第四十八話 ロキの助言
その頃ハジメとアリスは。
「ハジメ様。どうしてタマモちゃんの名前をタマモにされたのですか?」
「ん?理由か?」
「あんまり深い意味合いはないんだけどさ。俺がいた地球にそういう妖怪がいたんだよ」
「ヨウカイ?ですか。魔物みたいなものでしょうか?」
「あぁ、こっちにはいないのか。ちょっと違うかな。玉藻も言ってたけど、聖霊に近い存在だよ」
「聖霊ですか。そうなりますと、かなり高位の尊い存在なのですね」
いや、実際はさんざんやりたい放題やった挙句、正体が化け狐ってのがバレて、逃げた気がするけどな。
「まぁそんなところかな」
あんまり細かく説明しても、玉藻の人格否定みたいになっても嫌だからな。
「では、タマモちゃんというよりタマモさんという感じですね」
そういってアリスはクスクスと笑っている。
こういう何気ない時間っていいよな。
窓から外を見ると、なんだか外が騒がしかった。
人の声じゃない。
羽音のような音がうるさいほどに鳴っている。
「アリス、なんか今日は虫でも多いのかな。外から羽音がすごいする気がする」
「そうですねぇ。部屋まで聞こえるなんてよほどの大型か、よほどの大群かなのですが、窓の外に何かいるってわけでもないんですよね」
確かに、窓の外には変わらぬ都市の住人が行き交っていて、目につくようなものはない。
「なんかこの音聞いてると、気がおかしくなりそうだなぁ」
「ハジメ様。あまり窓に近づかない方がいいかもしれません。時期にラグちゃんさんたちも戻ると思うので、戻られたらニブルに帰る支度をはじめてしまいましょう」
「それがいいな。俺たちは先に出来ることだけしておくか」
俺たちは手の届く範囲で片付けを始めた。
「あ!ハジメ様!冒険者カードにメッセージが届いています!私とハジメ様宛でドリトン様からです」
「まじか。二人宛てってことは、武闘大会の後にちょっと話聞かせろとかそういうやつかなぁ」
「かもしれません。忘れないうちに確認してしまいましょう」
メッセージにはこう書かれていた。
ーーハジメ。
このメッセージを見たら、あの姉ちゃんたちと一緒に全員でギルドに顔を出せ。
伝えたいことがある。
出来れば急いでもらえるほうが助かる。
それだけお前の仲間の安全につながるからな。
その時、地球の話もしようや。
「地球の話って、ドリトン様も転生者だったのですか???」
「そうらしいよ。あのおっさんが自ら言ってたからな」
「そう考えれば、魔族に対する抵抗の無さも納得です。今思えば騎士団にいらしたころから、私たちとはかなり違ったお考えを持っていたみたいですから」
「あぁ、奥さんが魔族ってぐらいだもんな。俺も正直この世界の魔族って言われても角生えてる人間って言われた方がしっくりくるぐらいだからな」
「そうです。その考え方はこの世界のそれとはまったく違うものなので、おそらく騎士団時代からその考えを疎むものも少なくなかったかと思います」
あのおっさんも、あれで苦労してるんだろうな。
俺は初手から城住まいのラグちゃん装備だもんな。
ある意味、運+99が効いているんだろうよ。
「ハジメ様、お二人が戻ったら起こしますので、少しお休みになられてはいかがですか?ここへ来る途中も体調を崩されていたようですし」
「そうだな。悪いけどそうさせてもらうよ」
俺はそういって、窓から離れたベッドに横になり目を閉じると、意識が解けるように消えていった。
目が覚めると、そこは宿の天井ではなかった。
「お目覚めになりました?ハジメ様」
聞き覚えのある声だ。
この声は安心感がある。
「いつまで寝てんのよ!早く起きなさいよ。時間ないんだから」
こっちも聞き覚えがあるが、イラつく声だ。
「最悪の目覚まし時計をありがとうよ」
「可愛くないわね。それに、あんまり驚いてないわね」
「まぁな。ラグナロクだなんて北欧神話でしか聞いたことなかった戦争が、実体ともなって首にぶら下がる経験とかしてきたら、多少のことじゃおどろかなくなるさ」
「ハジメ様、すごい順応ですね」
「いえいえ、ヘルさんとお話できるならいくらでもですよ」
「ちょっと。アタシと扱い違くない??ムカつくんですけど」
「あんまりイラついてると小皺が増えるぞ」
「小皺なんてアタシにはないわよ!!!」
「で?俺をここに呼んだのはなんでだ?別に話しかけるだけならいつだってしてきてるだろ」
するとロキは少し悩むような表情を始めた。
辺りをうろうろしはじめ、指で額をトントンと叩いている。
「ハジメ様。私からお話したいのですが、あの世界は姉上の世界ですので、私には干渉するにも限界があり申し訳ございません……」
「いいんですよ。いつかヘルさんの管理してる世界にもいってみたいですね」
「私は姉上のそば仕えみたいなものですから、自分の世界は持っていないのです」
そういうと、ヘルは少し恥ずかしそうに笑って見せた。
「ロキよ!!」
渋い声が聞こえた。
ロキの身体がビクッとなり、恐る恐る後ろを振り返る。
「……ビュー兄さま」
確か、俺が転生したときの最後に声がした神様だったか?
「いつまでそうまごまごしているのだ。ハジメに伝えることがあると言ってルール違反ギリギリの干渉をしているのだろうが。さっさと要件をすましてしまえ」
「は、はい!!」
あのロキが素直に従うのを目の当たりにすると少し笑えて来る。
「それとハジメよ」
「は、はい!!」
俺までロキみたいな返事をしてしまう。
この威圧していないのに、存在感で相手を圧倒するのは初めてドリトンに会った時の数倍では済まなそうだ。
「うちのロキの戯れに付き合わせてすまないな。私のやったカリスマは役に立ったか?」
「はい。おかげさまで、始まりは牢獄でしたが、すぐに城に住めるようになりました」
「……牢獄だと?」
ビューレイストの向こう側に、明らかに慌てるロキの姿があった。
「まぁいい。それはこの件が片付いてからだ。ロキ、説明してやれ」
「今すぐ!」
するとロキは俺の側によって、俺の額に人差し指を当てた。
頭の中に声が響き、いくつかの映像が見えた。
「わかった?これがアンタがこれから迎える確率が極めて高い未来よ。口に出して説明するとルール違反になるから直接情報を流したわ。これで何とか生き延びることね」
俺の心拍数は異常に高まっていた。
体中の毛穴から汗が噴き出している。
どこか強い吐き気も感じている。
頭に直接情報を流し込まれたのもあるが、それだけじゃない。
あの映像と声はまるで……。
――――悪夢だ。




