第二十話 ラグナロクのお仕事
へパさんの号令でラグナロクの鞘への強化魔法の付与が始まった。
どうやら、切れすぎるラグナロクを納めるには、固い外装になる鞘の内側に仮想環境を作るらしい。
仮想環境?なんだか元エンジニアからすると引っかかる言い回しだな。
つまり、ラグナロクは鞘の中にはあるが鞘の中には物理的には無いというようなイメージで強化した鞘に納まることになるとのことだった。
「ラグナロクだからねぇ、かなり強力にアクセスできないぐらいの仮想環境にしておかないとすぐ突き破るだろうから、こっちの魔力消費がキツイわ」
そうぼやきながら魔力を流していくへパさん。
「ラグナロクよ。お前そんなに厄介なほど切れちゃうの?」
「「切れちゃうよ」」
これどっちのキレちゃうなの!?
「さて、こんなところだろうね。納めてみな」
俺は言われた通りにラグナロクを鞘に納める。
ふと鞘の一部から長い紐がクロスして伸びているのを見つけた。
「あれへパさんこれは?」
「あーそれはね。その娘のオーダーで、揺れて困るときは縛り付けられるようにって紐付けてくれって言われたんだよ」
おっとラグナロクがいい娘に見えてきたぞ。
「なんでも、普段から縛り付けてくれてもいいってさ」
前言撤回。やっぱキモイわ。
「とりあえず背負ってみるか」
俺は鞘付きのラグナロクを背中に担ぐ。
「あれ、前より重さが無い気がする」
「そりゃそうさ。網目構造にした鞘は計量だし、中は仮想環境で物理的に遮断してる。つまり今のその娘の重さは柄と腕と多少の鞘にフリフリ分ぐらいの重さだから刀身の重さが丸ごと消えてるんだよ」
「なるほど、こりゃいいや。移動が楽になる」
そういって横にある姿見を見るとそこには変態が映っていた。
冒険者の服装に首には女性の腕。背中にはマントのように広がる真っ黒なフリフリ。
「これ、前の方がいいかもしんない」
ラグナロクは上機嫌なようだ。
前後左右うに刀身が振れている。
まぁ痛くないからいいか。
「でも確かに軽くなったわ」
「いい感じだろ?」
「そうですね。見た目さえ、見た目さえ何とかなれば最高品質でした」
「ラグナロク!よかったねアンタのご主人も、アンタが軽くなって楽になったってさ」
なおブオンブオン振れ回るラグナロクだが、軽くなったことと刃が当たらない分かなり快適だ。
するとラグナロクが俺の前に回ってきて文字を書きだす。
ガリッ……。
「「でも思いは重いよ」」
うっ……。
やっぱ折った方がいいかもしんない。
「ほんと愛の塊って感じだわね」
「冗談じゃないっす」
「さぁてと。これで品物も渡した。それじゃあこっちの依頼を聞いてもらうよ。問題無ければ冒険者ギルドに指名依頼で出すからね」
「わかりました」
さて、どんな無理難題を吹っ掛けてくるやら。
ラグナロクが仕事するって言ってんだからやっぱり討伐系だろうか。
「仕事内容は採集クエストだよ。どちらかというと採掘に近いけどね」
これは想定外だ。
「採集ですか。んで、何を持ってくればいいんです?」
「砂鉄さ」
「あー砂鉄ねはいはい。公園とかで磁石でとるあれね、って砂鉄!?」
「そう砂鉄。アンタの言う磁石ってのは知らないが、玉鋼を作る材料になるものだよ」
「知ってます」
「だろうね。これは昔日本から来た刀鍛冶が持ち込んだ製法だからね。今じゃこの世界では武器の原料の一部になっている。正直オリハルコンとかヒヒイロカネなんかより入手難度は高い」
「砂鉄が?あんなの砂場でいくらでも手に入りますよね?」
俺はきょとんとしてしまうがすぐに気付く。
あー磁石が無いって言ってたな。
「何言ってんだい。取れるところも決まった場所しか取れないし、それに砂の中に紛れ込んだ砂鉄を取るなんて並大抵の労力じゃないんだよ。危険はないが労力が高い。アンタにピッタリだろ?」
これは下手なことは言わない方がいいな。
そもそもラグナロクが仕事するって言ったのに、実働は俺じゃないか?
いや、それも今は考えるまいよ。
我に秘策有り。
「わかりました。かなり厳しいクエストですが受注させていただきます」
「いい返事だ。それじゃあこれからギルドに行って受注処理してきておくれ。労力が労力だからね、期間は移動往復はゲートでいいけどそこから海岸まで行くから往復で一日として、現地で野営してもらいながらだから中六日の一週間ぐらいかな」
割と具体的な数字だな。
まぁこれならアリスを連れて行かなくてもいいか。
「ほかに気を付けることと言えば、そうだねぇ。あの地域は魔族がたまにウロチョロするらしいけど、そいつらも魔王から砂鉄とってこいって言われててアンタに構ってる暇ないだろうから心配いらないよ」
どこの世界も上司は絶対か。
「わかりました。じゃあ結果期待しててください」
「あいよー期待しないで待ってるよ。そうそう忘れるところだった。砂鉄はこの袋に入れて持ち運ぶんだよ。砂も一緒に入るだろうけど概ね一トンは入るはずだ。満タンまで頼んだよ」
おいおい人力で一トンかよ。
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます」
俺はその足でアリスのもとへ向かった。
向かう途中三センチ四方で三十センチほどの四角柱みたいな鉄の棒を忘れず購入して。




