第二十四話 兄は最強の守護神
朝食を取りながら俺はアリスに質問していた。
「なぁアリスさ。昨日の、こちらの引けない理由って何だったんだ?」
するとアリスは顔を赤くしてもじもじしている。
ん?なんか変な事聞いたのか?
「それはですねハジメ様。えっとですね。そうですね、うーんと」
なんだか歯切れが悪いな。
「言えないことならいいんだけどさ」
「いえ!言えます!えっとですね」
そういってアリスはテーブルの上のコップを取り一息で水を飲み干す。
「言います」
そんなに覚悟の必要なイベント!?
「引けない理由は、磁石デートが妨害されるからですっ!!!!!!」
「磁石デート!?何その怪しい逢引!」
「磁石デートは磁石デートです。ハジメ様と初めてのお泊りをしつつ、磁石で初めての共同作業です。砂鉄を集めるなんて口実です。ハジメ様との磁石デートが引けない理由です!!」
真面目に聞いた俺が馬鹿みたいだ。
「お、おう。そうか。わかった。アリスたん女神から変態に降格」
「なぜ!?」
こんな感じで俺たちはまぁ平和に二日目以降の作業に入っていったのだが、穏やかじゃないのは魔族側だったようだ。
ーー魔王城ーー
「魔王様。人間側に魔剣が現れました」
「そうか。やはりこの邪悪な感じは魔剣だったか」
魔王が邪悪な感じとか何言ってんだこいつ。
「して、そ奴は強かったのか?」
「えぇそれはもう。ですが強いのは魔剣で、使用者はむしろ弱いというか、何なら犠牲になっていたというか」
「犠牲?それはどういうことだ?説明しろ」
「はいぃ。恐れながら申し上げますが、回転するのでございます」
「回転……??」
そりゃ魔王様もリアクションに困るよね。
「はい。使用者の首に腕が引っかかってて、魔剣がぐるぐる回転するんです。その速度たるや光の速さと見間違えるほどでございました。そして」
「そして?」
「見た目が、きわめて気持ち悪いのでございます」
「そ、そうか」
ほら、魔王様もどうしたらいいか困っちゃったじゃん。
「仕方あるまい。こちらも勇者を呼び出すしかないということか」
「勇者でございますか!?!?しかし、勇者召喚には触媒が必要と聞きますが」
「昨日手に入ったのだ。かの王に使えたとされる騎士の名前を持つ聖剣ランスロットをな」
「真でございますか!!それであれば儀式はすぐにでも?」
「それがいいだろう。果たして素直に魔剣の討伐に出向いてくれるかどうか。交渉が必要になるな」
よくよく考えたら、なんで魔王が勇者召喚?と思うが、この世界はそれだけ歪んでいるのだろう。
魔王は眉間にシワを寄せながら、こめかみを抑えている。
「あーほんと頭痛の種がなくならん。ひとまず儀式の準備だ、支度しろ」
「かしこまりました!!」
バタバタと準備に追われる家臣たちが勇者召喚の儀式を整えるなか、魔王は深いため息を漏らして独り言をつぶやいていた。
「なんで日本でいじめられてた俺が魔王とかなっちゃうんだよほんとさぁ……」
そう。魔王もこっちの世界に来てしまった日本人である。
それも、ハジメからするとずっと若い年齢でこちらに来て、転生時に得たスキルである覇者が勝手に作用して勝手に魔王まで上り詰めてしまったのだった。
「はぁ。帰ってゲームしたい……」
「魔王様!」
「あ、はい!じゃなくて、うむ、どうした?」
「儀式の準備が整いました。ランスロットをお持ちになってこちらへ」
「わかった先に行っていろ」
「かしこまりました!!」
そういって家臣たちは先に儀式場にむかった。
「やっぱやりたくないよぉ。ランスロットだって、ちょっと中二な名前に惹かれて探しただけなのにさぁ。見つけたら聖遺物とか聞いてないもん。儀式とか怖すぎるし」
魔王の足取りは極めて重かった。
「魔王様こちらです」
「うむ」
そういって魔王は台座にランスロットを突き刺し、魔力を込めていく。
次第に魔法陣が光だし、次の瞬間爆発のような煙とともに青年が現れた。
「げっほげっほ。なんだこれっ。うわっ、ここどこだよ!?」
「おおお!成功しましたぞ魔王様!」
「う、うむ。でもこの人って……」
「もしかしてお知り合いですかな?」
「いや、知り合いというか、兄ちゃん、だな」
「魔王様の兄君!?」
どうやら魔族側も荒れているらしい。
「ん?おお?登じゃないか!」
「あ、兄ちゃん登はやめてここでは魔王だからっ」
「何言ってんだ登!いや、登!なんでビルの十階から飛び降りなんて自殺なんかしたんだ!?」
「あーそうなっちゃうよね。兄ちゃんちょっとこっち来てくれる?」
「魔王様、我々は……」
「みな、よくやってくれた。ひとまず解散して体を休めてくれ。兄ちゃんは急いでこっち来て!!!」
なんだか雲行きが怪しい感じになってきた。
場所が変わり魔王の私室でしばらくぶりの兄弟の対面である。
「まぁひとまず登が無事でよかった。いや、無事じゃないのか?てかここはどこだ?」
「落ち着いて兄ちゃん。ちゃんと説明するよ。まずここは俺たちがいた世界じゃなくて、所謂異世界だよ。そこで俺は自殺した後ここに転生して今は魔王ってことになってる」
「異世界?そんなの信じられるか」
「信じてもらうしかないんだよ。それに俺のここ。こんなの無かったでしょ?兄ちゃんにもあるよ」
そういって魔王は自分の額の角を指さす。
「確かに。まぁ登が言うんだからそうなんだろうな」
「わりとあっさり信じてくれるんだね」
「まだ信じきれないけど、登に会えたしな。それに親もいない俺たちだ。こうなっても困ることは無いさ」
「ポジティブだなぁ兄ちゃんは」
やれやれという表情で魔王は兄を見る。
「そういえばさっきお前の部下?みたいなやつが成功したって言ってたけど」
「そうそう!そうなんだよ。今、人間側に、あ、俺らが魔族ね。人間側に魔剣っていう危険な武器が来て、ここが攻められそうなんだ」
「そうなのか!?やばいじゃねーか!」
「そうなんだよ。それで対抗するのに、勇者召喚したら、兄ちゃんが来ちゃったってわけ」
「まぁ任せろ。登は兄ちゃんが守ってやるからな!」
兄の姿は弟を守るんだという強い意志を感じのだが、どうも楽観的な感じが否めない。
「変わらないなぁそういうところ、そういえば兄ちゃんのパラメーターってどうなってる?」
「パラメーター?」
「そう。兄ちゃんのステータスみたいなやつ」
「見方がわからん。どうすればいいんだ?」
「パラメーターって念じればいいよ」
「よし、じゃあ行くぞパラメーター!!!」
目の前に広がる兄のパラメーターに弟は困惑した。
「兄ちゃん、このブラコンってなによ……」
ちなみに忘れてはいけない。登が飛んだのはビルの十階である。
ハジメが身代わりに飛んだのもビルの十階である。
つまり、ハジメは助けたつもりだが、単純に二人で飛んだだけということである。
話はハジメたちの動向に戻る。




