④帰路の交戦
「……んでさ、当てはあるのかよ……飛龍が浮いてる場所の……」
三国に訊ねられ、俺は暫く考えてから答えた。
「過去の空域データは副電脳に有るから……ま、行ってみれば何とかなるだろ」
……?
……俺の言葉で、三国がフリーズした。
「…… あ" あ" あ" あ" ぁ あ !? お、お前はアホかっ!? なあ、コイツの航続距離は何キロか言ってみろよ?」
「は? ……四百キロ程度だが……距離的には問題は……」
「ふっざけんなッ!! 海のど真ん中で燃料切れしちまったらどーすんだよ!? 泳いで戻れって言うつもりかよ!!……えっ? って、ちょい待ち!」
鼻息荒めに絶叫する三国がカメラに噛み付く中、突如無線着信のアラームが鳴り、彼女が出鼻を挫かれた体で慌てながら返答する。
【……こ、こちら菊地と三国……感度良しです!】
(……何て言い方してやがるんだよ……)
突然の着信でテンパる三国だが、俺には予測通りの通信相手だ。
【……こちら飛龍・改二、個別認証信号を確認。お帰りなさい、菊地一尉、カズンさん】
【……こちら菊地一尉、随分と高度が低いが、何か問題が有ったか?】
【飛龍・改二】から通信が入り、俺は予測通りの展開に安心する。飛龍は状況に応じて高度を下げる事もあり、それを狙って無線範囲まで到達出来れば、こちらの信号を拾った飛龍が対応するだろうと踏んでの賭けだったんだが。
【……ええ、偵察衛星やGPS衛星の電波を捉えられなくなり、他の基地とも通信出来なくなった為、高度を下げて友軍と接触を試みたのですが……】
通信相手の若い女性管制官が言葉を濁すが、仕方ないだろう。偵察ドローンや警戒センシング機器も、衛星の電波を頼りに滞空している。電波を捕捉出来なくなったドローン達は墜落しただろう……。
【……しかし、高度を下げた結果、飛竜種の一群に捕捉されて小規模な交戦になりました……被害は有りませんでしたが、まだ周囲に飛竜種が滞空している可能性があります】
まあ、そうなるだろうな。今まで接敵して来なかった方が奇跡だったか……いや、待てよ?
飛龍と互いの座標(ざっくりだが)を交換し合い、通信を終えた俺は三人に向かって、機内通話を介して状況を説明してやる。
「……まあ、聞いた通りだが……この先に飛竜種の群れが待機してるだろう。飛龍に誘き寄せられた連中が、新しい獲物がやって来るタイミングを待ってな」
俺の宣言に三国は口笛で答えつつ、
「ヒュ~ッ♪ やってやろうじゃねーの! なあ、イデアよ?」
【イデア、退屈してた! 準備ばんたん!!】
口の回りに色々な食べ残しを付けながら、イデアが威勢良く返事をする。
「カズンも、大丈夫! イチイ、ひりゅーに帰ろう!」
勿論カズンも、しっかりと燃料補給していたようだ。頼もしい返事と共にカメラに向かって拳を突き出す。
……さて、それじゃ……【ギュイイイイイイイイィィィンダダダダダダダダダダダダダダダダダタンッ!!】「Whoow!!!!!!!」「イエエェーッ!!」
な、何だっ!? いきなり大音響が全てのスピーカーから鳴り響き始めたんだが!?
「菊地ぃ!! 悪ぃが私流でアゲさせてもらうぜっ!!」
三国が絶叫しながら旋回銃座の端末を占領し、カメラに向かって指を三本立てながらアピールする……こいつ、機内通話用のスピーカーをジャックしてヘビメタ流しやがったな?
「何してやがんだよ、全く……」
【キクチっ!! イデア、ノリノリ!! ジャマすんなよ!!】
マジかよ……イデアまでか? カズンも爆笑しながら楽しそうにイデアと一緒に頭振ってるし、カオス過ぎだろ……。
「……判った判った……好きにしろや……ま、シートベルトだけは忘れるなよ?」
呆れながら釘を差した俺は、スピーカーから鳴り響く爆音を絞って音声だけ通すようにして、飛竜種との交戦に備えた。
【オ" オ" オ" オ" オ" オ" オ" オ" ォ !!!!! KILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILLKILL!!!!!】
……で、三国のデスボイスなシャウトを腹一杯になるまで聞かされながら、四足歩行戦車のカメラで接近する飛竜種を捕捉したんだが……五月蝿いったらありゃしねぇなぁ……。
……まあ、いい景気付けか。
そう思いながら、翼で羽ばたきながら急接近する飛竜種にターレットリングを重ね、武装の三十ミリ連装チェーンガンを発射する。
真っ直ぐ接近する飛竜種……サラマンダーより小型のワイバーンに向かって炸裂弾が光の尾を引きながら、猛烈な弾幕が吸い込まれるように飛び、着弾と同時に派手な火花を撒き散らす。
全身を震わせながらもんどり打って空中に張り付けになったワイバーンが、四肢を引き裂かれながら海面に向かって墜落していった。
「おらおらおらっ!! お前らの大好きな弾丸をたらふく喰らいやがれっ!!」
下品な口調でキャリアの旋回銃座を操作しながら、三国も接近するワイバーンを蜂の巣にしていく。俺と同等の射撃管制機能を搭載した副電脳が、部分義体の三国にも入っている。その機能を発揮し精密な射撃で次々とワイバーンを叩き落としていく。
【カズンっ!! 合わせる!!】
【イデア! カズン、判った!!】
カズンとイデアが互いの手を握り合い、呼吸を合わせながら目を瞑って念じ始める。
……? いつもの氷塊と違い、人の頭と同じ位の大きさの火の玉が、キャリアの周りをぐるぐると旋回し始めたぞ……
【……みぎっ!!】
【お箸持つ方!!】
……何だそりゃあ……と思うようなカズンの合いの手で旋回していた火の玉がキャリアから放たれて、次々とやって来るワイバーンに直撃すると、派手な炎で相手を包み込みながら激しく燃え上がらせる。
「イチイ! エーテル濃いから、すごくやりやすい!!」
……エーテル? 聞いた事も無い単語に戸惑う俺だが、カズンとイデアの二人も参戦してキャリアの周りに群がるワイバーンを叩き落としていき、【飛龍・改二】が視界に入るまで接近する頃には大半の飛竜種を撃退出来ていた。




