第四十七話 うちは、タマモちゃんやで
「玉藻は、ずいぶんと話がしっかりしてるけど、聖霊ってそういうものなのか?」
「うち?うちは、何と言うか、ようわからへん」
「よくわからないか……。思ったより会話がはっきりしてるから、もしかしたら何度も生まれ変わってて、記憶とかも引き継いでるのかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだな」
一瞬玉藻がビクッとしたけど、よくわからないで押し切られてしまった。
まだ十数分まえに初めましてなんだし、ゆっくり話してもらえばいいか。
「……あっぶないわぁ。この兄ちゃん突然察しがよくなって、人のこと驚かさんといてや」
玉藻はボソボソと独り言を言っている。
「ハジメ。そろそろご飯食べたい」
「あ、わりぃラグちゃん。さっきアリスと食べてきちゃったんだわ」
「アリスと?」
ぐいんと首が横を向いてラグナロクはアリスを見つめる。
見つめるというか、凝視している。
「ち、違うんですラグちゃんさん!ラグちゃんさんが大会の後でぐっすりだったので、起こすと悪いかなとハジメさんと二人で行っただけで、決してこれを機に関係を一気に進めてしまおうとかそういうことは考えていません!」
全部言っちゃったね。
アリス、そういうところ嫌いじゃないけど、寿命を縮めちゃうよ。
だってほら、ラグナロクの目が……。
「アリスとどこに食べに行ったの?」
「うん?地下の食事処に」
「地下?あの?」
ラグナロクはきょとんとしている。
どうやら宿の外に出ていたと思っていたらしいが、地下と聞いて一気に表情がもとに戻った。
「そう。ならいい」
ゾンビ定食はそこまで効力があるのか。
「なら、タマモと食べてくる」
そういうと、ラグナロクはすっと立ち上がり、タマモの手を引いて出ていこうとした。
「あああ、ちょっと待ってくださいラグちゃんさん!タマモちゃんのその恰好では駄目です!!!」
アリスは自身のバッグから、大き目の着替えを取り出すと、俺に一瞥してこっち見んなという意思表示をした後、タマモの服を着替えさせた。
着替えた玉藻はオーバーサイズのパーカーを来ている感じで、まるでワンピースのようになっていた。
「これならまぁ何とかですね」
「行っていい?」
「ああ、はい。大丈夫です」
そういうと、ラグナロクは玉藻の手を引いて宿を出て行った。
うちは、この怖い黒い姉ちゃんに手を引かれて宿の外に連れ出された。
食事に行くみたいやけど、どうもうちの手を握る力が強い気がする。
「お、おかーちゃん?どこ連れてってくれるん?」
「……」
無視かいな。
表情もわからへんし、わかることは、とにかく怒らせたらうちは一瞬で消される危なさを感じるってところやな。
「気づいてないと思ってる?バレてないと思ってる?」
「えっ……なんて?」
「タマモ、転生してるでしょ?」
「な、なんやおかーちゃん変な事言って。て、転生?うち初めて聞いたわぁ。うちはおとーちゃんに名前つけてもらった玉藻ちゃんやで?」
なんやねんなんやねんなんやねん。
急にコアなこと話し出すやんか。
「そう。ラグのこと覚えてない?」
「覚えて?今日初めましてしたんよ……?」
思い出せ!思い出すんや私!
なんや、どっかで会ったことある?
いやいや、生まれて数秒で会ったことあるとかそう言うんやないよな?
したらなんや?
転生前か?
今すぐ思い出さんと身の危険が近づいてくる!!!
「しらばっくれてる?多分、タマモが違う名前で、そう。ダッキって呼ばれてた頃に、会ってるでしょ?」
初代やないかい!
んな前のこと覚えてないわ!!!
それに、こんなごっつい姉ちゃんの記憶なんてないで!?!?
「あっ……」
今度はなんやねん。
勘違いでしたってか?
うちそういうの許さへんで。
「あの時はまだこの姿じゃなかった。思い出して。可愛いネイルの可愛い魔剣の記憶を」
「ネイル?魔剣?……。アンタ!!!」
「思い出した?」
あかん。
つい、前のトーンで話してもうた。
忘れもしない。
うちが初めてこの世界に来た時、ロキとかいう神さんがなんや危ない剣があるから近づくなって言うとった。
実際うちの初代の卵はどういうわけか戦場のど真ん中に転生したけど、その戦場で暴れまわってたのがネイルをした腕が生えてる気持ち悪い魔剣やった。
あんときは生きた心地がせんかった。
周りは死体だらけ、得られる生気は全て屍からなんていう、悪夢以外の何物でもなかったわ。
「そ、そういやアンタ、ラグちゃんって呼ばれてたな」
「そう。ラグちゃん。またの名をラグナロク」
「普通そういうのはラグナロクが名前で、ラグちゃんが通称やねん!!!」
「思いだしたね」
「あ、つい余計な事をっ……」
こりゃもう隠しきれへんなぁ。
「せや、うちはアンタが暴れまわっとった戦場に生まれたあの卵の転生体や」
「記憶もあるね?」
「その通りや。今までの記憶も全部あるわ。で?それがどうしたって言うんや?」
「特に。なんで隠してるのかと思って」
「そりゃ隠すやろ。変なことに利用されてもかなわんし、うちやって、これから生きていかなならんし」
くそう。
うちの素敵なニート生活の予定が、まさか誕生から十数分で完全にバレてもうた。
「なんやねん。言いふらすんか?」
「どうして?」
「どうしてて、だから聞いたんちゃうんかい」
「しない。前はしらないけど、今はラグとハジメの娘。守ってあげる」
「へっ……?」
うち、ふぁいんぷれーの重ね掛けしてたんかい!?
「でも」
「でも?」
「ハジメがタマモのせいで危険な目に遭ったら、許さない」
「それは有りえへんわ。卵が割れて初めに見た異性、今回だとあの兄ちゃんやな。兄ちゃんが目に入った段階で主従関係が出来上がってるからなぁ。縛られはしないかわりに、オトンが死んだらうちも死ぬ」
「呪い?」
ほんと、遠慮と配慮って言葉を知らんのかいな……。
「その通りや。ロキって神さんがうちにかけた呪いや」
「ロキ姉さま酷いことしてる」
「なんや、知り合いなんかい」
「ラグを作ったのがロキ姉さま」
「ほんまかいな。そういわれたら、なんとなく納得できたわ」
あの神さん。
ほんま人間腐っとる性格しとるみたいやな。
まぁうちに呪いかけてるぐらいやし、まともなわけないやんな。
「今のラグはハジメだけ。ハジメが幸せになるなら、ラグは文句ない」
「これが幸せかどうかって聞かれたら、どうなんやろなぁ」
「どういうこと?」
「考えてもみぃ。こんな束縛キッツイ姉ちゃんが四六時中べったらべったらしとんのやで?うちならウザったくて発狂するわ」
ラグナロクのやつ、なんでそこだけ、それが何か?って表情しとんねん。
「まぁええわ。ひとまず飯や。さっさと飯いこ」
「それは同意。すぐ行く」
うちは、この姉ちゃんに今後どうされてまうんやろ。
今はこうして手を引かれてるけど、下手打ったらほんまに危ないな。
「あと」
「なに?」
「このことは、あの二人には秘密やで。言いふらしたりするんやないで?」
「そんなことしない」
「ほんまか?」
そうは言うても結局、どっかで裏切るんやろ?
「本当。今言ったらいざというときに強請れなくなる」
「……!?!?アンタほんま性格腐っとるな!!!!」




