第九十話 中央ギルド
一方その頃。
中央ギルド本部。
ギルド長室。
レオンハルトは、中央ギルド長から呼び出されていた。
「辺境案件に銀牙を派遣したらしいじゃないか」
執務机の向こうで、中央ギルド長が苦笑する。
「相変わらずだな、レオンハルト」
レオンハルトは黙って立っていた。
「カイの件になると、お前はお前らしくなくなる」
ギルド長は椅子に背を預ける。
「そんなことでは、これから上を目指す人間として失格だぞ」
軽口のつもりだったのだろう。
だが、レオンハルトの表情は変わらない。
「今は、それどころの騒ぎではありません」
静かな声だった。
「ギルド長」
そう言って、レオンハルトは一冊の資料を机へ置いた。
「これをご覧ください」
ギルド長は怪訝そうな顔で資料を手に取る。
数ページ捲る。
そして。
表情が変わった。
「……何だ、これは」
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開陽。
天璇。
天権。
天璣。
玉衡。
天枢。
揺光。
七つの施設。
古代防衛システム。
貯蔵庫暴走の危険。
システムダウン予測。
そして。
東方の三博士。
資料を閉じる音が部屋に響いた。
しばらく2人とも口を開かなかった。
やがて。
「国家規模どころではないな」
ギルド長が低く呟く。
「人類全体の問題じゃないか」
「はい」
レオンハルトは頷いた。
「しかし今までは確証がありませんでした」
「だから銀牙を派遣したのか」
「私の独断です」
レオンハルトは素直に認める。
「規定を逸脱した判断であったことは謝罪します」
ギルド長はしばらく黙っていた。
やがて大きく息を吐く。
「いや」
「今回はお前が正しかった」
そして資料へ視線を落とす。
「まさか東方の三博士が実在していたとはな……」
レオンハルトも静かに頷く。
「私も半信半疑でした」
「ですが、全ての記録が繋がりました」
ギルド長は再び資料へ目を落とした。
「防衛システムか……」
独り言のような呟きだった。
「レオンハルト」
「仮にそのシステムが停止した場合、どうなる?」
「詳細は不明です」
レオンハルトは即座に答える。
「ですが、古代文明が人類防衛施設群と呼んでいた以上、防衛能力の低下は避けられないかと」
ギルド長は黙り込む。
長い沈黙。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「ギルドだけでどうこうする問題ではないな」
その声には先程までの軽さがない。
「はっきり言おう」
レオンハルトも表情を引き締める。
ギルド長は資料を机へ置いた。
「これは国家規模の問題ですらない」
一拍。
「人類存亡の危機だ」
部屋の空気が凍り付く。
「我々は魔獣と戦いながら生き延びてきたと思っていた」
「だが違うのかもしれん」
資料を指で叩く。
「もしこのセプテントリオが本当に人類防衛システムならば」
「我々は数千年もの間、その庇護の下で生きてきたことになる」
レオンハルトは黙って聞いていた。
「そして今、その庇護が失われようとしている」
ギルド長は立ち上がる。
「何が起きるか予測もできん」
「魔獣の活動が活発化するかもしれん」
「これまで現れなかった脅威が現れるかもしれん」
「あるいは、人類が築いてきた防衛線そのものが崩壊する可能性すらある」
重い沈黙が落ちた。
やがてギルド長は断言する。
「王国軍の協力が必要だ」
「いや、それだけでは足りん」
鋭い視線がレオンハルトへ向く。
「国王陛下を動かさねばならん」
「……はい」
レオンハルトも同意した。
ギルド長は机上の呼び鈴を鳴らす。
ほどなくして秘書官が部屋へ入ってきた。
「お呼びでしょうか」
「国王陛下との面会を要請しろ」
秘書官が目を瞬かせる。
「至急だ」
「最優先案件として扱え」
その声音に迷いはなかった。
秘書官は深く一礼する。
「承知しました」
足早に部屋を後にする。
扉が閉まる。
ギルド長は資料を手に取った。
「私も向かう」
そしてレオンハルトを見る。
「当然、お前も来い」
「はい」
レオンハルトは即答した。
ギルド長は窓の外へ視線を向ける。
その先には王城が見えていた。
「間に合えばいいがな」
その呟きに、先程までの余裕はなかった。
もはや辺境の遺跡調査ではない。
ギルド長は上着を手に取った。
「行くぞ」
レオンハルトは無言で頷く。
二人は足早に部屋を後にした。
向かう先は王城。
もはやギルドだけで抱え込める問題ではなかった。




