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左遷された辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした  作者: アズマユージ
第一章  辺境ギルド再建編

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第五十七話 ローエンベルク辺境伯

第一部最終話です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本作は、圧倒的な力で解決する英雄譚ではなく、

判断と準備によって被害を減らしていく物語として書いています。


辺境ギルドの再建から始まった物語が、

一つの節目を迎えます。


最後までお付き合いいただければ幸いです。

 辺境伯の居館は、街の中心から少し離れた高台にあった。


 城と呼ぶほどの規模ではない。

 だが、要所に施された石造りの構造は、防衛拠点としての役割を明確に示している。


 華美な装飾は少ない。

 しかし、長年の統治を支えてきた重みが感じられる建物だった。


 案内された応接室も同様だ。

 質実剛健。

 だが、隙がない。


 余計なものが一切置かれていないことが、逆にこの場所の格を示していた。


 カイとセリーヌは、静かに席へ通された。

 呼び出しの理由は知らされていない。


 辺境伯からの直接の召喚。

 それだけで十分に異例だった。


 やがて、扉が開く。


 入ってきた人物を見て、セリーヌが息を呑んだ。


「……え?」


 そこに立っていたのは。


 ここ数日、ギルドに滞在していたAランク冒険者。

 ――アレクだった。


 軽装。

 気取らない立ち姿。

 どこか飄々とした雰囲気。


 見慣れた姿だ。

 だが、纏う空気が違う。


 静かに、確かに。

 場の重心が、その人物へ移る。


 ただそこに立っているだけで。

 この部屋の主が誰なのかを、理解させる存在感だった。


 静寂。


 時間が、ほんの一瞬だけ止まったように感じられた。


 セリーヌの口から、思わず言葉が漏れた。


「……アレクさん?」


 男は、わずかに苦笑した。


「その呼び方も嫌いじゃないがな」


 一歩、前へ出る。


「正式に名乗ろう」


 穏やかな声だった。

 だが、その場の空気が自然と張り詰める。


「アレクサンドル・フォン・ローエンベルク」


「この地を預かる、辺境伯だ」


 セリーヌの思考が、一瞬だけ止まる。


 アレク。

 謎のAランク。

 中央でも扱いが特別だった人物。


 すべてが繋がった。


 だからこそ、あの落ち着き。

 だからこそ、あの余裕。


 すべてが、腑に落ちた。


 カイはわずかに目を細め、静かに一礼した。


「ご身分を知らず、通常の対応をしておりました」


 ローエンベルク辺境伯は軽く手を振る。


「構わん」


「むしろ都合がよかった」


 席に着きながら続ける。


「肩書きというものは便利だが、邪魔にもなる」


「現場を見るには、無い方がいい場合も多いのだ」


 セリーヌはまだ、状況を整理しきれていない。

 だが、理解はしている。


 なぜ、あれほど自然に戦闘へ適応していたのか。

 なぜ、あれほど現場の空気を掴んでいたのか。


 すべて説明がついた。


 辺境伯はカイへ視線を向けた。


「報告は受けていた」


「辺境ギルドの状態が改善しているとな」


「だが書面だけでは、分からんこともある」


 一拍。


「自分の目で確認したかった」


 評価する口調ではない。

 事実確認。

 それだけだ。


 カイは頷く。


「合理的な判断かと思います」


 辺境伯が、わずかに笑う。


「そうか」


「実際に見た限りでは、報告以上だった」


 余計な賛辞はない。

 だが、それで十分だった。


 セリーヌがようやく口を開く。


「では……アレク様が、私たちと共に依頼へ同行されたのは」


「確認のためだ」


 あっさりと答える。


「指揮を見る。連携を見る。危機への対応を見る。そして――」


 カイを見る。


「判断を見る」


 短い言葉だった。

 だが意味は明確だった。


 カイは特に表情を変えない。


「参考になったのであれば幸いです」


 辺境伯は小さく笑う。


「謙遜はいらん。十分理解した」


 椅子に背を預ける。


「中央からの打診も聞いている」


「断ったそうだな」


「はい」


「理由は」


「現場がまだ安定しきっていないためです」


 迷いのない答えだった。


 辺境伯は静かに頷く。


「良い判断だ」


 一言。

 だが重い。


「中央は大きい」


「大きい組織ほど、動きは鈍くなる」


「辺境は違う。判断の遅れが、そのまま被害に繋がる」


 窓の外へ視線を向ける。


 復興しつつある辺境の姿。


「整えれば強くなる土地だ」


「だが放置すれば、すぐに崩れる」


 再びカイへ視線を戻す。


「だから人を見る必要があった」


 一拍。


「悪くない」


 短い評価だった。

 だが、それ以上の言葉は必要なかった。


 そして、本題へ入る。


 辺境伯は指を組み、二人を見た。


「今日呼んだのは、他でもない」


 静かな声。

 だが確かな緊張が滲む。


「この辺境に、新たな問題が発生している」


 空気が変わる。


 セリーヌの背筋が伸びる。

 カイの視線が鋭くなる。


「まだ表には出ていない」


「だが放置すれば、いずれ大きな問題になる」


 一拍。


「君たちの働きは聞いている」


「だからこそ、力を貸してもらいたい」


 それは命令ではなかった。

 だが、断る理由もなかった。


 カイは短く答える。


「内容を伺っても?」


 辺境伯は、わずかに口元を緩めた。


「それは次に話そう」


 一拍。

 そして、言った。


「君の能力を見込んで、頼みたい仕事がある」


 その言葉が。

 新たな物語の始まりを告げていた。


 こうして、辺境ギルドの静かな日常は。

 再び、大きな流れの中へと踏み出すことになる。


 その問題が。

 やがて王国全体を揺るがすことになるとは。

 この時、まだ誰も知らなかった。


 **第一部 完**


第一部を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


カイという人物の価値観と、

辺境ギルドという場所の変化を描くのが第一部の目的でした。


そして最後に登場したローエンベルク辺境伯。


物語はここから、

より大きな問題へと進んでいきます。


第二部では


・辺境で起きつつある新たな異変

・中央との関係の変化

・それぞれの立場での戦い


を描いていく予定です。


引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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