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⑤中空の対決



 寄せ来る小型の飛竜種を薙ぎ倒し、三人と俺を乗せた双発ジェット機のキャリアは順調に進んで来たかに見えたが、その快進撃も長くは続かなかった。


 【……キクチ、まだ着かない……?】


 ボソリと呟くイデアの声に覇気は無い。ペースを無視して全開攻撃を続けた彼女が、一番最初に根を上げた。魔導を使う度に体力を消耗するカズンとイデアだが、カズンの方が体格に優るからか、表情にまだ余裕が見える。


 「イチイ、イデア休ませたい……」


 【ああ、判った。曲がりなりにもお客さんだ、無理はさせられん】


 多少の悔しさはあるだろう、先程までの挑発的な姿勢と打って変わって大人しくなったイデアが、カズンに促され座席に座ると背凭(せもた)れに身を預け、眼を閉じた。


 そのまま眼を(つぶ)るイデアに代わり、カズンが抑えを効かせつつ壁越しに発生させた氷塊を放ち、小柄なワイバーンを葬っていく。先程までの派手で広範囲をカバーしていた魔導とは違い、狙いを絞って効率的に成果を挙げていく。ただ、どうやって当てているのかは、相変わらず皆目判らん。


 「おい菊地!! 最後の弾帯になっちまったぞ! 後はどうするんだよ!?」


 三国も無駄弾は抑えて撃ってる筈だが、悲痛な声を上げながらモーターを駆動させて弾帯を送り込み、再び照準を合わせていく。


 【飛龍には、まだ着かんが……どうやら飛竜種共が退いていくぞ】


 「……マジかっ!!」


 【……但し、真打ち登場みたいだ。一際デカい奴が近付いて来る】


 「……マジかよ!?」


 【そんな顔するなって……美人が台無しだぜ?】


 俺の言葉に何か言いたげな三国だったが、照準越しに接近する新手の飛竜種を見つけたらしく、口を閉ざして集中する。


 見慣れた小振りな飛竜種と違い、大柄な緑色の鱗のずんぐりとした体型で、傍目にも流線型に近いスリムな奴等とは全く異なる。ただ、外見が連中の能力をどう現しているのかは、判りはしない。


 しかし、連中の個体差や細かい違いなんて知った事ではない。奴等を皆殺しにするか、俺が死ぬかのどちらかだ。


 「はっ! ……的がデカいから当てんのは楽だが……よっ!!」


 三国が呟きと共にトリガーを絞り、弾丸を節約する為、断続的な発砲を繰り返しながら目敏く急所(首から上)に集弾させる。


 だが、着弾した筈の体表の大気がジワリと滲んだ瞬間、徹甲弾が急角度で跳弾し次々と空の彼方へ消えていく。


 「……くそ、鉄板だって粘土みてぇにぐちゃぐちゃに出来るのによ……マジで信じらんねぇ」


 発砲煙を(なび)かせながらチェーンガンが唸り、その度に圧倒的な破壊力を発揮する筈の尖鋼を浴びながら、その飛竜種は悠然と飛び続ける。しかし、見た目通りに速度は劣るのか、一気に距離を詰めてくる様子は無い。


 だが、その遅さが味方して(にら)み合いの時間は直ぐに過ぎ、速度で勝るキャリアが【飛龍・改二】の着艦範囲に入った。しかし、このまま後ろの飛竜種を近付けさせるのも……不味いな。


 と、飛龍との距離が詰まって来たのに、後方の飛竜種にいつまで経っても掩護射撃が来ないのもおかしいと思い、管制官を呼び出すと「システムエラーで捕捉出来ない」と言い訳をしやがる……全く頼りにならん。


 しかし、いずれはアイツと対決するしかない。覚悟を決めた瞬間、キャリアの自律制御プログラムが動き出し、飛龍のレーザー誘導を受けながら回収コースに入った。



 【……よし、自動着艦が始まったな。三国と二人はキャリアに乗ったまま飛龍に向かえ】


 「おい菊地ッ!! 手前ぇが仕切るんじゃねぇ!! コラ聞いてんのかっ!? ……! …」


 ……(やかま)しい奴だ。俺は無線を切って三国からの通信を聞こえないようにし、キャリアをリモート操作に切り替えて飛龍のドックに向かわせる。


 そのままリモートで進むキャリアから着艦直前に四足歩行戦車を切り離し、着陸用ブースターで飛龍の外壁に近付けて四足で整備ドローンが取り付く為に空けられた無数の穴を掴ませる。そのまま規則的に開いた穴を掴み、下を見ないようにして車体を固定しながらガシガシと艦の真上へと出た。




 銀色の飛龍の真上に出る。眼も眩むような高さから一望すると、遥か下に広がる光輝く海面が見える。眼の届く範囲には雲一つ無く、ぐるりと全方位を見回せば全て同じ景色が広がっていた。


 ……不思議なもんで、いつも戦闘機で大空の真っ只中を飛んでいても平気なクセに、四足歩行戦車で掴まりながら天頂部に出ると眼が眩みそうになる。命綱が無いとダメなのか? 妙な話だが。


 このまま周囲の景色に見惚れている場合じゃない、と思った瞬間、緑色の鱗で全身を被った飛竜種が上へと翼を羽ばたきながらやって来た。


 体型を見るまでもなく、飛龍に乗られて暴れでもすれば一大事だ。仕切り直しだ……さっさと撃ち殺して、退場して貰うか。


 そう決めて全武装の安全装置を解除し、照準を合わせながら顔面に砲口を向けたその時、飛竜種の口が何かを告げるように開閉し、その動きを認めた俺は引き金を引くのを躊躇った。


 ……と、無線から聞き慣れない声が鳴り、次第に意味を持った言葉に聞こえた瞬間、その音声が副電脳内に構築されたコミュニケーション・アクセを介して再生された【飛竜種】の声だと判った。



 【……それが、お前のリュウガイなのか】



 ……リュウガイ? なんだそりゃ。




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