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不運の集大成で死んだら、悪神のミスで絶対死なない豪運おもちゃにジョブチェンジしました  作者: 社会不適合者
素敵な生卵編

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第五十二話 ヘカテイア

 ロキは少し後悔していた。

 結果的にラグナロクを守る目的でこの世界に彼女を落としたはずなのに、今はこうして彼女を焚きつけている。

 彼女の身を案じた自分が、彼女を危険な戦場に呼び寄せるこの矛盾に、ロキ自身の身勝手さを感じていた。


「ほんと、こういうことに正面から向き合うもんじゃないわね。疲れるわ」

 ロキの目の前には、ハジメが見たあの不審者立っている。

 声は聞き取れないが、何かをぶつぶつとつぶやいたまま、時折フラフラと体を揺らし、また静止その繰り返しだ。


「あんたほんと変わらないわよね。その気持ち悪い動きやめなさいって前言ったじゃない」

「楔、排除失敗?対象……回収中?分体の連絡、途絶」

 だんだんとその不審者の声は大きくなってきており、ロキにも聞こえ始めていた。


「よくもまぁ勝手に人の管轄世界に分体忍び込まして好き勝手してくれたわね、ヴェルダンディ!」

「ロキ、怒り?理由、不明」

 不審者の服が風になびき始める。

 しかし、不思議なことに、ロキと対峙するこの場には風など吹いていない。

 ここはヴァルからさらに魔族の勢力圏に進んだところにある草原である。

 高い建物など存在するはずもなく、それでいて、辺りにはところどころ鎧の残骸や、白骨した骨が転がっている。

 ここは過去幾度となく魔族と人間が争っていた場所の中心なのだ。


「そのオーラ、ひっこめなさいよ。気色悪いわ」

 ロキの声にも全く反応しないその相手は不意に自身のローブを掴んで脱ぎ去った。

 その瞬間の出来事だった。


 ――――あたりの音が消える。

 ――――次第にロキの視界から色が消え始め、モノクロの視界が広がっていく。


「参ったわね。まだあの娘も来てないし、ヘカテも来ていない状態で相手は臨戦態勢。ちょっとまずい、かも?」

 ローブを脱ぎ去ったヴェルダンディの表情はひどく冷たい表情をしていた。

 その顔に残る切創がさらに冷たさを感じさせる。


「あの娘の転送に魔力を割きすぎるわけにはいかないから、どうしても時間がかかるっ!この現界時の身体じゃなければ無理も利くってのに……」

「ロキを敵と確定。排除に移行。現在の確定を執行。対象」

 そこまで言うとヴェルダンディはロキの右足と左足に交互に視線を送る。


「対象確定。執行猶予二十五秒」

「やばっ!あいつこっちの動きを止めに来てる!!現在確定の執行のブラフはどっち!?!?」

 ロキはヴェルダンディの視線を追う。

 確定タイミングで止まる視線の先を特定しなければならない。


 ――――残二十秒。


「やばいやばいやばい!追いきれない!どんな視線移動してんのよ!!!」

 目まぐるしく動くヴェルダンディの視線移動にロキはついていくのがギリギリになっている。


「対象の抵抗を確認。別系統での干渉開始」

 ヴェルダンディはその場からバックステップで後ろに下がると、右腕を横なぎに払った。


 ――――残十五秒。


 ヴェルダンディの払われた右腕の先から無数のトンボが放たれる。

 そう。

 ハジメの右腕を切り落としたあのトンボである。


「ほんとありえない!!!!こんなのアタシ一人でどうしろってのよ!!!」

 ロキはヴェルダンディへの視線は放さず、トンボの回避も強いられる状況となった。

 飛ぶ相手に対して現界した身体では浮遊して回避するにも長時間の浮遊するほどの魔力の余力もなく、必然的に体力に任せて回避することを強いられている。


 ――――残十秒。


 トンボは刃に姿を変え始め、ロキへと襲い掛かっていた。

 一つ一つが致命傷になる威力をもって、ロキの数センチ先を通り過ぎていく。

 カシャンッ。


『ロキお姉さま、遅くなりました』

 ラグナロクの到着である。

 ロキの足元に、突き刺さったその刀身は黒い霧を大量に放出している。


「遅いわよほんと。まぁいいわ、ギリギリって感じね」

 ヴェルダンディから視線を外さず、トンボの刃を躱しながらラグナロクを引き抜くロキ。

 

 ――――残五秒。


「対象確定」

 ヴェルダンデイはロキの右足に視線を止めた。


 ――――執行。


「行くわよラグナロク!久しぶりにまともな仕事しなさい!!!」

 そういってロキは自身の右足を、手に取ったラグナロクで切り落とした。

 ロキの右足からは大量の血が流れている。

 しかしロキはそのことに焦るのではなく、怒りの感情を乗せてヴェルダンディをにらみつけていた。


「痛っっっったぁああああい!!!!ったく、ヘカテがいればこんなことにならないのに!!!再生にもかなり魔力使うんだから勘弁してよ」

 切り落とされたロキの足は、一瞬で黒く色を変え、その場に固定された。

 そのすぐ横をトンボの刃が通り過ぎる。

 つまり、切り落としていなければその場でロキは現実に固定され、トンボの刃で両断されていたことになる。

 

「失敗?再検討及び索敵を開始。対象を特定」

「やばっ!また飛んでくる!!!」

 ロキは自身の右足を一撫ですると、一瞬で元の足を再生させた。

 それと同じくしてヴェルダンディに固定され黒く変色したロキの右足は塵となって消えていった。


「ヘカテ早くきなさいよ!!!」

 ロキの叫びに呼応するように、ロキの横に陽炎のような靄が現れた。

 陽炎からは少しおどけたような女性の声がする。


「ごめんごめん!遅くなったわ!おや?イタズラ娘、もうどっか体やられちゃった?」

 その声の主は、ゆらゆらとした陽炎の奥から姿を現した。

 しかし、服装はパーカーにジャージという戦いには不釣り合いな服装に、煙草を咥えて両手はパーカーのポケットに入れている。

 足元には下駄を履いていて、そのアンバランスさが独特の雰囲気を醸し出していた。


「遅いわよ!!!もう右足一発持ってかれたわよ!!!見なさいよこのこの血だまり!!」

 ロキは足元の自身の血をラグナロクで差して、足をバタバタさせている。


「だからごめんって言ってるじゃん!着てく服が決まらなかったのよ」

「着てく服!?!?そんなのの為にアタシはこんな痛い思いしたっての!?」

「まぁまぁそう怒りなさんなって。お姉さんが来たんだからもう大丈夫よ」

 そういうとその女性は煙草を右手の人差し指と中指に挟み火種をヴェルダンディに向ける。


「ヘカテイア……?」

 ヴェルダンディが明らかに嫌悪の表情をその女性に向ける。


「おや。アタシの名前覚えてたんだ。うちの可愛いイタズラ娘にちょっかい出してくれた事。謝ってもらわないとね。久しぶりに遊んであげるよ。ヴェル」

 そういうとヘカテイアは片方だけ口角をあげて、ヴェルダンディに向けた煙草を指で弾いた。


「オールリジェクト。確定対象を我が境界を以って拒否する」

 ヘカテイアが一言つぶやくと状況が一変した。

 トンボが一匹、また一匹と地面に落ち始めているのである。

 気づくとそこには、地に落ちたトンボで埋め尽くされていた。

 

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