第百一話 お説教と本心と可愛い妹
「ハジメ。あぁいうのはよくないと思うの。前に言ったよね? ハジメ王国に女の子入れたかったらちゃんとラグとアリスの許可を取ってって」
「……言ってました」
「それにハジメ様はガードが緩すぎます。ゆるゆるです。そんなんだからすぐにああやって女の子が寄ってくるんです」
「……いや、でもこの顔は俺が望んでなったわけでは……」
「「言い訳しない!!!」」
ラグナロクとアリスが同時に俺を詰めてくる。
「ノボル。モテるのも考え物だな。兄ちゃんあの二人にあんなに詰め寄られたら、平謝りしかできないかもしれないわ」
「大丈夫だよ兄ちゃん。兄ちゃんはハジメさんみたいにモテる顔してないから」
「の、ノボル!?」
マサルがノボルにぴしゃりと切り捨てられているその間も俺は二人から詰問を受け続けている。
「のぉお館様ぁ。そこを私に変わってくれてもいいのだぞ?」
こいつは完全に物欲しそうな顔をしていて本心そのものだろう。
それを背中越しに聞いたアリスの表情が、まるで般若のように変わっていく。
「エク君。誰が発言していいと言いました?」
「……あ、主……?」
「いいでしょう。そんなに詰問されたいのならそういたしましょう」
そういうとアリスはエクスカリバーの方を向くでもなくそっと腰の鞘に手をかけた。
「ギネヴィア様。貴女のご主人が手に負えません。ご助力いただけますか?」
『もちろんお任せくださいな』
鞘のギネヴィアが人型の姿になり、割烹着の女性が足音も無くエクスカリバーに近づいていく。
感覚的にはほとんど暗殺者だ。
これで俺たちの軍師ポジションなんだから、何か間違ってるよほんと。
「アーサー様。少し、二人で歩きましょかぁ」
ギネヴィアがエクスカリバーの手を取る。
「ギ、ギーネ! 私はいい子にしているである! 間違ってもお館様と主に茶々入れて遊んだりはしてないのである! 本心だ! 後生である!! あ、主ーーーーー!!」
エクスカリバーがギネヴィアに連れ去られ、ランスロットはエクスカリバーに両手を合わせて拝んでいる。
俺もそれを見て、つられて同じ仕草をしてしまう。
努めて、死ぬなよというメッセージを込めてだ。
「ハジメ様? 何を遊んでいるのですか?」
「滅相もございません! マム!」
「いい訳はいいのです。今後……。ご理解いただけますね?」
「もちろんです! マム!」
「わかりました。あと、その気持ち悪い言葉遣いはやめてください」
「イエス! マッ……。……はい」
「では、あとはラグちゃんさんにお任せしますね」
えっ!?
これで終わりじゃないの!?
俺はちらりとラグナロクを見る。
目に感情が無く、口元だけ笑っている。
……短い異世界人生だが、楽しかったわ……。
「ハジメ。ちょっと着いてきて」
「……はい」
俺はもう従うしかない。
ここで抵抗すれば、俺はいつぞやのマサルよろしく、最悪はボコボコの刑に処されるかもしれん。
ラグナロクに俺は手を引かれ、店を出ると、ラグナロクはその場で姿を魔剣に変え、俺の背中に納まった。
「え……。ラグちゃんこれはどういう?」
『少しお散歩しよ』
俺はこの後どうされてしまうのだろうと思いつつも、辺りをぶらぶらと歩き始めた。
『ハジメ。やっぱりああいうのはよくなかったよ』
「悪かったよ」
『本当にそう思ってる……?』
「思ってるって。知らない女にガードあまあまなところだろ? アリスに怒られて嫌と言うほど反省したよ」
『やっぱりわかってない……』
「何が?」
あれ?
ラグナロクだって、さっき俺に浮気だなんだって言ってたじゃん。
『アリスも怒ってたし、ラグもちょっと怒ったけど、本当に怒ってるのは少し違うよ』
「なぞなぞ?」
『ハジメ、天邪鬼に対して警戒心が薄すぎるよ』
「だからそれはごめんって」
『わかってない! 戦った時だって、わかっててラグと一緒に前衛したよね? あの時はそれが最適だったかもしれないけど、ラグが聖剣になれてないのに、ハジメを守り切れるかわからないのに。もっと自分を大事にして』
ラグナロクは、俺を守れないかもしれない状況になることに怒っていたのか。
『ラグはね。ユグドラでハジメをお父さんとお母さんのところに連れて行った時に決めたの。絶対家族を守るって。ハジメだけじゃないよ。アリスも、玉藻も、マサルにノボルだってそう。エクスカリバーは守らなくても大丈夫そうだけど。絶対に死なせないし、ラグが絶対守るって』
「……悪りぃ」
『旦那様が死んじゃったら奥さんは寂しいんだよ?』
「そうだな」
なんか、下手に怒られるより、刺さるものがあるな。
もう、俺もこのままってわけにもいかねぇかなぁ。
俺が弱いから、ラグナロクは無理をする。
アリスはエクスカリバーとギネヴィアを使ってまで俺の盾になろうとする。
マサルも自分の弟を守るのに必死だ。
俺だけが守られてる。
そろそろ守られるだけってのも飽きてくる頃だよな。
「いやぁ。お久しぶりですハジメ様。初めて姉上の世界に来てみましたが、なかなかいいところですね」
懐かしい声が後ろからする。
「ヘルさん? あれ、どうして?」
「姉上の遣いできました。お二人とも神界にお越しください。姉上と兄上がお待ちです」
「ヘルさんこっちに来られたんですか!?」
「今回は特例というか、兄上の力を借りてきました」
てへへと少し気恥ずかしそうに笑うヘルは変わらぬ優しさに満ちた顔をしていた。
「ヘルさんが直々に来てくれるなんて嬉しいです。ちょっと気になるのは、今兄上って言いました?」
「はい。姉上はラグナロク様に。兄上はハジメ様にお話しがあるようです」
兄上のご指名ですか。
こりゃひと悶着あるかな?
『ヘル。今ハジメといいところだったんだけど?』
ラグナロクが俺の背中から黒いオーラを放ち始める。
「す、すみません。ですが、兄上も姉上も早くしろとうるさくてですね……」
『ふふ。冗談だよ』
「ほんと、感情が豊かになられましたね」
『ハジメのおかげでね』
「俺の?」
『そうだよ。全部ハジメのおかげだよ』
「……ん??」
『どんかーーん』
ラグナロクが剣の姿なのに頬を膨らませているのが見えるような気がする。
「ヘルさん、行きますよどこでも」
「では私の手を取ってください、今回はハジメ様の意識がある状態でなのでちょっと衝撃ありますがこらえてくださいね?」
「はい。う、うぉぉあああ!!」
ジェットコースターの数倍ありそうな衝撃を意識だけに与えられたような感覚で俺は意識を飛ばされた。
しばらくして、俺だけがヘルの手を取った時の耐性そのままで意識を戻す。
「ハジメ。久しぶりだな」
この声を俺は知っている。
ロキがビュー兄さまと呼んでいたアイツの兄貴だな。
俺は背中を確認するが、ラグナロクがいない。
ロキが話あるって言ってたし、ラグナロクはそっちか。
「お久しぶりです」
「私が与えたカリスマだが、あまりうまく使えていないようだな。その割、我が愚妹と愚弟が与えたスキルは上手く使えているようだ」
声の主、ビューレイストは俺の目の前に姿を見せて、威厳に満ちた圧力を俺に与えてくる。
「愚妹と愚弟……?」
「愚妹が与えた運と強靭、そして愚弟が与えた各種耐性。それは上手く使えているようだ」
知ってはいるが、それをどうこう言われても、使っている自覚がないから困る。
「使えているかと聞かれると回答に困ります。自身で使っている意識はないので」
「それはそうだ。そのスキルは勝手に発動し続けているものだからな。しかし、ハジメは先日大きな傷と呪いを受けただろ?」
「はい。玉藻とラグナロクが助けてくれました」
「それだけではない。傷は強靭でどうにかなるが、呪いは各種耐性が無ければ防げん。そういうことだ」
俺はみんなだけでなく、ヘルさんにも救われてたってことか。
「後でお礼言わないとですね」
「その必要はない。これは愚弟の詫びだからな」
「お詫び?」
「そうだ。この世界にハジメを勝手に引っ張り込んだ愚妹の暴挙に対して何もできなかったからとな」
「そ、そうですか。でも、お礼はしたいです」
「そうしたいなら、そうすればいい。さあ、本題だ。ここに呼んだ意味を伝えよう」
ビューレイストは話出す。
今の俺たちの状況と、本人には言わないがロキを可愛がっていて、心配していることを。
「あんな愚妹でも、かわいい妹だからな。他所の神にいいようにされるのを黙ってみている気はないということだ。そこでハジメに、仕事を頼みたい」
「仕事ですか?」
「なぁに簡単なことさ」




