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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ
第二章 古代防衛機構編

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第八十九話 東方の三博士



 旧オルフェア管理院を後にした一行は、休むことなく最後の施設へ向かっていた。


 揺光。


 旧エデン封印区画。


 古代遺跡群最後の一角。


 そして全ての謎が眠る場所。


 残された時間は多くない。


 旧アーカム貯蔵庫の限界到達まで、既に四十時間を切っている。


 誰も口にはしなかったが、全員が理解していた。


 もう後がない。


 その日の夕刻。


 一行は目的地へ到着した。


 そこは、これまで訪れたどの施設とも異なっていた。


 巨大な塔でもない。


 工場のような施設でもない。


 白い石壁に囲まれた静かな建造物。


 どこか神殿を思わせる場所だった。


「ここが最後か」


 アルトリウスが呟く。


 カイは静かに頷いた。


「恐らく」


「そうでしょうね」


 正面の扉は既に開いていた。


 まるで最初から彼らを待っていたかのように。


 一行は警戒しながら内部へ足を踏み入れる。


 長い通路。


 静寂に包まれた空間。


 魔獣の気配はない。


 不自然なほどに。


 やがて最奥部へ辿り着く。


 巨大な円形ホール。


 そして。


 その中央に三つの人影が立っていた。


 黒い外套を纏った老人たち。


 その姿を見た瞬間、カイは目を見開く。


「あなたは……」


 見覚えがあった。


 旧リューデン観測所で一行を助けた黒衣の男。


 その人物と同じ装いだった。


 しかし。


 そこにいるのは一人ではない。


 三人だった。


「待っておったぞ」


 中央の老人が静かに言う。


 一歩前へ出た。


「まずは名乗るとしよう」


「儂がバルタザール」


「セプテントリオ統括責任者じゃ」


 続いて左の老人。


「儂がメルキオール」


「観測・解析主任」


 最後に右の老人。


「儂がカスパール」


「防衛システム主任じゃな」


 沈黙。


 その瞬間だった。


「……そういうことか」


 ユリオンが呟いた。


 全員が振り返る。


「どうした?」


 アルトリウスが問う。


 ユリオンは三人から目を離さない。


「以前、観測所で見た記録だ」


 静かな声だった。


「《MELCHIOR NODE CONNECT ERROR》」


 リリアが思い出したように声を上げる。


「あっ……」


「確かにありました」


 ユリオンは頷く。


「ああ」


「その後も似た名前が何度か出てきた」


「ずっと気になっていたんだ」


 三博士は何も言わない。


 ただ静かに聞いている。


「古代文明末期の断片的な記録」


「各地に残る伝承」


「そしてノード名」


 ユリオンはゆっくりと息を吐いた。


「メルキオール」


「バルタザール」


「カスパール」


 一拍置く。


「東方の三博士」


 広間に静寂が落ちる。


「まさか……」


「お前たちが東方の三博士なのか?」


 三人は顔を見合わせた。


 そして。


 バルタザールが小さく笑う。


「そこまで辿り着いたか」


 その言葉だけで十分だった。


 ユリオンは目を細める。


「やはりそうか」


 バルタザールは満足そうに頷いた。


「我々を東方の三博士と呼ぶ者たちもおった」


 マックスがぽかんと口を開く。


「本当にいたのかよ……」


 ユリオンが苦笑する。


「私も半信半疑だった」


「伝承だと思っていたからな」


 メルキオールが穏やかに言う。


「無理もない」


「我々自身、半ば伝説のような存在になっておったからの」


 だがアルトリウスは別のことが気になっていた。


「待て」


「お前たちは数千年前の人間だろう」


「なぜ生きている?」


 当然の疑問だった。


 三博士は顔を見合わせる。


 そしてカスパールが自らの腕へ手を置いた。


 次の瞬間。


 外套の隙間から鈍く光る金属が覗く。


 その場にいた全員が息を呑んだ。


「人間ではないからじゃ」


 カスパールが言う。


「正確には、人間だったと言うべきかの」


 バルタザールが続ける。


「我々の肉体は遥か昔に滅びた」


「今ここにあるのは管理者用アンドロイドの身体じゃ」


 マックスが目を丸くする。


「アンドロイド?」


「人格記憶を移植した器だ」


 メルキオールが答えた。


「人類が再びここへ辿り着く日を待つため」


「我々はこの姿を選んだ」


 カイは静かに尋ねる。


「ずっと待っていたのですか?」


「ああ」


 バルタザールは頷く。


「数千年もの間な」


 誰も言葉を返せなかった。


 人間の尺度では測れない時間だった。


 それでも彼らは待ち続けた。


 ただ一つの使命のために。


 バルタザールは一行を見渡した。


「さて」


「君たちはセプテントリオについて知りたいのであろう」


 その言葉に全員の表情が引き締まる。


 古代遺跡群。


 七つの施設。


 セプテントリオ。


 ここまで追い続けてきた謎。


 その全ての答えが、ようやく語られようとしていた。


 バルタザールは静かに天井を見上げた。


「セプテントリオ」


「それは古代星辰学において、北天に輝く七つの星を意味する言葉じゃ」


 静かな声が広間に響く。


「そして我々は」


「人類を守るために築いた七つの施設を」


「その名で呼んでおった」


 カイたちは黙って耳を傾ける。


 ようやく辿り着いた。


 全ての謎の核心へ。


 バルタザールは静かに微笑んだ。


「では」


「セプテントリオについて話そう」


 その言葉と共に、広間の空気が静かに変わった。


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