第九十九話 ロキの提案
ロキは子供のような笑顔で天邪鬼を見つめる。
ふふふといたずらっぽく笑うと、その提案とやらを話し始めた。
「アンタ……灰色になりなさい」
「灰……」
「……色?」
俺とアリスがぽかんとした顔をする。
天邪鬼は理解しているようで、悩んでいるような顔をしている。
「アリス、今の分かった?」
「い、いえ、まったく」
「アンタらはわからなくていいのよ。んで、どうする?」
俺らには大した説明もしてくれず、天邪鬼との会話をロキは進めていく。
天邪鬼は少しおびえた様子でロキに尋ねる。
「なったとして、この足はどうしてくれるんだ? もう動かないから役になんて立てないけど?」
「そんなのどうにでもしてあげるわよ。前払いだっていいわ」
ロキは天邪鬼の足に手をかざす。
「我、理を弄ぶ者なり。この者に仮初の足を与えたまえ。マリオネットアプローチ」
ロキが詠唱すると、空から無数の糸が伸びてきて、天邪鬼の足に繋がっていく。
「さぁ。立ってみなさい」
「……」
天邪鬼は疑うような目でロキを見ている。
「嘘なんてつかないわよ」
「……んっ。くっ」
少しいきみながら天邪鬼が足に力を入れると、先ほどまで動かなかった足が地面をしっかりと捉えて再び立ち上がった。
「た、立てた……」
「ほらね。でもこれで前払いは済ませたわよ。アンタ、灰色になるわね?」
だから灰色って何なんだよ。
「割合は?」
割合?
「そうねぇ、限りなく白く、わずかに黒って感じね」
「わかった。もう行っていい?」
「なによ。せっかくなんだから、ご飯でも食べていきなさいよ。ハジメのお金で」
「ふぁっ!?」
ここで俺に振るのか!?
「おい、ロキ! なに勝手なこと言ってんだよ!」
「アンタも、知りたいんでしょ? 灰色の意味」
「お、お前、悪魔だな……」
「悪魔じゃなくて、神様よ、ふふ」
ロキは満足したように笑うと、天邪鬼の手を掴んで歩き出した。
やっと回復したマサルが俺たちに追いついてくる。
「ハジメ! あの嬢ちゃんあの時の子だよな!?」
「おっ。回復したのか。マサル……。活躍ゼロだったな」
「なんでいきなりディスられてんの!?」
「怒らせたらこの世界から消されちゃうようなこの世界の最高権力者にして、俺をおもちゃにする悪魔幼女に対するプチストレスの発散」
「扱い悪くね!?」
「さっさと来なさいハジメ! いい店紹介しなさいよ!」
ちっ。
絡み方がオッサンのそれだ。
俺たちはロキに先導されて、ヴァルの店を回った。
一瞬ロキに薬膳をお見舞いしてやろうかと思ったが、アリスが頭の上で大きなバツを作って阻止されてしまった。
しかし甘いよアリス。
うちには人外の主砲がいるんだから。
「ハジメ! みろよこれ! ここにもニブルにあった薬膳の店があんぞ! ここにしようぜ!」
「なんと! ここで活動していたのに見落としていたとは。私もまだまだであるな」
エクスカリバーもランスロットも人型に戻っている。
ほらみろ。
ちゃんと悪意のない悪意がロキに襲い掛かるぞ。
喰らいやがれあの薬膳を!
「ん? いやよ。だってここの食事、人間が食べるようなもんじゃないもの」
ロキはしれっと断った。
俺とアリスに稲妻が落ちたかのような衝撃を与えた。
「なんでだよー! ここ絶対美味いって!」
「猿の味覚はアタシには合わないわよ。人外だけで食べてくればいいじゃない」
「あっ! また俺のこと猿って言ったな!!」
「あーあーきこえなーい。お猿さんの言葉わからなーーい」
ロキが両手で耳を塞いでわざとらしい仕草をする。
「アリス。俺はこれほどまでの敗北感を味わったことがない……」
「ハジメ様……」
「ハジメ、性格悪いよ……」
ラグナロクにまで可哀そうなものを見るような目で見られてしまった。
「あっ。ここいいじゃない! 天邪鬼、いいわよねここで」
「どこだっていいよ……」
このテンションの違いはなによ。
ロキが決めた店は、明らかな高級店。
「ロキ。これはさすがに俺の財布が……」
俺はロキの耳元で俺の懐事情を伝える。
「財布? 大丈夫よアタシは。払うのハジメだし」
は、話が通じねぇ。
「ハジメ様。大丈夫です。ここは私が出しますので」
アリスが察してフォローしてくれるが、なんだこの情けない気持ちは。
「オトン。甲斐性、磨いた方がええな。いつかオカンにもねーちゃんにも愛想つかされるで」
玉藻が俺の肩をポンポンと叩く。
「余計なお世話だよ」
俺は男の尊厳をボロボロにされつつ、強がるのが精一杯だ。
「入るわよー!」
ロキがズンズン進んで店に入ってしまい、勝手に奥の半個室を陣取ってしまう。
駄目だこりゃ。
今回はアリスに甘えるしかないな。
この屈辱分ぐらいはちゃんと説明してもらおう。
俺たちもロキに続いて席につく。
「んで、灰色ってなんだよ」
「ハジメ、なんでそんな目血走ってんのよ。ちょっと怖いわよ……」
「いいから説明してくれ」
俺はせめてもの抵抗で視線だけは強く向ける。
「こわっ。いい? 灰色ってのはね、駒のことよ」
「すまん。もっとわからなくなった」
「えっ? 今超わかりやすく説明したのに!?」
「神様、ハジメには前提から話してあげないと理解できないよ」
ラグナロク、それって、俺は細かく説明しないとわからないバカだからって意味じゃないよね!?
「そう? んー。神様ってチェスとか将棋とかのボードゲーム好きなのよ。それでこの子、天邪鬼を灰色の駒にしたってわけ」
ラグナロク、エクスカリバー、ランスロット、天邪鬼がうんうんと頷いている。
対して俺たち人間と狐チームは全く理解できない。
あのノボルですら頭の上にハテナを浮かべている。
「ロキ様。先ほど色の話をしてましたよね? 限りなく白く、わずかに黒くって。それで天邪鬼は灰色。もしかして僕たちは神様のゲームの駒になっているとかじゃないですか?」
「おっ、魔王くん頭いいわね。その点については百点満点、大正解よ」
「ノボル、今の説明でわかったの!?」
「一つ一つこれまでの状況を整理したらの可能性だったんですが、当たったみたいです」
もうノボルが主人公でいいんじゃないの?と思うよ。
「ロキ。それで天邪鬼が灰色の駒になると、どうなるんだ?」
「アンタっ……」
「なんだよその哀れなものを見る目は……」
「魔王くん、わかる?」
「……スパイ、ですか?」
ロキがニヤッと笑う。
「またまた、だぁいせいかーい!」
ねぇほんと、なんでわかるの?
俺が馬鹿なの?
「オトン。安心しぃ。私もわかってへん。多分ねーちゃんの腰で鞘の姿のまま黙り込んでるおばんもわかってへんで」
カシャンとギネヴィアが音を立てるが否定しないあたり、事実らしい。
ここはもう恥を捨てるか。
「ノボル。どういうことか教えてくれ……」




