第二十九話 ラグちゃんはお姉さまにお怒り
ルードの追及はかなり長時間になった。
こっちは袈裟にバッサリいかれて傷は塞がっても体力とか血液とか足りてないんだからよしてほしい。
「それで小僧。そのボコボコにしたっていう魔族はそのあとどうしたんだ?」
前のめりで詰め寄ってくるルードの前にラグナロクが手のひらを突き出した。
「ハジメは今日疲れてる。話は別の日にして」
なんだ。
ただの女神か。
「お、おお。なんだかあのキモイ魔剣が喋ってると思うとなんだか不思議な気持ちだな。まぁいい。小僧。今日は帰ってゆっくり休め。体調が戻ったら顔出せよ」
「なんだか悪いな気ぃ遣ってもらって」
「気にするな。むしろこっちが命拾いしたのかもしれないからな」
「命拾い??」
「お前のその後ろからべったりくっついてる姉ちゃん。あんまり話引っ張ると殺すぞって殺気飛ばしてくんだよ」
やだ、ハジメ怖い!
「ラグナロク、そんなことしてたの……?」
ラグナロクは答えず頬を膨らませている。
「ラグちゃん」
「あー。ラグちゃん、そんなことしてたの?」
「してた。ハジメ疲れてるのにかわいそう。そんなのダメ」
ん~。キモイから重いになってるだけなんだよなぁ。
いや、重いのは前からか。
「じゃあルード、また来るよ。アリスのこと頼むわ」
「その辺は任せとけ。確かお前城に住んでたんだったな。多分国王あたりから質問攻めにあうだろうから覚悟しとけよー」
「それは仕方ないな。しっかり伝えとくよ」
俺とラグナロクはギルドを後にして、王城へ行くことにした。
王城に着くと、門をくぐってすぐにトールの姿が見えた。
左右に行ったり来たり。
おそらく俺とアリスのことを聞いたのだろう。
やっぱり親なんだなぁと思うものの、王様がそれでいいのかよと思ってしまうのとで半々という感じだった。
「ハジメ君!!!無事だったか!魔族と交戦していると報告があったものでな。心配していたんだ。アリスのことも聞いている。しっかりハジメ君を守ってくれたようでよかった」
後半は、親としては言いたくないが国王としては言わなければならないというような複雑な表情だ。
「俺がアリスに頼ってしまった為に申し訳ございません」
これは本心だ。
俺に戦闘能力があればと思う部分ももちろんある。
「いいのだ。アリスも冒険者をやっている以上、王族、王女という立場から考えれば褒められたことではないが、それ相応の覚悟は持っている。親としては複雑だがな」
「アリスは打撃戦までしていたため、いまは大事を取ってギルドで休んでもらっています。意識もはっきりしているので明日には戻れると思います」
「そうか。本当に良かった……」
少し涙を浮かべながらほっとしたような表情をしていた。
「して、ハジメ君。後ろの女性はどちら様なんだい?」
まぁきになりますわな。
「ラグナロクです」
「なんと!あのキモっ、いや、不思議な魔剣か!でもどうして人の姿をしているのだ!?」
今キモイって言いそうになったよね。
言えないよね。ラグナロクの視線キツイもんね。
「魔族と交戦した際に、ラグナロクが折れてしまいました。その際に、封印が解けたのか人型になりまして」
「そうだったのか。それにしても、ずいぶんとべったりと……」
アリスがあんな目に遭ったのに、何してんだという視線ではない。
ただただ困惑しているような視線だ。
俺の身長がおおよそ一メートル六十五という程度に対して、高いヒールに一メートル七十五の身長なのだから、見るからに細身の巨人かつ妙にスケスケなゴスロリがくっついているのだから、そりゃ困惑するだろう。
「剣の時も首にぶら下がってたのが、人になっても変わらずという感じでして。剣に戻れるのかどうかもわかりませんし、戻ったとしてもキモイのですが」
「どちらにしても、なんだ。厳しいなこれは」
ちょっと、哀れなものを見る目をやめてください。
「よし、わかった。今日は休みなさいハジメ君」
あ、考えるの放棄したな?
「では、お言葉に甘えてそうします」
正直俺も疲れてるしな。
俺とラグナロクは自室に戻った。
自室に着くと、緊張の糸が切れたのか、俺はベッドに倒れこんで天井を見つめていた。
横には人型ラグナロクが変わらずいて、こちらを見つめているが、こちらから目を合わせるとふっと目をそらす。
ヤンデレにかつツンデレなのだろうか。
思い返すと今日はひどい一日だった。
砂鉄を納品したと思ったら魔族に襲われて、ラグナロクが折れて。
折れたと思ったら人になって。
アリスがケガをして。
疲れてうとうとし始めた俺に誰かが声をかけてくる。
『ハジメ様。お疲れのところすみません。私の声が聞こえますか?』
この声は知っている。
おそらくこの世界にきた俺が最初に信用できそうと思った優しい声だ。
「聞こえますよ。ヘルさんお久しぶりです」
『よかった。応えてもらえなかったらどうしようかと思っていました』
「そんな。ヘルさんからならすぐにでもですよ」
『ありがとうございます。お加減大丈夫ですか?』
姿は見えないが、ぺこりと頭を下げる姿が想像できる。
「おかげさまで何とかという感じですね。ラグナロクも頑張ってくれました、というかラグナロクが何とかしてくれましたし」
『それはよかったです。姉上があいつもうだめだと不貞腐れてるのをみて心配していたんです』
「あーやっぱり、俺がおもちゃとして機能しなくなるのが嫌だったんでしょうね。ラグナロクが折れた時、呆れた感じで消えていったので」
『そうだったんですね。本当に申し訳ないです』
「いやいや、そうはいっても、多分予想ですが神界からはこちらに直接干渉はできないのでしょ?」
『ご明察です。誘導や干渉はできるのですが、起きている事象そのものをリアルタイムに書き換えるのはご法度なんです』
そんなことだろうとは思ってたよ。
あの時のロキの呆れ方は、おもちゃが人に壊されてどうにもならないけど誰も助けてくれない子供みたいな感じだったからな。
「ハジメ。神様とお話してる?」
「おお。今ヘルさんが声かけてきてな」
するとラグナロクは俺の額に自分の額を押し当ててきた。
不思議なことに俺の頭の中に声が響く。
「ヘル。私が誰だかわかるな?」
もうラグちゃんたら、俺の頭のなかで怖い声ださないで。
これ、多分俺を通して神界に声送ってるんだなぁと理解したあたりで、ヘルの方から椅子から転げ落ちるような大きな音がした。
『も、もちろんでございます!!!!」
「じゃあ、要件もわかるな?」
『要件……と、申しますと……」
「ロキ姉さまを、今すぐ出せ」
『か、かしこまりました!!!!』
ラグナロクは俺の額から少し離れると俺に言う。
「ロキ姉さまに、ハジメを見捨てたこと、メッってするからちょっと待っててね」
メッってあれか?
子供が悪いことした時のメッってやつか?
それとも、実は、滅と書いて滅ッって方か??
少し寒気がしてくる俺に、ラグナロクの温かい額がまた重なる。




