第五十三話 いたずらっ子
「脅威。排除容易対象から変更なく現在確定を継続」
「ヴェルアンタ今アタシのことを弱っちぃって言った!?!?」
ロキはヴェルダンデイの排除容易対象という言葉に怒りを募らせていた。
「まぁ間違ってはいないじゃん。アンタ一人じゃ瞬殺されてたでしょ」
「ヘカテもそんなこと言ってないでさっさとあの頭おかしい女何とかしてよ!!!」
「人任せにしすぎだよそりゃ。知ってんだろ?アタシの能力じゃ拒絶と反転はできても攻撃そのものはできないんだから」
ヘカテイアの右手にはさっき弾き飛ばしたはずの煙草が戻っていた。
「捨てた煙草ぐらい諦めなさいよ。せこいわね」
「だって最近値上がりで財布の打撃がきついんだよぉ」
ヘカテイアは先ほど自身が弾いたタバコの結果を拒否し自身の手元に戻していた。
「じゃあどうするのよ。今もほら」
ロキはそういってロキとヘカテイアの足元の少し先を指さした。
そこにはヴェルダンディが追加で放ったトンボがさらに積みあがっていた。
しかし、トンボに対しては常にオールリジェクトを発動させているがために効果を失っていた。
ヴェルダンディは明らかに焦りの色を見せ始めていた。
「となると、そうだなぁ。よし、イタズラ娘。アンタがアタッカーで火力役やんなさい」
「はぁ!?アタシが最前線??アタシだって火力なんて皆無よ!!」
「だぁかぁらぁ。そのために、そのかわいいお手々は、神すら殺せる伝説の魔剣を握ってるんでしょうが。って、現界した身体じゃ殺すのは無理だけど。もう少し考えて発言しまちょーねぇ」
ヘカテイアはロキの頭をワシャっと撫でた。
「髪型崩れる!!やめなさいよ!!!まぁそのつもりでこの娘を呼んだんだけどさ」
ロキに握られているラグナロクが少しずつではあるがヴェルダンディの方へロキを引っ張ろうとしている。
「ほぅら。その娘もやる気満々じゃん」
「この娘はもともと気が強い上に、飼い主を瀕死にされてキレてる真っ最中なのよ」
「あぁあのハジメっていう坊やかぁ。あの子可愛い顔してるよねぇ。アタシがもらっちゃおうかな」
「やめた方がいいわ。この娘が飛んでくわよ」
「おーこわっ」
ヘカテイアは肩をすくめて怖いという表情をするが、茶化しているという空気の方が強い。
「でも安心なさいな。ヴェルが現在を確定するには、視線の確定とタイムラグ、それに確定直前までは一つの真実と一つ以上の嘘を相手に伝えるって制約がある。そこから逆算すれば楽勝よ」
「楽勝って言っても、それ信じていいの??」
「もちのろんよ。それに現在確定は毎回一つしか打てないしタイムラグは二十五秒。そういう呪いにかかることを条件に発動しているのよ」
「なんでそんなこと知ってんのよ」
「だって、無制限に打たれたら面倒だからって、子供の頃のヴェルに呪いかけたのア・タ・シだもん」
そういってヘカテイアはてへっという表情をしながら人差し指で自分の胸をトントンと差す。
「あんた幼子に呪いって、性格が気持ちいいほどねじ曲がってるわね……」
「いやぁん。そんなに褒められたらお姉さん興奮しちゃうー」
「いってなさいよ、ならまぁゆっくり攻略してあげればい、」
ロキが言い終わる前にヴェルの声が届いた。
「脅威対象を複数指定実行。ロキ、ヘカテイアに現在固定を行使。対象確定」
ヴェルダンデイの視線が、ロキとヘカテイアの頭と心臓を行ったり来たりし出す。
「ちょっとアンタ!これってどうなってんのよ!?一つしかかけられないんじゃないのぉ!?!?!」
「あーれおっかしいなぁ。しばらく会わない間にヴェルったら修行とかそういう脳筋なことしたのかしら??」
「そういう冗談言ってる場合じゃないでしょうが!!!!」
「うん。一旦。解散!!!各自回避!!」
そういうとヘカテイアは飛び出し、ロキとヘカテイアでヴェルダンディを挟む位置取りまで移動した。
「セレクトリバース。確定前対象を我が境界を以って反転。指定対象の入れ替えを実施」
ヘカテイアはヴェルダンディの確定結果を反転させる。
つまり、ヴェルダンディはこの確定で嘘の結果を確定させないければ発動しないことになる。
しかし、そのことをヴェルダンディが知るすべはない。
「それってどうなんのよぉ!!!!説明なしじゃこっちはどうしたらいいのかわかんないわよ!!!」
「ヴェル前にして説明できるわけないでしょうが!察しなさい!」
「無理に決まってるじゃないのぉおおお!」
「執行」
ロキと心臓と、ヘカテイアの頭が一瞬黒く色が変わるものの、パリンとガラスを割ったような音を立てて元の状態に戻った。
「困惑。原因不明。解析不可」
ヴェルダンディは困惑の表情を浮かべ、ロキとヘカテイアを交互に見つめている。
「ほらうまくいったでしょー」
ヘカテイアが大声でロキに話しかける。
「危なすぎるのよ!!結局アタシ理屈わかってないんですけど!!」
「いいからいいから。アンタ顔に出やすいから、こっちでうまくやるからそっちもいい感じの進め方しなさいー!」
「まかしたからね!!!頼むわよ!!」
ヘカテイアはそれを聞いて左拳を高くつき上げた。
「あいつここ来る前に漫画読んでやがったわね……」
「なんらかの妨害の可能性あり。即時実行での対象排除に切り替え。対象ヘカテイア。確定事象、四散」
ボンッという音と共に、ヘカテイアの右手が煙草ごと破裂した。
「くっ。こんな芸当もできるようになってたとはね。これはリアルタイムで相殺しないと間に合わないか」
「世話焼かさないでよ!!!」
ロキがそういうと、ヘカテイアの右手に金色の光が集まり、ヘカテイアの右手を再生した。
「さんきゅさんきゅー。たすかるわー!次は自分で再生するから大丈夫よー」
「自分でできるならアタシにやらせんじゃないわよ!!」
「だって魔力食うからぁ」
「アタシだって魔力消費激しいわよ!!!」
ヴェルダンディは即時攻撃なら可能性があると判断し、ヘカテイア狙いに切り替えていた。
めまぐるしく確定と拒否が交錯していく。
「確定事象、切断」
「インターセプト。対象を執行者へ反射」
「確定事象、崩壊」
「インターセプト。対象を執行者へはんて、きゃぁっ」
ヘカテイアの反撃が間に合わず、両足が崩壊してしまう。
「こっちの技だと出が遅い。ったく面倒ねぇ!!」
足を再生するとさらに攻防は激化していった。
ロキも反撃の為に着々と準備を進めている。
「我が行いは万物を嘲り笑うものなり」
一節唱えて一歩前進。
「嘲笑は民を苦痛に染め上げ、神を瓦解させる」
さらに一節唱えて一歩前進。
その間にも戦闘が続いているが、ヴェルダンディはヘカテイア一人に対して二か所の複数指定と一か所の即時執行を行っていた。
「ロキ!ちょっとやばい!アタシこのままだとおさえきれなっ!!!」
「我、神々を黄昏に導くものなり」
ロキとヘカテイアの声が重なる。
「執行」
「ノーティキッド」
ヴェルダンディの執行と同時にロキの詠唱も完成。
ロキは指を鳴らして、ふっと指先に息を吹きかけると、手元のラグナロクが姿を消した。
「失敗!?」
ヴェルダンディが明らかな動揺を見せている
それもそのはず。
ヘカテイアの目の前に無数のラグナロクが姿を現したのだ。
対象を視線で特定できずヴェルダンディの現在確定は失敗に終わった。
「実態を伴った無数の虚像……?」
ヴェルダンディは全身を覆い隠すほどの数千に及ぶラグナロクの切っ先が向けられており、ヘカテイアは刀身で姿が見えないように隠されている。
「アタシのイタズラ。付き合ってもらうわよ」




