第三十一話 体を躱しておけ
翌朝、俺は冒険者ギルドに足を運んでいた。
「エルマさんいますか?」
「ハッ、ハジメ様!どういたしましたか??」
少し顔を赤らめながら答えてくれる。
「ヴァルってところにはここからどのくらいでいけますか?」
「ヴァル……ですか?ヴァルでしたら、ミッドの先なので、ゲートを通ってから1日ほどですね」
「割と近いんですね。わかりました。行ってみます」
「あ、ハジメ様、ギルドマスターがハジメ様が来たら連れてくるようにと言われておりまして……」
忘れてた。
確かに、落ち着いたら来いって言われてたな。
「ハジメ。生卵いいの?」
「そうは言ってもなぁ。一応約束してるし無視ってわけにもなぁ。できれば今は忙しいから後にしろとか言ってくれたら楽なんだけどな」
額に手を当ててどうしたもんかと思っていると、遠くの階段から俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ハジメ来たか!関心関心。昨日の今日で来るとはいい心がけじゃないか」
ちっ。捕まったよ。
「あ、ああ。約束だったからな」
「冒険者たるもの、クエストだけじゃなく小さな約束も守ってこそだ。ちょっと会議室に来いや」
こりゃ逃げられないな。
なるべく早く切り上げるようにしよう。
「そういや、アリスはその後どうだ?」
「あーついさっき調子も戻ったみたいで、城に戻ったよ。会わなかったのか?」
「あれ。会ってないな。入れ違いになったか?」
「それにしても、その、魔剣?懐き具合が増してないか?」
「やっぱそう見えるか?剣の時は剣の時で目立ったけど、今の人型は人型でかなり目立つんだよな」
「そりゃそうだろ。そんな長身で美人の姉ちゃんがべったりくっついてれば誰だってそう思うさ」
ラグナロクは俺の背後にピタリと張り付き変わらず俺の首に腕を回している。
剣に生えた腕じゃない分幾分マシなように見えて、実際は剣の時より目立っているのは確かだ。
そうこうしているうちに会議室に到着して、ルードが少し真面目な顔になる。
「じゃあ昨日の続きだ。魔族をボコボコにしたところまでは聞いた。その先だ。昨日攻めてきたのも魔族で、狙いはどうやらお前さんだったみたいだがどうしてそうなったんだ?」
「俺にもわからないけど、いきなり攻めてきたんだ。それをかばってラグナロクは折れちまったし、相手の目的もなぁ」
「まぁ折れて今の姿ってのはハジメを信じるしかないとしても、狙ってきた理由がわからないとこちらも対策を打つべきなのか、報復するべきなのか判断できないのが困るな。他には何か言っていなかったのか?」
他と言われてもなぁ。
あの時は俺も精一杯だったし、相手が何を言っていたかまでは覚えていないんだよなぁ。
「お前が砂鉄集めのクエスト行ってるときに揉めたっていう魔族に関係はないのか?」
「あるっちゃあるだろうけど、小競り合いから魔族と命の取り合いなんて珍しくないんだろ?」
「珍しくはないけどなぁ、その中の誰かの家族が攻めてきたとか、もっとこう、ちょっとはわからんのか?」
ルードはまとまらない話にヤキモキしているようだ。
「あっ。そういえば、弟をイジメたのはお前かとか言ってた気がしないでもない」
「完全にそれじゃねぇか。おいハジメ。いや、小僧。それはかなり重要な情報だ」
明らかに呆れた表情でルードは両手で頭を抱えた。
「なんでだよ」
「考えても見ろ、相手は魔王軍所属の勇者って名乗ったんだろ?」
「そうだな」
「あのなぁ。勇者ってのは、魔王しか召喚できねーんだよ」
「だから何だってんだよ」
もっとわかりやすく説明してくれなきゃわからんがな。
「察しが悪いなお前。勇者が弟をって言ってんだ。つまりだ。お前は結果的に魔王にちょっかいかけたことになってんだよ」
なんですと?
「勇者。弱かった」
ラグちゃんは少し黙ってなさい。
「なんでそうなるんだよ。俺、魔王と面識なんかないぞ?」
「あるかどうかは関係ないんだよ。もしかしたら、砂鉄の時にお前にちょっかいかけてきたのは魔王の指示で、それをお前がボコったもんだから魔王は勇者を差し向けてきたって考えるのが自然なんだよ」
そんなん逆恨みですやん。
にしても、魔王ってのはそんなに短絡的なタイプなのか?
「どちらにせよだ。今回、お前に対して報復としてきたであろう勇者を撃退しているわけだから、魔王はかなりキレてると考えた方がいいだろうな」
断じて俺自身は何もしていないのだが。
主に、ミートパイ作ったのも、チャラついた勇者をサンドバッグにしたのも全部ラグちゃんなんだけどなぁ。
「まぁいい。それならそれでこちらも準備の必要がある。今話してくれた内容は国王まで話をあげて対策とることになるだろうな。ハジメ、しばらくこの国から離れておけ。いいな。連絡は冒険者カード経由で通達するから、今日中にでも荷物まとめて体躱しておけ」
おや、これは図らずもヴァルへの話が進ん談じゃないか?
「わかったよ。しばらくあのフカフカのベッドからさよならって考えると寂しいけど仕方ないか」
「まぁその間にこっちは冒険者集めて報復準備整えとくから、それまでだな」
報復報復って、ほんとこの世界の人争いごと好きだよな。
「じゃあルード。ちょっと俺ヴァルってところに行ってみたいんだけど、そこってなんか問題あったりするか?」
「ヴァル?お前知り合いかなんかいるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。武闘大会があるらしくてそれに出てみようかなって」
「武闘大会……。ははーん。お前優勝賞品狙いだな?暢気なやつだこんな時に。どうせ後ろの姉ちゃんがペロっと出場者平らげてくるんだろ?」
くっ。こんなに早くバレるとは。
「ま、まぁなぁ」
つい目をそらしてしまう。
他力本願だと笑いたければ笑え。
うちには、ラグナロク型キリングマシーンがいるのだから戦力カウントは当然だろうよ。
「優勝賞品もたしか卵だったな。ほんとお前、こんな時でも欲に正直なやつ」
「褒めてくれるなルードよ」
「褒めてねえよ」
話がまとまったところで、俺は冒険者ギルドを後にして城に戻ることにした。
出発前に話は通しておかないといけないからな。




