第二十二話 離れない磁石
俺は四角柱を抜き取ったまま近づけてみる。
すさまじい反発力を感じる。
どうやら成功したらしい。
だがアリスから見たら、棒を必死にくっつけようとする不審な人に見えているようだ。
「ハジメ様それで、今何をなさってるのでしょう……?」
「あー悪い。これな、ちょっと持ってみろ」
俺はそのままアリスに手渡す。
「すごいです!これなんだ間に何か挟まっているみたいに近づこうとしません!」
「だろ?じゃあ片方を上下反転してみてくれ」
「こうです、か?きゃっ」
反転する。
つまりS極とN極を入れ替えるわけだから一気に磁石はくっつくわけだ。
かしゃんという音を立てて、二つの磁石がくっついた。
あれちょっと待て。これどうやって分離すればいいんだ?
「ハジメ様!今度はくっつきました!!これなんていうものなんですか?」
「これは磁石。俺の世界では当たり前のものなんだけど、この世界だと初めてみたいだな」
「はい。こんな鉄の棒初めて見ました」
「じゃあこれはどうだ?」
俺はアリスの腰に下がる金属製の剣に磁石を近づけた。
カチン。金属の音をさせて鞘が磁石に張り付いた。
「こ、これはハジメ様!?」
「すごいだろ?つまりこれは鉄にくっつく鉄ってことだな」
「つまり?」
「これで砂鉄だけを集めるってことだよ」
「すごいですハジメ様!さすが御遣い様です!私たちには及びもつかない知識を持っていらっしゃる!!」
いや、義務教育の理科の実験レベルなんだけどな。
まぁ褒められて悪い気はしない。
「ただ、問題がある」
「何でしょう?」
「これ、取っ手も何もないから二つくっついたこれをどう引きはがそう」
「この小さい隙間に先のとがったものを差し込んだら何とかなりませんでしょうか?」
てこの原理ってか。
でもそんな都合よく先のとがった固いものなんて……。
おや?
俺はラグナロクに目を向ける。
まぁ向けるのは俺の首にぶら下がった腕なんだけどさ。
ラグナロクも何かを察したらしい。
今までで一番の振れ幅で拒否しているみたいだ。
「頼むってラグナロク!お前じゃなきゃ無理そうなんだよ!なっ?今日の夜も抱き枕にするからな?」
次第に振れ幅がおさまり、観念したようなラグナロクで無理やり磁石を引きはがした。
ガリッ……。
ガリガリ……。
「「ハジメ。痛かった。ひどい」」
「まぁそういうなって。お前のおかげで助かったよ」
ガリッ……。
「「折ろうとした」」
「してないって」
ガリッ……。
「「嫌いなんだ」」
「嫌いじゃないって」
ガリッ……。
「「ほんと?」」
「ほんとほんと」
ガリッ……。
「「じゃあ。好き?」」
「好き好き、大好きだわ」
ん?俺テキトウに返事して失言が!!!
ガリッ……。
ガリガリガリガリ……。
「「ハジメ。好きって。言ってくれた」」
「ちょ、まてそんなこと書くんじゃありません!!」
ガリッ……。
「「嘘ついた?」」
くっ。言質を取られた俺の負けか。
「嘘じゃない嘘じゃない。だからな?ここに書くのはやめよう。な?」
ガリッ……。
「「わかった。ハジメ。好き」」
うわー重てぇぇ。
だが俺はアリスの嫉妬に狂ったような視線を忘れない。
「ハジメ様。抱き枕という件についてご説明いただいても?」
「うっ……」
そのあとかなり深い追及をもとめられ、やむなく撃沈。
これまでの経緯を話すことになった。
その後どうやらラグナロクとアリスとの間で会話があったようで、日替わりで俺のベッドに入ることになったらしい。
誓って言うが俺から頼んだんじゃないからな。
それはさておき、明日は砂鉄とりだ。
この秘密兵器があれば砂鉄もじゃんじゃん取れて楽勝なクエスト間違いなし。
「棒を突っ込めば砂鉄がとれる簡単なお仕事だわ。ぐふふ」
「ハジメ様ちょっと顔怖いです」
失礼な。
翌朝、俺とラグナロクとアリスはゲートを通って採掘場へ向かった。
どうやら先客もおらず俺らだけのようだが、かなり遠くの方では大人数の一団が採掘しているのが見える。
まぁこれが魔族なわけだけど、あれだけ離れてば問題無いだろ。
「アリス。この辺にしよう」
「わかりました。では例の秘密兵器ですね」
「そうだ」
アリスは砂鉄入れの袋から磁石を取り出す。
「具体的にはどう使うのですか?」
「まず、磁石に布を被せる。これが無いと砂鉄が離れなくなるからな。そしてその布越しに砂地に磁石を突っ込むとっ!ほら見ろ」
俺の手元には二、三キロは有りそうなほどの密集した砂鉄がついていた。
「すごい。こんなことができるのですね!!私も取り掛かります!」
アリスの手伝いでガンガン採集し、あれよあれよと砂鉄が集まっていった。
気づいた時には俺らの周りには人だかりができはじめていた。
だが、集まってきたのは人間ではなかったのが問題だった。
「おい兄ちゃん。ずいぶん面白いもん持ってんな」
なんで今日にかぎって豪運も運+99も仕事してないんだよ。
ちなみにラグナロクは昨日の磁石引きはがしの件から、闇属性な愛情表現なのかなんとなく気持ち悪いオーラを発し続けている。




