第百五話 そんな簡単な事ではない
アリスたちに、俺がビューレイストから受けた仕事の話などを説明しつつニブルに着く直前のこと。
転移をする時だった。
「俺らはここで一旦離れるわ」
マサルが少し名残惜しそうな顔で話し始めた。
「俺と、ノボルは魔王城にいったん帰るよ。目的は果たしたしな」
そもそもマサルが来ていたのはノボルとニブル国王との間での和平の為だった。
途中カーリーからの襲撃や天邪鬼との戦闘でニブルとヴァルを行ったり来たりになってしまったが、本来の目的は既に達成している状態である。
「残してきた配下たちも心配ですので。ニブルに残っているうちの配下もじきに引き上げると思いますので。何かわかれば冒険者ギルドを通じてご連絡しますね」
「わかった。じゃあ俺たちの方も何かあったら連絡するようにするよ。あと数日でカーリーが復活するかもって状況だし、人間側も魔族側も確認しておきたいこととか準備したいこととかあるもんな」
「ご理解いただけて助かります。では。兄ちゃんいくよ」
そういってノボルはマサルの背中におぶさり、魔法を唱えた。
「ちょっとまてノボル。兄ちゃんまた身体強化で走らされるのか……?」
「その方が早いんだから、兄ちゃん頑張って!」
「ぐっ。これやった後筋肉痛やばいんだぞ……」
「大丈夫大丈夫、ランスロットで常時回復ついてるんだから!それにここからなら魔王城までそこまで遠くないし、ニブルから来たほどのダメージは無いよ」
マサルはブラック企業の上司から言い渡された残業通告のようなノボルの言葉に心底落胆している様子だった。
「じゃ、じゃぁハジメ。俺が生きてたらまた会おうな……」
「なんで無理やり死亡フラグ立てんだよ」
「そのぐらいのダメージなんだよ……」
マサルは諦めたように、来た道を逆走して走り出した。
「綺麗な死亡フラグやったなぁ。なむーやで」
玉藻が合掌して走っていくマサルの背中に向けてつぶやいた。
「縁起でもないこと言わないの」
「あでっ……。なんで叩くん!? またオトンのでぃーぶいやな!?」
「俺はいいんだよ。でも娘には躾けが必要だからな」
「不公平や! 私は認めへんで!」
「はいはい。みとめたくないねー。じゃぁニブル帰ろうねー」
「ちょっと待ちぃ! 話は終わってへんねん!」
俺は駄々をこねる玉藻を引きずるように手を引いて転移をくぐった。
俺に続いてラグナロクも、アリスもエクスカリバーたちも転移したのだった。
「よかった。こっちでマサルがアメノサグメと戦ってくれたから、ヤバイことにはなってなさそうだな」
「あんなんでも勇者やからな」
俺に手を引かれた玉藻が答える。
目の前にはいつもと変わらないニブルの街が広がっていた。
しかし、冒険者ギルドの前には立て看板がたっており、臨時休業の文言が書かれていた。
「たぶんここで戦ったんだろうな」
「マサルとランスロットでも苦戦したのかな?」
ラグナロクが少し真面目な顔をして俺に聞いてくる。
「どうかなぁ。俺らのところに来た時はアメノサグメは切られて麻袋詰めにされてたし。案外楽勝だったのかもしれないな」
「だったら、ラグはもっと強くなって天邪鬼に苦戦したなんてことなかったぐらい成長しないといけないね」
「ラグちゃんがこれ以上強くなったら、歩く兵器になっちゃうけどね」
そんなこと知りませんという顔でラグナロクは何か強めの決意を固めたように見えた。
明るそうな表情で胸の前で拳を握るラグナロクを見るに、なにか落ち込んでいるというより次の目標を見つけたという方が近いのかもしれない。
「おお、小僧も無事だったか」
聞き覚えのある声がする。
「ルード!」
ニブル冒険者ギルドのギルドマスターであり、アメノサグメに縛られていたルードが松葉杖をつきながらこちらに声をかけてきた。
アメノサグメの襲撃と、マサル、ノボルの戦闘で助けられたこと、職員は無事だがしばらく休暇にしていることなどなど説明された。
「まぁオッサンも無事でよかったわ。星になっててもおかしくねぇ状況だったみたいだしな」
「まぁな。あれはちょっと俺もやばかった。認めたくねーが敵だと思い続けてた魔王と勇者に助けられちまったからな」
ルードは少し複雑そうな表情をしながら話すが、さすが冒険者を取りまとめているだけあって、命あっての物種という事実を素直に受け止めているようだった。
しばらく話し込んでいると、俺の胸ポケットがうっすら温かさを帯びてきているのを感じた。
「なんか胸ポケが温かい気が……」
俺は胸ポケットを手で押さえると、手紙が発熱していくのを感じる。
「これやばいかもしれん」
俺は胸ポケットから手紙を取り出そうとしたが、手にした時には摘まむのがやっとというレベルで発熱していた。
「なんだかものすごい圧力を感じますね」
アリスも触れてはおらずとも手紙から発せられる雰囲気を感じ取っているようだった。
「この熱、神力が漏れ出てるね」
「お館様、送り主に何か悪さでもしたのではないか?」
ラグナロクとエクスカリバーも参加してくる。
「悪さなんて……? 教会建てろって言われて急いで帰って来たわけだし」
俺はやっとの思いで手紙を取り出し、指先で慎重に手紙を開いていく。
ーーーー遅い仕事は無能の証。使徒の極意その二、報連相は都度実施。
「お、怒ってらっっしゃる……。報連相ってどうやってやれってんだよ。ロキみたいに話しかけられる相手じゃねーし」
ーーーーこの手紙に記載せよ。
「り、リアルタイム監視ですかい。ならそれで報告事足りるじゃねーか」
ーーーーいい訳に口答えか?
「め、滅相もない!」
俺はルードに話して、ギルドのペンを借りて、ここまでの経緯とこれからの動きを手紙に記載した。
ーーーー了解。あまり俺を舐めるなよ。次の報告を待つ。
その文字が浮かぶと、手紙からの熱が消え去った。
「ハジメ様。なんだかパシリにされてますね」
「気づいちゃった?」
あんまりアリスの口からその言葉は聞きたくなかったなぁ。
とはいえ、事実だし仕方ないか。
「お前ほんと面倒事ホイホイの素質しかないな」
「それは、褒めてないよな」
「当然」
俺とルードがいがみ合う。
いつか殴ってやると決心するも、手紙で催促してくる上司さまから次の催促が来る前に教会に着手しないとか。
俺たちはルードにお礼を言うとニブル城にもどり、国王であるトールへの謁見を求めた。
「よく戻った!」
応接室に通されて、いつもの親バカなトールのテンションで話始める。
「なんとかアリスたちのおかげで無事に戻れました。マサルとノボルは魔王城に戻るとのことです」
「そうかそうか。では急ぎ婚姻の儀と、国民への発表をだな!」
確かそんな話もあったな。
でも今はそれどころでもなかったりする。
「申し訳ないのですが、それは後回しです」
「後回し? よもやアリスと仲たがいを?」
「いえ、さすがにそんなことは。実はですね」
俺はビューレイストから受けた仕事、カーリーの襲撃以降の流れなどをトールに説明して聞かせた。
俺としては、一つ返事で承諾されるものと思っていたのだが……。
「それは……。アリスの未来の伴侶の願いであれば叶えるのはやぶさかではないのだが、難しいかもしれないな……」
思ってもみない言葉が出てきた。
「他の神様だと制約とかあるんですかね?」
「いや、そういうことではなくだな。おそらくそれは教会にならんのだ」
「はい?」
教会建てて、教会にならないってなんだそれは。
「ハジメ。ラグちょっと難しい話わかんない」
「俺もわからないからラグちゃんだけじゃないぞ」
そりゃそうだ。
日本の感覚なら、教会建てますって申請して建築会社に依頼したら、教会が建つんだから。
そんな、カレー作りますって言ったのに出来上がるのはシチューですって説明されてもわかるわけがない。
「アリスならわかるんじゃないか?」
トールはアリスに話しを振る。
「ん~。わからないです……」
「うちの娘ときたら……。戦闘訓練のし過ぎでここまで頭が筋肉になってしまっているとは……。そちらの方が問題ではないか」
「お、お父様!?」
突然の言葉にアリスが驚愕の表情をしているが、俺としても割と納得がいってしまうのが悲しいところ。
「すいませんが、話を進めてください」
「あぁ。すまんすまん。私はな、その神を知らんのだ。だから信仰を根付かせることができん」
「それと、教会にならないにどんな関係が?」
「教会は信仰を下敷きにして建てられるもの。信仰が無い状態で立てた建物は教会ではなくただの建物になってしまう」
「つまり?」
「教会と同じ装飾品の住居が誕生してしまうということだ」
それは困る。
そもそもこの世界には認知されてない神様の教会は建たないって理屈か。
「神の奇跡でも起きれば話は別だが、私も知らない神に降りてきてもらうのは事実、不可能だ」
知らない神様は呼べないってことね。
アイツら勝手に攻めてきてこっちに来るくせに、呼び出しには応じないってか。
そんな話をしていると、俺の胸ポケットが熱を帯び始めていく。
あー。
怒ってるよ。
てか見えてんなら、直接話しかけてこいよ。
「ちょっと失礼」
俺は胸ポケットから手紙を取り出す。
アツアツの手紙を開くと新しいお小言が記載されていた。
ーーーー信仰が無いと教会が建てられない設定としたロキを処罰しておく。ハジメはどうにか実現する方法を考えろ。
ロキ、終わったな。
俺が手紙に返事を書いている間、トールは不思議そうに手紙を見ていた。
「それがびゅーれいすと様からの物なのか?」
「そうです。この神様、照れ屋なのかこういうやり方してくるんですよ」
「これを見せられると、存在しているのだなということはわかるのだが……。一度でも国民に姿を見せてくれれば変わるのだが……」
一度でもかぁ。
そう簡単に来てくれたらこっちも困らないんだけどなぁ。
俺は返事を書いた手紙を胸ポケットにしまうときに、胸ポケットの奥で指先に触れる円盤型の感触で思い出した。
「これ使えばいいじゃん」
怒るかもしれないけど、今は時間が惜しい
俺は指先の感触を頼りに、それを取り出した。




