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不運の集大成で死んだら、悪神のミスで絶対死なない豪運おもちゃにジョブチェンジしました  作者: 社会不適合者
聖剣ラグナロク編

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第百三話 パシリの極意

 ロキはそのまま目を覚まさずに痙攣し始めていた。

 ヘルが介抱を続け、ロキの額には水を絞ったタオルが置かれている。

 これが神界とかいうファンタジーな場所じゃなければ、妹を看病する兄にしか見えないだろう。

 実際は、ロキが姉なんだけど……。


「ヘルさん。なんでロキはこんなんなっちゃったんでしょう?」

 当然の疑問として思うところだけど、なんとなく察しはつく。


「姉上は兄上をとても恐れて、いや、尊敬されてますから……。自分の世界に教会が建つというのはそれだけで干渉する力が増しますし、兄上に限ってはありえませんが、姉上の世界を乗っ取ることだってできてしまうんです」

「そんなにですか」

「姉上も、乗っ取られるとかは考えてないでしょうが、自分の世界の中でも怒られるぐらいには考えているかもしれませんね」

 ヘルが少し情けなさそうな顔ではにかむとロキの介抱を続けた。

 あの強烈な兄ちゃんがいるってのはロキにとって目の上のたんこぶってわけか。

 だとすると、これで俺が教会建てたら、ロキからの意味わからん無茶振りも少しは軽減するのか?

 俺の中に、よろしくない悪い考えが浮かび上がりはじめてきた。


「ハジメ。神様多分しばらく起きないよ。もう帰ろ?」

「そうだなぁ。待っててもいいけど、なんかあればロキから声かけてくるだろうしなぁ」

 ラグナロクの言う通り、実際帰ってもいいのだけど、なんとなくここでロキと会話しておいた方がいい気もする。


「ラグちゃん。もう少し待ってみようか」

「ハジメがいいならそれでいいけど……」

 ラグナロクは俺の肩に頭を乗せて、俺の袖を摘まんでつまらなそうにしている。

 ロキも次第に痙攣もおさまり始めていたので、声をかけてみる。


「ロキ? 起きないんだったら俺ら帰るぞ?」

「……ハジメ様。姉上もこの通りなので、またこちらからお声がけしますね」

 ヘルも完全に呆れたトーンの声だった。

 ヘルに挨拶だけして、帰る方法を聞いていると、突然ロキが飛び起きた。


「どぅっっはぁぁあ! はぁはぁ。悪い夢を見たわ。ヘル聞いてよ。ビュー兄さまがアタシのおもちゃに唾つけて、取り上げようとするのよ!」

 心配するな。

 それは現実だ。

 てか起きるときの声がほとんど閣下なのどうにかしろよ。


「姉上。ご愁傷様です。それは現実です」

 ほらみろ。

 ヘルさんからも現実という刃を刺されましたよ。


「へっ? 現実? あ、ハジメ。まだいたのね。じゃないわ! ハジメ! パラメーター見せないパラメーター!」

「お、おう!?」

「どんくさいわね! いいから早く表示しなさいよ!」

 殴ってやろうかマジで。


「ぱっ、パラメーター」

 俺の目の前に久しぶりに広がる俺のスキルやらなんやら。

 ラグナロクも興味津々で覗き込んでくるが、ロキはその後ろから奇声を発している。


「や、やられたーー!! 完全にビュー兄さまのお手付きじゃないのよ……」

 お手付き?

 なんぞそれ?


「ハジメ様。こちらをご覧ください」

 ヘルが指さす。


「ビューレイストの使徒……?」

 俺のステータス欄って、神に愛されし者みたいなだいぶふわっとしてたはずなんだけど変化してるな。

 それに……。


「ロキの加護はないな。あれだけ遊ばれてやったのに」

 ロキの使徒というのは記載が無いのである。

 俺はじっとりとした目でロキを見るが、ロキは髪の毛を振り乱して駄々をこねていて俺の話を聞こうとしない。

 そもそも既に御遣い扱いされているのに、今更使徒ってどういうこった?


「ヘルさん、俺もうあっちで御遣いって言われてるんですけど、使徒がついたらどうなるんです?」

「使徒がつくとですね。えっと、なんと言いますか。端的に申しますとですね。そーですねぇ」

「ヘルさん、だいぶ歯切れが悪いですね。言いにくい感じですか?」

「い、いや、そのようなことは。どのみち気づかれることだと思いますのでよいですかね。種族欄を見てみてください」

「種族欄?」

 そんな項目あったかと思いつつ、俺は自身のステータスを端から確認していく。


「名前、年齢、性別、性癖……って変な項目つけんなよ!」

「ハジメの性癖!? ラグ知りたい!」

「ラグちゃんそんなのに興味持っちゃだめ!!」

 俺がラグナロクの目を両手で塞ぐと、ヘルが一つため息をついて教えてくれる。


「そのもう少し下です」

「もう少し下? えっと、出身地、なんだこれ? 管轄? こんな項目なかったな。それと……。おいおいちょっと待て! 俺人間やめてんじゃねーか!」

 俺の種族にはでかでかと記載されていた。


「半神?」

 ラグナロクが目を覆っている俺の指をこじ開けて隙間から見た俺の種族を読み上げる。


「はい……。半神です……」

「半神ってなんすか……」

「半神は、人間が至れる最上位の階級です。本来だと、亜神などもあるのですが、神から使徒と銘打たれた場合、半分が神半分が人間の半神となります。」

「なんてこった……」

 これって、名実ともにビューレイストのパシリって事だろ……?


「いうなれば、兄上の、その」

 ヘルがもごもごと言い切らない。


「ビュー兄さまのパシリってことよ」

 やっぱり……。


「姉上、そんな言い方」

「事実じゃないの。それにハジメ、アンタ、ビュー兄さまの仕事請け負ったんでしょ?」

「教会のやつか?」

「それよ。それがパシリの仕事第一号ってわけ。よかったわね焼きそばパン買ってこいじゃなくて」

 どこの世界に、神界まで焼きそばパンをデリバリーするパシリがいるんだよ。


「おま、なんて言い方だよ……。いや、まて。俺はロキの使徒じゃないから今までのは拒否できた可能性があったのか?」

「そうよ。アタシのやさしさでおもちゃレベルにとどめておいたってのに。もういいわ。アタシも付けるから。どうせアンタのステータスのロックも今なら外れてるんでしょうし」

 ロキはそういって俺の表示されているパラメータに、どこからともなく取り出してオフィスデスクとオフィスチェアに置かれた端末を繋ぎ始めた。

 このセット、俺が初めてここ来た時に見たやつだな。

 ロキがカタカタとキーボードを叩いて何か作業をしている。


「どうせなら、もっと強力にして、神殺しとかつけておいたら楽になるわよね……」

 何やら不穏なことを言い始めたぞ。


「ねぇハジメ? これなんだろう?」

 ラグナロクが俺の拘束からするりと抜け出し、ビューレイストの使徒の下あたりを穴が開く勢いで見つめている。


「どした? 今度は何があった?」

「これってアリスのことだよね?」

「ん?」

 そこに書かれているのは、王女の伴侶の文字。

 まぁ出てきてもおかしくない単語ではあるな。

 そういやラグナロクなり、魔剣なり、聖剣なりって文字はいねーな。

 俺がそう思うと、ラグナロクは俺のパラメーター画面を指でスクロールし始めた。


「俺のパラメーターってタッチパネルなん!? てかまだ下があんのかよ」

 と言っても、下に出てきたのは一つだけ。


「これなんだろう? 狂犬の伴侶って? ハジメわかる?」

 ラグナロクは何も疑うことを知らない少女のような顔で俺に質問を投げかけてくる。

 いやいや、この状況で該当するのは一人しかおらんやないですか。

 ですがこのハジメ、答える言葉を持ち合わせておらぬ。

 無念……。


「あぁ? うぅう? おー、そうだなぁ。なんだろうなぁ??」

「ハジメ、アンタのごまかし方ドへたくそね。エレーナ、アンタのことよ」

「……ラグ、狂犬……?」

 なんでこの悪魔幼女は地雷を踏み抜いた挙句に、クレイモア抱えてこっちに走ってくるのかね。


「そそそ、そんなことないぞぉぉおお? ラグちゃんは超かわいい、最高の女性に決まってる! これも何かの間違いだろう!」

「何かの間違いってことは、ハジメもこれがラグだって思ったってこと?」

 いけね。

 俺も地雷踏み抜いた。

 足は?

 あるな。

 首は?

 まだつながってるな。


「そりゃそうでしょ。アンタ暴れたら手が付けられないんだから。聖剣にもなっちゃって、なお危険になってるわよ。っと! できたわ!! これ見なさいよ、おおお、ちょっとエレーナやめて! 肩掴んで振り回さないで! そういうところが狂犬なのよ!」

 今さっきまで目の前にいたラグナロクは、瞬間移動でもしたのかという速度でロキの両肩を掴んで振り回していた。

 これでひとまず俺への矛先は逸れたな。


「ラグちゃんラグちゃん。ロキにも間違いはあるって。まぁこれは近いうちに直してもらうってことで、な?」

 ラグナロクは、心底不満そうな顔をしてロキを放した。


「あ、頭がクラクラするわ……。いい……? これがアンタの新しいステータスよ」

「なんで、神殺しとか、一撃とかそういう物騒なやつまで追加してんだ……?」

「だって、全面戦争になるし、これくらいいいかなって」

「いいわけあるか! こんなん歩く殺戮兵器じゃねーか!」

「何が不満があるのよ。と言っても、アタシがここでキーを押せば、確定なんだけど、ねっ!」

 そういってロキはカターンとちょっといい音を響かせてキーを叩いた。


「終わった……」

 俺は膝から崩れ落ちたのだが……?


「えっ!? ナニコレ!? ちょ、ちょ、ちょっとなによ!」

 明らかなエラー音が響き渡り、俺のパラメーター画面に権限不足の文字が出ている。

 おや、これはなんとなく前世で見慣れたやつじゃあーりませんか?


「なんだなんだ。ロキ様ともあろー神様がこの程度ですかぁ」

 俺は小馬鹿にしたようにロキに話しかける。


「くっ。ロック解除したように見せて、アタシだけ権限閉めだしとか、ビュー兄さま卑怯よ!!!」

 ロキが怒り狂い始めている。

 だが、ヘルも同時に顔を青くしている。


「ヘルさんどうしました?」

「ハジメ様。今すぐお戻りになってお仕事に従事してください。今すぐです!」

「そりゃまたどうして?」

 ヘルは、先ほどまでロキが持っていた、ビューレイストからの手紙を拾い上げ俺に見せてくれる。

 負けは許さんと書かれていたはずの文字がじわじわと形を変えていく。


 ーーーー早く、教会を建てろ。使徒の極意その一、言われたことはすぐ実行。


「ふんっ! 見なさい! アタシのことそうやって馬鹿にするからビュー兄さまからのバチがあたったのよ」

 人の威を借りて物言うんじゃねーよ。


「ろ、ロキ。このこと忘れねーからな!!」

 我ながら、なんで悪役みたいな捨て台詞を……。

 俺はヘルに説明してもらい、ラグナロクの手を掴んで急いで神界から帰ったのだった。

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