第二十七話 愛のボディフック
「そういえば登が、気持ち悪い魔剣がどうのって言ってたな」
そういうと勇者は踵を返すと大きく息を吸い込んだ。
「ノボル~~!お兄ちゃん、やったぞーーーー!!!」
何だこのふざけた野郎は。
ロキが言っていたように折れたラグナロクの先からは黒い靄が大量に出てきている。
「おっ!?なんだこの煙!!うわなんか甘ったるい匂いまでするぞこれ!てかあいつ!どこ行った!!」
おや。
俺のことを見失ったな?
敵前で背中なんて見せるからこうなるんだ。
むろん俺にも見えないが、移動してないのだからこのまま剣を突き出せば……。
これなら俺のこと見失ってるあいつを後ろから刺せるんじゃないか?
せめてこれで勇者を倒せば折れたラグナロクも浮かばれるんじゃないか?
忘れてはいけない。
折ったのはハジメである。
そうこうしているうちに辺りは黒い靄で充満していた。
「ここだぁ!!!」
俺は渾身の力で折れたラグナロクを勇者に向かって突き出した。
当然刀身が折れたラグナロクから斬撃が飛び出すでも、刃が届くでもないはずなのだが、何か固まりのようなものが飛び出た。
「……おふっっっ!!」
ズンっという何か超重量物が落ちたかのような音だけが響くと同時に、くぐもった声が聞こえた。
次第に辺りの靄が晴れて、俺の目には異様な光景が映った。
身長は一メートル七十五は有ろうかという長身。
スタイルは細身でどう見ても日に当たったことは無いだろうというほど白い肌。
地面につかんとばかりに伸びた黒い髪。
網タイツにシースルーのフレアスカート。
頭には小さなボンネットを載せて、指先は黒くとがったネイル。
ヒールを地面にめり込ませて軸足が地面を捉えるほどの踏んばりを効かせたボディフック。
……ボディフック??
「ねぇねぇ。あのさぁ。あたしのハジメにさぁ。なぁにしてくれちゃったの坊やぁあああ!」
えっ、何あの怖い女の人!!!
その女性はとてもとても怖かった。
だってさ。
拳が風切り音させながら勇者にめり込むんだよ?
どんっ……。
「ぐあぁ」
「ハジメがぁ!」
ズンっ……。
「うぉぇえ」
「坊やにぃ!!!」
バキっ……。
「た、たはぁぁぁ」
「なにしたのかなぁああああ」
ドサッという音と共に勇者は地面に寝ていた。
何とか起きようとしてるがそれを見下ろしながらヒールで勇者を踏みつけ怒声を浴びせている。
「やだやだやだ。死んじゃだめ!!もっと聞きたいことある、、、の!!!だからぁ、起きろクソガキ。殺すぞ……」
ごめん。
俺、漏らしたかもしんない。
母さん。
なぜに俺はこんなにも怖い思いをしなければいけないのでしょうか。
勇者は何とか立ち上がると壁にもたれかかっている。
その前に立ちはだかり、その怖いお姉さんは言う。
「知ってるか?クソガキ。頭の後ろに固いもの置いてさ、そこに拳を落とすとどうなると思う?後ろの固さが手伝って、すごい威力になるんだってさ。勉強になったなぁ。じゃあ、殺すぞ」
だからもう、こわいってぇええええ。
勇者はそれを聞いて、何とか壁際から脱出しようとすると、さらに左のボディフックを喰らう。
ドスッ……。
「ぐぅぅぅ」
怖いお姉さんは上半身をゆらゆらと八の字で横に振っている。
「あっ、ちょっとそれ待って、あ!!!それデンプシー……」
怖いお姉さんは止まらなかった。
左右から振り出す強烈なフックが勇者に倒れることすら許さない。
次第に、勇者のうめき声すら聞こえなくなり、ついには鈍い音しか聞こえなくなり。
糸が切れたように勇者は倒れた。
明らかに真っ黒なその姿の後ろから俺は声をかける。
「お前、ラグナロク、、、、か??」
「ハジメ!ハジメをイジメる悪いやつ、やっつけたぁ!!!」
さっきまでの凶悪な表情はどこにやらで満面の笑みで俺に抱き着いてくるやせ型巨人な女性は、人の姿をしたラグナロクだった。




