第七十二話 脱出
轟音。
広間奥で発生した爆発が、空間全体を揺らした。
熱風。
衝撃。
砕けた金属片が飛び散る。
「伏せろ!」
グレンが叫ぶ。
直後、崩落した天井材が広間中央へ叩き落ちた。
凄まじい土煙。
視界が白く染まる。
エルナが即座に障壁を展開した。
「防御維持します!」
淡い光膜が、飛来する瓦礫を弾き返す。
だが。
施設全体の揺れは止まらない。
導力回路が暴走したように明滅を繰り返している。
ギィィィィ――!!
耳障りな警告音。
そして。
停止したはずの銀色機体群が、再び動き始めた。
「まだ動くのかよ!?」
マックスが顔を引きつらせる。
だが動きは鈍い。
赤い眼光も不安定に明滅している。
ユリオンが叫んだ。
「制御同期は切れてる!」
「だが残留魔力で動いてるんだ!」
「つまり完全停止じゃないってことか!」
「そういうことだ!」
最悪だった。
その時。
広間中央で、黒衣の人物が崩れ落ちる。
赤い侵食が全身へ広がっていた。
外套の隙間から漏れる赤光。
まるで身体そのものが砕け始めているようだった。
カイが即座に動く。
「マックスさん!」
「ああ!」
二人で瓦礫を蹴散らしながら駆け寄る。
その瞬間。
最寄りの銀色機体が反応した。
赤い眼光。
高速踏み込み。
「させるか!」
ヴァレリアが割り込む。
剣閃。
火花。
崩れかけた機体を強引に押し返す。
リリアも後方から魔法を叩き込んだ。
「吹き飛べッ!」
爆炎。
銀色機体が壁面へ叩きつけられる。
だが。
完全には止まらない。
「しぶとい……!」
一方。
カイたちは黒衣の人物へ辿り着いていた。
近くで見ると、侵食はさらに異様だった。
赤い亀裂のような光が、皮膚表面を走っている。
しかも。
その亀裂は、僅かに脈動していた。
まるで生きているように。
マックスが顔をしかめる。
「……おい」
「これ、大丈夫なのか?」
「分かりません」
カイは短く答えた。
黒衣の人物は、僅かに顔を上げる。
フードの奥。
その目元にも、赤い光が滲み始めていた。
「……問題ありません」
だが声は乱れている。
ノイズ混じりだった。
「どう見ても問題あるだろ」
マックスが即答した。
その時だった。
ユリオンが怒鳴る。
「長居するな!」
「施設全体が落ちるぞ!」
まるで呼応するように。
制御核が、再び激しく脈動した。
ゴォォォォン――!!
今までで最大の振動。
広間外周の壁面が、一気に崩落する。
瓦礫。
粉塵。
そして。
奥の格納庫側から、さらに複数の赤い眼光が浮かび上がった。
「まだ残ってたのかよ!?」
グレンが舌打ちする。
だが。
銀色機体群の動きは、明らかに不安定だった。
足取りが乱れている。
導力光もちらついていた。
イリスが即座に分析する。
「同期切断の影響です」
「行動制御が大きく低下しています」
「なら今のうちだ!」
カイが即座に判断する。
「撤退します!」
「出口まで一気に突破!」
「了解!」
全員が同時に動く。
ヴァレリアとマックスが前衛。
グレンが崩落箇所を先導する。
リリアとエルナが後方支援。
ユリオンとイリスも制御資料を抱えて走り出した。
その中で。
カイは、崩れ落ちかけた黒衣の人物へ視線を向ける。
「立てますか」
僅かな沈黙。
そして。
「……問題ありません」
また同じ返答。
だが次の瞬間。
黒衣の人物の身体が、大きく揺らいだ。
完全に限界だった。
カイは小さく息を吐く。
「マックスさん」
「ああ、分かってる」
マックスは苦笑しながら、黒衣の人物を肩へ担ぎ上げた。
「軽っ……!」
「ちゃんと飯食ってるか、お前」
黒衣の人物は答えない。
その時だった。
広間中央で、制御核が眩く発光する。
青白い光が、一瞬で膨れ上がった。
ユリオンの顔色が変わる。
「走れ!」
「爆ぜるぞ!!」




