第四十六話 大正解
「正直ぐっとくるな……」
俺はその卵の殻の上にちょこんと座る幼女を見てそういった。
全裸のロリッ娘って、これは、変な扉を開けさせられそうだ。
「ハジメ、どうするの?焼くの?煮るの?炙るの?それともお刺身?」
「ん~無難に焼くじゃないですか?ハジメ様どう思います?」
見るからに、幼女が怯えているのがわかる。
そりゃ人語を話す状態で生まれて、いきなりどうやって食う?って話し合ってたら蛮族そのものよね。
「お、おまえら。すごいメンタルしてるな。それに、第一声が名前つけてくれじゃなかったか?」
生まれたての幼女の表情がパッと希望に満ち溢れた様子に変わる。
「そ、そやねん!うち、おとーちゃんたちに名前つけてほしいねん!!……このままこの兄ちゃん押し切るしかないで」
後半ぼそぼそと言っているせいでよく聞き取れなかったけど、名前を欲しがっているのはわかった。
それよりも、幼女を全裸で放置しておくのはよくないな。
ロングの髪と尻尾でちゃんと隠れているとはいえ、倫理が許さなそうだ。
「ちょ、ちょっとまってろ」
俺は荷物から野営用のローブを取り出し、幼女に被せた。
「……なんや、これ意外といけちゃうんやないか?」
「ん?なんかボソボソ話してて聞き取れなかったなぁ。もう一回いいか?」
「あ、きにせんでええねん!ほんま!いや、マジで!」
「ハジメ様。なんかこの幼女、変な訛りしてますね。不審です」
「こりゃ関西弁だ」
「カンサイベン?何かの技ですか?鞭とかそういうのを使った?」
「その鞭じゃない、訛りの、なんとか弁の弁だ」
「聞いたことないです」
「ラグも初めてきいた。でも、なんか。私可愛いですってアピールしてるみたいで、あざとい」
「……アカン。バレとる」
ボソボソ何か言った後、幼女は、こりゃもうだめだという表情でうなだれていた。
「君は、狐か何かの、亜人?いや獣人かな」
「ハジメ様!」
「ハジメ」
アリスとラグちゃんに止められるが俺は会話を続けた。
「そ、そうです!うち、正確には狐の聖霊が人の形になってるねん!」
「狐の聖霊かぁ、そういや日本の歴史に、そんな妖怪いた気がするなぁ」
「お、おとーちゃん?ちょっとだけ訂正させてや。うち、妖怪ちゃう。聖霊やねん」
このおとーちゃんって呼び方めっちゃくるな。
俺は顔を背けて両手で顔を覆った。
「ハジメ、聖霊ってどんな味?」
「たたた食べんといてや!なぁ、おかーちゃんとおとーちゃんはツガイなんやろ?うち娘になりたいねん」
「ツガイ?ハジメ、ツガイってなに?」
「んぁ?」
照れてたせいで変な返事になってしまった。
「ツガイってのは夫婦のことだ。結婚して将来は子供も~みたいな夫婦のことだな」
「ツガイ!!夫婦!!」
おっ?
ラグちゃんが急にキラキラしだしたぞ?
「ちょっと待ってください!!!なんでハジメ様とラグちゃんが夫婦で、私はおねーちゃん枠何ですか????」
「おねーちゃん、だめ?」
「ぐっ……。殺せ。可愛すぎるのは罪です……」
アリス、そのセリフはこの状況のセリフじゃないな。
アリスが萌え殺されたところで、俺はラグナロクに目を向ける。
ラグナロクは、もうキラキラした顔からルンルンになっている。
俺と夫婦と言われたのが嬉しかったのだろう。
さっきまで服が破れて落ち込んでたというのに。
あれ、こういう人心掌握がかなり得意な狐、それも九尾の妖怪が日本にいたな。
あーアレだ。
「玉藻」
「タマモ……?」
「そうだ。今日から君は玉藻だ」
思いっきり傾国の美女って設定の九尾の妖怪だけど。
確か中国だと妲己だっけ?
「ラグ、タマモのお母さん。ハジメ、タマモのお父さん。タマモ、二人の娘。……ぐふふ」
ラグちゃんが今までに見たことない気持ち悪い変態笑いをしている。
萌え殺されていたアリスが正気を取り戻した。
「もう名前まで付けちゃったんですね。私が悶えている間に……」
すると玉藻がトテトテと歩いて行き、アリスの足にピタッと抱き着く。
「タマモやで。よろしくなぁアリスおねーちゃん」
「はうぁあ」
アリスはそのまま鼻を抑えてベッドに倒れこんでしまった。
なんかこの娘、いろんな意味やばくない?
ラグナロクはまだルンルンしている。
「うち、おとーちゃんとおかーちゃんの娘になれてうれしいわぁ」
「おおっ。これはアリスじゃないが俺もやられそうだ」
既に、ラグナロクは攻略されている。
わずか十数分で玉藻は俺たちを攻略しきったのだった。
念のために説明しておこう。
玉藻だが、身長は俺の腹辺りまで。
つまり卵の中でちょうど立てるか立てないかというサイズ。
体型はそのまま幼女体型だが、なぜか会話がしっかりしている瞬間がある。
本当に幼女なのか?
胸まで伸びたロングの金髪で前髪の一部が銀色。
頭の上には三角の耳があって、九尾ではなく一尾な尻尾が生えていて同じく金色の毛並みだ。
白面金毛一尾の狐って感じだな。
「うちちょっとトイレ行ってくるわぁ」
そういって玉藻が部屋から出て行った。
生まれてすぐ、一人でトイレ行ける幼女って、これもう幼女じゃなくない?
まぁ妖怪の名前つけた俺も俺だけどさ。
「やった!やったで!なんとか生き延びた!今世最大のふぁいんぷれーやった!まぁ今世まだ十数分やけど」
扉をでたところでガッツポーズを決めながら小躍りをする玉藻だった。
『ハジメ、ちょっと聞こえる?』
なんていいタイミングで。
「ちょうど話したかったんだわ。あれ何よ?俺の思う卵じゃねーんだけど」
『アンタんとこの忠犬が卵欲しがってるって言ったんじゃない』
「それは確かに……」
これは確かに、そうだ。
『でしょ?アタシは何も悪くないし、ちょっとミスったけど、まぁよかったわ』
「あーあの黒い卵と白い卵のやつか?」
『それよ。捨てちゃったほうは、ジャック・ザ・リッパーの転生体が入ってたのよ』
「なんつーあぶねーもん用意してやがったんだ!!!」
切り裂きジャックなんて送り付けられたらたまったものでない。
仮に、勇者の手元に切り裂きジャックの卵が渡っていたらどうなっていたのだろう?
『今回は本気の良心よ。アンタんとこのアタッカー増やしてあげようと思って』
「敵にアタックさせる前に、俺がアタックされるだろうが。何をどうしたら、良心で切り裂きジャック送りつけてくんだよ」
『だって、あんたんとこ、アタッカーがあの娘だけで貧弱じゃない?』
「アリスだっているぞ」
『所詮人間レベルよ』
「人外集めてサーカスでもやれってのか?」
『真面目によ。いいハジメ。もしそっちの世界で、その世界にありえない物が出てきた時は注意しなさい』
「ありえないもの?」
ありえない物と言われても、俺には区別なんてつかないんだが。
『例えばそう。地球にしかないものとか生物とかそういうのよ』
「それがいたらどうなんだよ?」
どうなるか言ってくれなきゃこっちの温度感も変わってくるというものだ。
『危険とだけ覚えておきなさい。今後もアタシのおもちゃとして生きていきたいならね』
「それは正直、嫌なのだが……」
おもちゃと言われて喜ぶやつがいるとでも思っているのかこの悪魔幼女は。
『いいから!地球にしかいないものが見えたら危険と思う!はい復唱!』
「えー。地球にしかないものが見えたら危険と思ってロキを呼ぶ。これでいいか?」
『アタシを呼ぶのは余計よ』
「とにかく気を付けるよ」
『それでいいわ。それと、アンタが名前つけた玉藻だけど。ちょっと驚いたけど、そのまま日本の玉藻の転生体よ。よくわかったわね大正解だわ』
マジか。
てか、これはこれで地球にしかないものなんじゃないのか?
ロキってやっぱりアホの娘なんじゃ。
『心の声聞こえてるわよ。失礼ね。ずいぶん前にアタシが連れてきた日本の妖怪の転生体なんだからいいのよそれは』
「けっ。ご都合主義ごくろーさまですわ」
『日に日に可愛げが無くなっていくわね……』
「んなもん初期装備の段階から持ってねーよ」
すると玉藻が帰ってきた。
「おとーちゃん誰かとお話?」
「あーいいんだいいんだ。心汚い悪魔が囁きかけてきてるだけだから玉藻は気にするなー」
『失礼ね。まぁいいわ。じゃあ忠告したからね』
そういってロキは引っ込んだ。
地球にしかないもの……?
今のところは見えてないからいいのか……?




