第百四話 みんな人が悪い
「オトン!」
神界から戻った俺たちを最初に出迎えてくれたのは、玉藻だった。
「わりぃ。心配かけたか?」
戻ってきた場所はあの高級店から出てすぐの場所だったが、なぜか人だかりができていた。
「いや、別にオトンの心配はしてへんねん。ねーちゃんというかあのおばんを止めたってーな!」
ちょっとは心配してよと思ったが、ロキに神界に来いって声かけられてから神界に行ったわけだし、まぁこんなもんかと思ってしまう俺がいる。
ん?
アリスとギネヴィアを止めてくれ?
「説明は、見たらわかる! いいから早よきて!」
「お、おおい」
俺は玉藻に手を強引に引っ張られながら人だかりの中に入っていく。
そこには、掌を額に当ててどうしたもんかと悩んでいるマサル。
ギネヴィアにまぁまぁと何とかなだめようとした後、鋭い視線で黙らされているランスロット。
後ろ姿だけで怒り心頭であることが読み取れる割烹着のギネヴィア。
そして、アリスの右足に絡みつくようにしがみついている我らが変態エクスカリバー。
「なにこの惨状……。なんでうちのメンバーが人だかりのど真ん中でこんなことになってんの……?」
俺はふとラグナロクの方を見るが、ラグナロクは両手でエクスカリバーたちを見えないようにしている。
「ラグちゃん?」
「し、知らない人です」
す、すげぇ。
ラグナロクにこの言葉を言わせるとは。
とはいえ、俺にも状況がつかめん。
「玉藻、これどういうことよ。見てもわからんのだが」
「つまり、こういうことや」
そういって玉藻がエクスカリバーを指さす。
「だからどういうことや! って、違う。どういうことだ!?」
俺が悲しく突っ込んでいると、アリスが俺に気づいた。
「ハジメ様! お戻りで!」
アリスが右足にしがみついているエクスカリバーを引きずるように俺の元に寄ってくる。
「あ、ちょっと待ってアリス。いや。間違えた。ど、どちら様でしょうか……」
俺も目を背けてしまう。
「ハジメ様! いまそういうのはいいんです! エク君を何とかしてください!!」
俺はため息を一つ吐き、諦めという気持ちを心にインストールしていく。
アリスが俺に助けを求めたことで、人だかりの群衆は一斉に俺に視線を向けている。
「で、エク君。何やらかした?」
「お、お館様!」
エクスカリバーが仲間を見つけたような顔で俺を見てくる。
やめてくれ、俺まで仲間認定されるだろうが。
「もう! もう! 私は我慢の限界なのである!」
「なんの我慢が、どう限界なんだよ。簡潔に。一文字で」
「い、一文字!? お館様、そ、それは無体なのである! さすがに表現しきれないのである!」
「わかった。言い残すことはあるか?」
「殺されるのであるか!?」
俺たちがまるでコントのような会話を繰り広げている間に、ギネヴィアが俺の側に来て耳打ちする。
なんでも、突然エクスカリバーが我慢の限界を宣言し、アリスの前で椅子になったと。
なるほど。
分かるが、わかったら俺に飛び火するな。
「よし。エク君有罪。すぐ処刑しよう」
「なぜであるか!? ギーネを愛している! しかし、主の椅子にならずして何が騎士か!」
「いや、騎士は椅子にならねーんだよ」
「カムランを出て幾年月、さすがに私も抑圧されていた願望が漏れ出てしまったのである」
「幾年月も経ってねーよ。よくて数日だ。こらえ性の無いやつめ」
「オトン。この変態はどうでもええねんけど、私このみんなの視線キツイわぁ」
玉藻も人々の視線に耐えかねている。
「エク君のせいで、うちの可愛い娘が困ってるじゃねーか。ラグちゃん剣モード」
ラグナロクは返事も無く即座に剣になって俺の手に納まった。
「いきなり介錯なのであるか!? ちょっとくらい私の意見を!! お館様、目がマジなのである! 踏みとどまるのである!」
そう叫びながらも駄々っ子のようにアリスの右足から離れずわめいているエクスカリバーの鎧がガシャガシャと音を立てている。
「おめーらうっせーんだよ!!」
鼓膜を破るような声量で怒号が聞こえる。
ギルドの方から見慣れたオッサンが歩いてくるのが見えた。
ドリトンが明らかに怒った表情で額に多くの青筋を立ててこちらに歩いてくる。
これはさすがにやばいか。
「人が療養中だってのに、騒ぎやがって! いい加減にしねーとぶった斬るぞテメーらぁ!!」
マジ切れじゃねーかよ。
それもそうか。
ギルドのド真ん前でこれだけ騒げばさすがにか。
「わ、わりぃ」
素直に謝ってしまう俺を誰も責められんだろうさ。
ラグナロクも気づいた時には俺の手元から離れて、少し離れたところで他人ですというオーラを出している。
「ハジメぇ。お前がいてなんでこうなってんだよ」
「俺も今帰ってきたところなんだって」
「帰って来たところだぁ!? ここにどっか行くとこなんてねーだろうが」
「ロキんところに呼び出し食らってたんだよ」
「……そうか」
ドリトンも神様相手ではどうにも文句を言えない様子だ。
しかし、振り上げた拳の向け先が見つけられないドリトンがどこかに八つ当たりする前にこの事態を納めないとか。
「闘技場って今使えるか?」
「んあ? あぁ使えるぞ」
「だったら話は早い。エク君椅子!」
「お、お館様! 良いのであるか? 良いのであるか? では失礼して」
エクスカリバーがいそいそとアリスの右足を放し、その場で椅子の姿勢を取ろうとする。
俺はギネヴィアに耳打ちする。
「ここに闘技場がある。そこで旦那の調教をしてきてくれ。シバく火力はここにいるドリトンを使っていいから」
そういうと、ギネヴィアはピンときた表情をする。
「お館様が話の分かる人でほんまよかったわぁ。闘技場借りますえぇ」
「あ、主。まだであるか? 私はもう待ちきれ、はっ!!」
エクスカリバーは自身の腕に、ギネヴィアの鞭が巻き付いていることに気づいた。
「お、お館様! まさか裏切っ……。や、やめてくれギーネ! 引きずらないでほしいのである! 歩けるのである!!」
そういってエクスカリバーは闘技場へ引きずられて護送されていった。
「ドリトン。怒るのも理解できる。ここはひとつ、うちの変態にその拳を振り下ろすということで手打ちに」
「お、お前だいぶ性格悪いな」
ドリトンですら引いている。
「まぁ、病み上がりの身体に、無抵抗なサンドバッグはありがたい。それがこっちより強い聖剣様なら格別だ」
このオッサンもだいぶ人が悪い。
というか極悪人じゃないか。
ドリトンは若干よくなった機嫌とともに、引きずられていったエクスカリバーを追っていった。
仲裁しようとしていたランスロットは、目が点になったまま固まってしまっていた。
「ハジメ、お前すげーな。俺じゃどうにもできなくてよぉ」
マサルが寄ってきて話しかけてくる。
「俺にかかればあんなもんよ」
「ちゃう。単純に仲間を売っただけや」
「手厳しいな玉藻」
「……でも、最善手やったでオトン」
玉藻がニタっとしながらこちらを見てくる。
お主も悪よのぉ。
というか、うちのパーティ人間荒んでるやつしかいねーのな。
数時間して、全身に鞭の痕を残したエクスカリバーと、やたらといい汗かいた感を出すオッサンが戻ってきたが、エクスカリバーはしばらく俺と口を利いてくれなくなってしまった。
「お館様は裏切りものなのである」
「アーサー様?」
「そんなことないのである」
まぁギネヴィアがいれば大した問題にはならん。
「そ、そうだよ!」
俺は思い出したように言う。
「どうされたんですかハジメ様!?」
「すぐニブルに戻って王様と話さないと!」
「お父様と!?」
「そう! 仕事しなきゃいけねーんだった!」
俺は説明は移動中にすると告げて、ドリトンに馬車の手配を頼み、ヴァルからニブルへ向けて戻ることになった。
転移する中継地点まで可能な限り急がせたが、まぁそこは多めに見てくれと心から思う。
神界から出るときに、追加の指示が来るかもしれないとヘルが俺の胸ポケットに突っ込んでくれた、もとはロキ宛てだが俺のメッセージに書き換わってしまったビューレイストからの手紙が気になる。
なんとなく、手紙が更新されていないかドキドキするが、ニブルに着いたら見てみることにしよう。




