第七十一話 崩壊
最前列の銀色機体が、赤い眼光を激しく明滅させた。
ギィィィィ――!!
警告音のような高音が、広間全体へ響き渡る。
同時に。
待機格納庫奥の機体群が、一斉に動き始めた。
「来るぞ!」
グレンが叫ぶ。
銀色の巨体が、瓦礫を踏み砕きながら殺到してくる。
マックスが舌打ちした。
「数が多すぎる!」
ヴァレリアが前へ出る。
剣閃。
最前列の一体を弾き飛ばす。
だが、その後ろから次。
さらに次。
終わりが見えない。
リリアが魔法陣を展開した。
「まとめて吹き飛ばします!」
爆炎。
轟音。
通路入口付近が赤熱する。
それでも銀色機体は止まらない。
半壊した装甲を引きずりながら前進してくる。
「執念深すぎるでしょ!?」
エルナが障壁を維持しながら叫ぶ。
一方。
黒衣の人物は、なおも制御鍵を押さえ込んでいた。
だが。
赤い侵食は、すでに首元を越えている。
外套の奥。
頬付近まで、赤い亀裂のような光が浮かび始めていた。
そして。
術式環が、僅かに揺らぐ。
ユリオンの顔色が変わった。
「まずい!」
「保持限界だ!」
黒衣の人物の声にも、初めて明確なノイズが混じる。
「……制御維持、限界値へ到達」
「早くしてください」
カイが即座に判断した。
「ユリオンさん」
「やります」
短い返答だった。
迷いはない。
ユリオンは制御盤へ両手を叩きつけるように術式を書き込む。
空中へ広がる巨大な魔法陣。
幾重にも重なる古代文字。
イリスが即座に補助波形を接続する。
「同期固定、最終段階へ移行」
「誤差許容量、限界域です」
「十分だ!」
ユリオンが叫ぶ。
「切るぞ!」
その瞬間。
制御核の光が激しく脈動した。
ゴォォォン――!!
凄まじい重低音。
広間全体の導力回路が、一斉に明滅する。
そして。
ユリオンが最後の術式を叩き込んだ。
「同期停止!!」
直後。
世界が静止したような感覚が走る。
青白い光。
赤い眼光。
導力回路。
その全てが、一瞬だけ停止した。
沈黙。
完全な静寂。
そして次の瞬間。
バキィン――!!
制御核表面へ、巨大な亀裂が走った。
「なっ……!」
ユリオンが息を呑む。
導力回路が、次々に火花を噴き始める。
広間全体が崩れ始めていた。
天井が軋む。
壁面が裂ける。
エルナが青ざめる。
「施設が……!」
「崩壊を開始しています!」
だが。
自律兵器群も止まっていた。
赤い眼光が、不規則に点滅する。
ギ……ギギ……。
動きが鈍い。
今しかない。
カイは即座に叫んだ。
「全員撤退!」
「出口へ!」
その時だった。
黒衣の人物の術式環が、完全に砕け散る。
赤い侵食が、一気に全身へ広がった。
黒衣の人物が、初めて大きくよろめく。
制御鍵が床へ落ちた。
カラン――と、乾いた音が響く。
マックスが目を見開く。
「おい!」
黒衣の人物は、崩れ落ちかけながらも。
なお制御核を見ていた。
そして。
ノイズ混じりの声で、小さく呟く。
「……同期停止、確認」
「最低条件は達成しました」
次の瞬間。
広間奥で、大規模な爆発が起きた。




