばちゃんがおまけしてくることがあるんだぞ!」
「そ、それは誇ることなのであるか……?」
あ、こいつも灰汁が強いタイプの喋ると胸やけするキャラだな。
俺はそう思うのと平行して、ラグナロクが俺の頭を撫でてくる。
「大丈夫大丈夫。もうラグが折れてハジメが危なくなることなんてないよ」
いや、別にそこは心配してないんだけど。
「んで、勇者のマサルだっけか。なんか困ってるみたいだし、いいぞ。ニブルに行ってやる」
今の感じを見るに、エクスカリバーがいればランスロットの対応は問題なさそうだ。
俺は、ドリトンにまた説明に来ると話して、懐かしのニブルに戻ることを決めた。




