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不運の集大成で死んだら、悪神のミスで絶対死なない豪運おもちゃにジョブチェンジしました  作者: 社会不適合者
聖剣ラグナロク編

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第百話 生かさず殺さず

「順序だてて考えてみましょう」

 ノボルは少し考えながら話を始める。


「まず最初に、さっきのロキ様が答えてくれた言葉で、僕たちが神様たちのボードゲームの駒になっていることがわかりました」

「おお、それはなんとなくだけど」

「それに続いて、天邪鬼との戦闘です。突然足が動かなくなって戦闘不能になりました。あれほどこちらの攻撃を意に介していなかったのにです。これは神様側で天邪鬼という駒になんらかの干渉があったものだと仮定します」

 ノボルの説明を聞きながら、出された水をちびちび飲み、ニタニタと笑うロキが少し不気味だった。


「仮定?」

「そうです仮定です。確定事項は僕たちがゲームの駒であることまでで、天邪鬼の戦闘不能が神の干渉かどうかはまだ憶測の域を出ません」

「ノボル。兄ちゃん、よくわかんないんだけど……」

 ラグナロクたちは、これでもわからないかという顔をして、逆に難しい顔をしている。

 天邪鬼は言葉も発さず、どこか遠くを見つめている。


「仮定の上にもう一つ仮定を積み上げます。もし僕たちにも干渉可能なのだとしたら、すでにハジメさんもラグナロクさんも殺されているでしょう。それがなぜ起きないのか。きっと特定条件下にいる駒には直接干渉できないのではないでしょうか?」

 ノボルの説明を聞いてロキがさらに満足そうな顔をしている。


「惜しい! あと一歩だったわね」

「そもそもお前が説明すりゃいいだろうが」

「それは無理ね」

「神様のルールとかそういうのか?」

「違うわよ。アレよアレ」

 ロキはそういうと、俺の後ろの方を指さした。

 ウエイターがこれでもかという大きさのステーキを運んできてる。

 ウエイターからステーキを受け取るとロキが言う。


「見なさい。今アタシの両手はナイフとフォークで埋まってるわ。すぐに口もステーキで埋まるわね」

「お前の都合じゃねーかよ」

「忘れたの? アタシ神様よ?」

 そういってロキは口いっぱいにステーキを詰め込み始めた。


「お、おい……」

「はへはあ、へふへいふふはよ」

「何言ってんのかわかんねぇよ……」

 俺たちにも続々とステーキが運ばれてきて、それぞれ手を付け始めた。

 その中で手を付けていないのが二名。


「特定条件下ではないってこと……? だとしたら……?」

 ステーキには目もくれず、悩んでいるノボルはボソボソと独り言のように呟いて惜しいと言われた内容を考え直している。


「まぁなんだ。お前も食えよ」

 もう一名の手を付けていない天邪鬼に俺は声をかける。


「これが罠じゃないって保証は?」

 天邪鬼はまだ警戒心を解いていないようだ。


「罠だったらわざわざロキがお前の足治したりしねーよ。それに、ロキはそういうだまし討ちとかはしないはずだ」

「んっく。ハジメ! 分かってるじゃない。やっとアタシのおもちゃとしての信仰心も生まれてきたのかしら」

 ロキがステーキを飲み込むと話し出す。

 おもちゃとしての信仰心ってなんだよ。


「まぁ逆らってどうこうなるものでもないか」

 天邪鬼は小さく切ったステーキの切れ端を口に運ぶ。


「どうだ?」

「……美味しい」

「だろ? 心配するな。お金はこのアリスさんが払ってくれるからな!」

「ハジメ様! 突然性格破綻してますよ!?」

「大丈夫だアリス。ニブルに戻れば俺たちは夫婦。ここでの支払いも二人の共有財産みたいなもんだ」

「共有、財産……。し、しかたないですねぇ」

 アリスが好意で支払ってくれると言っていたのに、そこにジゴロのようなことを言い出す俺だが、アリスは気づいていない。


「アンタ、ちょっと見ない間に、性格終わったわね」

「お前に言われたくねーよ悪魔幼女」

「あー怖い怖い。天邪鬼ぅー? 怖いお兄さんがアタシに意地悪するのー」

 わざとらしく天邪鬼に寄りかかるロキを見て俺は右手の拳を握りプルプルと震える。


「暑い。おばちゃん離れて」

「……は?」

 ロキの額に青筋が浮き出る。


「ぎゃははは! 聞いたかロキ! 天邪鬼からすれば天下のロキ様もおばちゃんだぜ!! ぎゃははは!! やべー腹いてーわ」

「あ、ああ、天邪鬼?」

 ロキが明らかに怒っているが、俺はふと違うことを考えた。

 さっき天邪鬼はロキを、ロキと呼んだが、なんで今はおばちゃん?


「天邪鬼。おばちゃんが怒ってるぞ。ほら、謝っとけ」

「……ごめんなさい。でもなんで?」

 こいつにはそういう心の機微みたいなのはわからないのか?


「そりゃおばちゃんが怒ってるからだろ。てかなんで、突然おばちゃん? さっきまでおばちゃんのことロキって呼んでたじゃねーか」

「だって。もう灰色。黒側の仲間でもないし、白側の敵でもない。だから、親しみを込めておばちゃん」

 これはあれだな。

 蔑称としてのおばちゃんじゃなくて、まちの駄菓子屋とかでよく聞くおばちゃんか。


「どうでもいいけど、あんたら、さっきからアタシのことをおばちゃんおばちゃんと、何回言ったかわかってるんでしょーね?」

 あ、やべ。

 これマジで怒ってるやつだ。


「誰だ!? 崇高なロキ神様に向かっておばちゃんなどと! お前か!」

 俺はマサルを指さす。


「お、俺!?」

 もはやステーキが運ばれてから会話に参加すらしていなかったマサルが驚きの声をあげる。


「いや、お前か!」

 続いてエクスカリバーを指さす。


「お館様よ。見苦しいのである」

 なんと可愛げのない家臣だ。


「アンタだっつの!」

「あいた!!」

 俺はロキに頭を殴られた。

 それをみてラグナロクは楽しそうに笑っている。


「ハジメ様。先ほどから突然の乱心の罰が当たったのです」

 アリスまでそっぽを向いてしまった。


「ふん。ハジメわかったかしら?」

「……わかりましてございます」

「よろしい。今後私のことを呼ぶときは?」

「ロキさ……」

 俺が言いかけたところで天邪鬼が爆弾を投下する。


「おばちゃん」

 その場の空気が凍り付く。

 こいつ、さては空気読めないタイプだな?

 こんなのが俺たちへの刺客として送り込まれてきたのか?

 再び青筋を立てたロキだったが、ふぅと深く息を吐くと、ドカッと椅子に腰かけた。


「もういいわよ。それで……」

 ロキはなぜか諦めたようだった。


「ご馳走様」

 俺たちが揉めている間に天邪鬼は綺麗に完食していた。


「ロキ、お前が折れるなんてちょっと予想外だ」

「仕方ないわよ。この子にしてみれば、アタシはおばちゃんぐらい歳も離れてるし……」

「そういもんか」

 神様にも年齢ってあるんだね。


「もう面倒だから言うけど。アンタら、あぁハジメ含めたここにいるアンタらよ。アンタらは今アタシの駒としてカーリーと対峙してるのよ。まぁアタシが始めたわけでもないし、チェス盤はカーリーのところにしかないけどね」

 それを聞いてノボルが反応する。


「わかりました。ロキ様陣営である僕たちにはカーリーであっても直接は干渉できないってことですね」

「そういうこと。それで灰色よ。これならどちらからも干渉できなくなる。それでいて割合は限りなく白。つまりこちら陣営に最も近い状態。だからこのまま天邪鬼にはカーリーの元に帰ってもらうわ」

「おまえ、それだと天邪鬼がヤベーんじゃねーのか?」

 どう考えても、自分で壊した駒が自分の足で帰ってきたら殺されてもおかしくない。

 自分の陣営には干渉できるんだろ?


「心配してくれるの……?」

 天邪鬼が無表情な顔で俺に問いかける。


「いや、心配つうかなんつうか」

 俺もなんでそんな言葉が出たかわからないんだ。


「全く。ハジメ様は誰彼構わずそうやって優しさを振りまくんですから。そんなんだからハジメ様の周りには女の子が寄ってくるんですからね?」

 呆れ気味にアリスに言われる。


「でも天邪鬼は男と女が合体してるわけだし、特定の性別なんてないって。そうだろ?」

「女の子の方がいいの? ならそうしてあげるよ」

 天邪鬼はそういうと、アマノザコの見た目と、アメノサグメの性別に姿を変えた。


「これなら、仲良くしてくれる? 心配してくれる?」

 ちょっとしおらしくしてくる態度に俺は驚いていた。


「女ったらし」

 ロキがじっとりとした目で俺を見る。


「え、えん罪だ」

「まぁ心配しなくても大丈夫よ。この子がカーリーの元に戻ったら思うでしょうね。明らかな宣戦布告だって」

「それって喧嘩売ってることになるんじゃないか?」

「喧嘩売ってんのよ。アタシの世界で好き勝手してくれたんだから。それなりの報いを受けてもらうわ」

 珍しくロキは真剣に怒っているようだった。


「喧嘩売って天邪鬼が殺されたらどうすんだよ?」

「やっぱり、心配してくれてるの?」

「あー、おまえちょっと黙ってろ」

「それは大丈夫よ」

「なんで?」

 俺とロキは噛み合わない会話を続ける。

 するとノボルが声を出す。


「だから灰色ってことですね。どちらの陣営も干渉できないように」

「お? おお? やっと俺にもわかった気がするぞ。なぁんだ。ロキ、お前割といい神様だなぁ」

「割とは余計よ。まぁそういうこと。さぁ食事も済んだし、天邪鬼。仕事してもらうわよ」

「わかった」

 天邪鬼はそういうと、すっと立ち上がり俺に近づき頬にキスをした。


「次来たら可愛がってね」

 天邪鬼はそのまま体を光に包んで姿を消してしまった。


「なっ!?」

「ハジメ! それは浮気じゃないのかな?? ラグそういうの良くないとおもう!」

 嫁二名がたちあがって俺に詰め寄る。


「お、おれのせい!?」

「アンタのせいよ。ほら謝っちゃいなさい。どのみち男女の問題なんて基本的に男が悪いことの方が多いんだから」

「そんな! 理不尽だ!!」

 俺は何が悲しくて高級店の床に正座させられているのだ。

 エクスカリバーが遠巻きにうらやましそうな顔をしているのが腹立たしい。


「あ、そうそう。この後アタシ帰るけど、ハジメとラグナロク。ちょっと神界までついてきなさい。話があるわ。迎えをよこすから先帰ってるわねー」

 ロキも帰ってしまった。

 神界に来いとは言われたが、どういったらいいかもわからんし、そもそも生きてここから出られるのだろうか……。

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