スタンピード
【シューゼン】
シューゼンという街は東方からバルクへとやってきた一冒険者がその実力と技術を持って一から作り上げた街である。その街の外観は日本の温泉街に似ており、周りを森に囲まれていて景観も素晴らしい街である。その特徴から観光地としても有名で各地の貴族が別荘を建てていたり、観光客によって常ににぎわっていた。
シュンたちはユオの案内のもとシューゼンの街へと続く関所に並んでいた。
常日頃から観光地ということもあり、関所には列ができていることも多いのだが今は事情が違っていた。
列を引き返していくものも多数いて、さらに門番にどういうことかと詰め寄っている商人たちも多数いて関所は混乱しており、先ほどから引き返していくものたちの分以外でちっとも前に進まないのだ。
見かねたユオが門番たちに事情を聞きに行っているところである。
ユオが帰ってきて事情を聞くとどうやら街でもスタンピードの兆候を確認したらしく、街に入ってくるものたちを規制して、住人や観光客たちの避難の準備をしているらしい。そして、門番とユオは知り合いらしく、戻ってきたことと冒険者を連れてきたということを説明するとすぐに中へと入れてもらえた。
街の景観が素晴らしく、見入っていたシュン、クリス、シオリの三人だがユオにすぐにギルドへ行くという言葉で現状を思い出し、ユオの案内のもとギルドへとやってきていた。
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「なんだユオじゃないか。お前バルクへ行ったんじゃなかったのかよ。あ、わかったぞ。お前行く途中でどうせ食料でも無くしたんだろう。いやーユオは昔っからドジだからな。まあ、あれだよお前にはまだまだSランク冒険者になるには早かったってこった」
ギルドに入った途端、どことなくピリピリした雰囲気が漂っていたのだが、ギルドの人だかりが出来た場所の中心にいた周りよりひと際ごついおっさんがユオにかけてきた言葉である。
はじめの方は額に青筋を浮かべながらも我慢して居たっぽいユオだが最後の方の言葉にキレてしまい、ウガーという掛け声のもと腰にあったダガーのようなものを鞘が付いたまま取り出すと襲い掛かってしまった。
放置されてしまったシュンたちはというと子供のように相手されるユオを見て、あーどこにいてもユオはこんな扱いなんだなあとほっこりしながら眺めていた。
「て、ちげーよ!おい親父今この街がスタンピードが起こるかもしれねえって時にこんなことしてる場合じゃねえだろう」
「ああ、そうだよ。でもこうなんだ場を和ませようとした冗談じゃねえか。それよりもスタンピードが起こるってわかってて戻ってきたのか」
「ああ、兆候があったから急いで知らせないとッて思って戻ってきたんだよ。まあ、知ってるみたいでいらなかったぁも知れねえがな」
ユオはすねたように言い放つ。
「いや、お前の実力は知っている。ドジなとこもだが。まあでも助かるよ。ありがとなユオ、戻ってきてくれて」
一方、親子の友情のような一面を見せられながら放置されているシュンたちはというと
「おい、聞いたかユオの奴あのおっさんのこと親父って言ったぞ。どう見ても似てないうえにあのおっさんが子供いるように見えねえんだがどう思う」
「シュンさんそんなこと言っちゃいけませんよ。もしかしたら複雑な関係なのかもしれませんし」
「そうでござる、いくらあの御仁がユオ殿と似つかなくても万に一つ母親に似ているという可能性もあるでござる」
「いや、あのおっさんが結婚してる姿が想像できねえだろシオリ」
などと小声でそれはそれは大層失礼なことを話していた。
もちろんおっさんことユオの親父は聞こえており、先ほどのユオのように額に青筋を浮かべながらユオに質問する。
「それでユオよ、あそこにいるクッソ失礼な奴らはナニモンだ。こんな非常時に喧嘩でも売りに来たのかあいつらは。あぁん」
今にも殴り掛かりそうな親父をなだめつつユオは質問に答える。
「待ってくれ、落ち着いてくれ親父。あいつらはスタンピードが起こるって聞いて力を貸してくれるためにこの街にやってきたんだよ。それにあいつらはおれの命の恩人だ。てか、シュンたちもやめろよ。親父がキレたらやべえから挑発のようなことは言うんじゃねえ」
ユオの言葉を受け押し黙る両サイド。
シュンは代表して話しかける。
「いや、悪かったよおっさん。俺の名前はシュンだ。一応Aランクの冒険者でバルクにSランク冒険者の
試験を受けようと思って向かってたんだが、道中で倒れてるユオを見つけて話を聞いたらスタンピードが起こるって話だから力になればいいって思ってここにやってきた。それでもう一つ言うと俺はおっさんをユオの親父とは認めない!」
「おう、Sランク冒険者になろうってやつが助けに来てくれるのはありがてえ話だ。今は人手も足りてねえしな。それと一応言っておくが俺はこいつの本当の親じゃねえぞ。その辺のことはまた今度説明するとして小僧いったん表出ろや、その喧嘩買ってやるよ」
「おう、いいぜ。本当の親じゃないなら勝ったら俺が保護者だ!」
周りがシーンとなる。周りの人たちが引いた眼でシュンを見る。止めようとしていたユオも目が点になっている。クリスとシオリもちょっと引き気味でやっぱり襲おうとしてたんじゃなどとつぶやいている。
「へ?……」
まわりの雰囲気にヤバいことを言ったと気づいたシュンだが時すでに遅い。周りからは真正のロリコンだなどとつぶやかれている。クリスはなぜかなるほどという顔をし、ジト目でこちらを見ている。
こうなればシュンが出来る選択肢は一つしかない。
「ははは、なーんてね。いやー皆さん真に受けないでくださいよ。場を明るくする冗談じゃないですか。それよりスタンピードの話をしましょう。対策立ててるんですよね?」
無理やりごまかして話題の方向転換を図る。誰もが冗談ではないのだろうなと思っているが話題の転換に付き合うことにする。まあ、ユオだけは冗談と信じたようであるが。
「そうだよな。シュンがいきなり変なこというからおれびっくりしたぜ」
「ふむ、まあいいだろう。ちなみに俺はこの街のギルドマスターのガストンだ。今はスタンピードが起こるってことで対策のリーダーもしている。それに、うちのギルドはBランク冒険者が数人いるだけで、Aランクはユオしかいない。頼りにさせてもらうよ」
「ああ、よろしく頼む」
「はい、私はクリスと言います。よろしくお願いします」
「うむ、拙者はシオリと申す。よろしくでござる」
「ほう、エルフの嬢ちゃんに東方の嬢ちゃんか戦力として期待できそうだよろしくな」
まわりの面々はクリスとシオリを見て、顔を赤くしたりしている。特に、東方の文化が強く残ってる影響かシオリを見ている人物が多い。
そんなこんなでシュンがロリコンの気があることが判明するというトラブルがあったがこの後は問題なく話が進み、シュンたちにスタンピードの情報が教えられる。
どうやら結構詳細までわかってきているようである。
スタンピードは明日には起きると予測されている。そして、その数は約一万。街の住人は他の街に避難させたいがどう考えても間に合わないうえに護衛の冒険者が圧倒的に足りないため一応大きな旅館を開放してもらい、数か所に分けて集まってもらっているらしい。出現場所は街から少し離れた高原でどうやらここに来るまでに通ってきたとこのようだ。
明日にはスタンピードが起こると聞いて焦ったものの、一万と聞きそんなに多いのか疑問に感じる。確かに多いのだろうが正直俺とクリス、シオリがいれば問題ない数のように思える。そのことを伝えると二人も同意してくれた。シオリ曰くドラゴンを倒したら、一万くらいなら霞んで見えるということらしい。
ということでその旨をガストンに伝えたところ、驚愕された。そして本当に大丈夫なのか聞かれたがドラゴンを倒したというと納得してくれたようだ。しかしさすがに自分たちが何もしないというのはどうかということで、Bランク冒険者とガストン、本人の強い希望でユオが付いてくることとなった。他の冒険者たちは万が一の時に備え街の防衛をしてもらう。ちなみに、ギルドマスターでもあるガストンは元Sランク冒険者らしい。というかギルドマスターは基本Sランク冒険者しかなれないようだ。
その日は軽い打ち合わせをした後解散となった。
他の冒険者からまだ戦いをしたわけでもないのに羨望のようなまなざしを向けられたが気にしないことにして、ガストンが用意してくれた宿で明日に備え休息をとる。
部屋を一つにするか分けるかで少しトラブルもあったが固く辞退して部屋を分けてもらい自分の部屋へと向かう。ガストンからヘタレめと耳の痛い言葉をもらったが仕方ないと割り切る。というか二人の好意のかくしてなさにさすがに気づいてしまったし、どうしようかと悩んでしまう。
すぐに答えが出るわけでもなく、久しぶりの宿ということもあり、何も答えが出ぬまま寝てしまった。
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シュン、クリス、シオリに加えスタンピードの戦闘に参戦するシューゼンのギルドのメンバーたちはスタンピードの起こるとされる高原でその出現を待っていた。
久しぶりの宿で存分に休息したシュンたちは今日ということは分かっているのだが今日のいつ起こるかはわかっていないので、日が昇り始めるころからここで構えて待っていた。
「なあ、本当に今日出るんだよな」
すでに高原で待ち始めて三時間ということで待つのにも飽きてきたシュンはポツリとつぶやく。
「ああ、それは間違いない。というかシュンにシオリよ、何もこんな時に素振りをせんでもいいだろう。疲れて戦えないとかやめてくれよ」
「ああ、それはまあ大丈夫だろう。うん、シオリ休憩しようか」
「おい、本当に大丈夫なんだろうな」
ガストンのツッコミを華麗にスルーしてシュンは何もない高原に目を向ける。
「なあ、そういやスタンピードってどうやって起こるんだ?」
何もない高原を見て周りに魔物もいないしどうやって一万もの魔物が現れるのかとふと疑問に思ったのだ。
「おう、なんだよシュンそんなのも知らないのか。ならおれが教えてやるよ」
今まで退屈そうにしてたユオが話し相手を見つけたとばかりに嬉しそうに答えてくる。ユオにしっぽがついていたら間違いなくぶんぶん振っているレベルで嬉しそうだ。
まわりのメンバーたちはそんなユオをみてほっこりとしてしまう。
「あー、ユオさん、申し訳ないんですが説明の必要はなさそうですよ。ほら、魔物たちが現れましたから」
ユオが一瞬残念そうな顔を浮かべたが魔物が出たと聞いて気を引き締める。
他のメンバーたちも武器を構えて気を引き締める。
シュンだけが少し青ざめた顔をしている。
その理由はというと魔物の現れ方である。その現れ方は地面から生えてくるかのように魔物が現れてくるのだ。イノシシ型の魔物や狼のような魔物、トラのような魔物と前世の動物に似た魔物が生えてくる光景は何とも言い難いものだ。
「何これ、ただのホラーじゃん。きもいよ、もうこの世界マジでいやだわ」
まさにシュンがつぶやいたとおりである。
「おいシュン、意味の分からないこと言ってないで気を引き締めろ。みんな作戦は分かってるな、行くぞ!」
「「「「おー!!!!!」」」」
こうして魔物一万の軍勢との戦いが幕を開けた。
「よし、それじゃあまあこの寒気も気合に変えて俺の火属性上級魔法のお披露目だ」
そう、なんとシュンは馬車に乗りながら魔法を行使していたことで魔法の扱いに慣れてきてついに火属性の一種類だけだが使えるようになったのである。
「よっしゃー!やっぱり火属性魔法のロマンと言ったらこれだろ、いくぜ爆発魔法エクスプロージョン!」
意気揚々とハイテンションで爆発魔法を打ち出す。
作戦として魔物が現れたら初めに魔法による攻撃が出来るものがおのおののもつ魔法を打ち込み数を減らすということになっていた。魔法を扱えるのがクリスとBランク冒険者三人で、シュンは折角取得した爆発魔法を使いたいということで立候補したのだ。
その威力は絶大で現れた魔物たちの真ん中に打ち込まれると爆発音を上げながら、直撃した魔物は跡形もなく吹っ飛び、周りにいた魔物たちもその爆風によって吹き飛ばされ地面に落ちた時には動かなくなっていた。
「うぉぉぉぉぉ。スゲーぞこれならいける」
誰かが言ったそんな言葉を受け得意げに振り返るシュン。
しかし、誰もシュンを見ていなかった。みんなが見る視線の先、クリスであった。
「さすがエルフだ、一瞬であんなにも殲滅しちまいあがった」
思わずといった感じでガストンがつぶやいた。
そして、クリスが放った魔法の先ではその言葉通りの光景が広がっていた。
トルネードが通り過ぎた後のように開けた場所や風の刃が無数に飛んでいたのか体を切り裂かれて息絶えている魔物たち。まさに殲滅である。
シュンは魔物の魔法による殲滅の差に愕然とする。
「シュ、シュンの魔法もすごかったぞ」
愕然としているシュンに気づいたユオがフォローを入れるが、クリスとの差が目に見えているだけにあまり慰めにならない。
なぜクリスはこれほどまでの魔法を今まで使わなかったのだとシュンは後で絶対聞いてやると決心する。まあ、理由は簡単で、今までの戦いにこれほどの殲滅力はいらなかったということと魔物たちに斬りかかる仲間がいる中に仲間も巻き込んでしまう魔法は使わないということだ。もう一つ理由を挙げるとしたら、自重しなくなったからというのもあるかもしれない。今までと言ってもごく短期間だがエルフの国から逃げてきたこともあってあまりばれないようにしたかったのだが、先日のドラゴンの件で確実に自分であるとはばれてしまったであろうと考えたのだ。
そんなことは知らないシュンは悔しさを胸に二刀を持って魔物たちに斬りこんでいく。
「うぉぉぉぉぉ」
雄たけびを上げながら一振りしていくごとに魔物をバタバタと倒していく。
笑いながら剣を振るい魔物を倒す姿はまさに鬼神である。
なんとシュンは今までできなかった二刀に魔力を通すというのを実践で成功させてしまったのだ。悔しさを力に変えるとはこのことである。
そんなシュンに続くようにシオリたちも魔物に攻撃していく。
シオリは華麗な足さばきで魔物たちの間を抜けながらすれ違いざまに魔物を倒していく。
ユオはその小柄な体を活かして、戦場を駆けながら魔物の死角に入り的確にダガーで一撃で仕留めていく。
ガストンはさすが元Sランク冒険者とでもいうかのような戦いぶりであった。振り回すのは巨大な大剣。一振りするごとに複数の魔物が巻き込まれて吹っ飛んでいく。
魔法による殲滅、シュンたちの奮闘もあり戦闘開始から十分程度で魔物はその数を半分程度にしていた。
シュンたちのあまりの迫力に本能的に悟ったのか逃げだす魔物まで出始める。
しかし今の精神状態のシュンがそんなことを許すわけがない。自分から背を向けた魔物を見つけると、にやりと笑いながら斬撃を飛ばしその体を真っ二つにする。その姿を見ていたものがいたら悪魔と呼ぶに違いない。
半分となり勢いの衰えてきた魔物たちにシュンたちは手を休めることなく屠っていく。
シュンもだいぶ二刀流の扱いに慣れてきたようで、襲ってきたイノシシ型の魔物に対し左手の刀でガードしもう片方で斬りつける。さらにその奥から出てきた狼のような魔物には斬りつけた反動で体をひねりガードした刀で斬りつける。さらに体をひねった時に見えた後ろから迫ってくる狼のような魔物には回し蹴りをお見舞いし吹き飛ばす。
そうして順調に数を減らしていったところでクリスから合図があり全員が一度戻ってくる。
それを撤退と見たのか魔物たちが襲ってくるがクリスが完成していた魔法を繰り出す。
「テンペストストーム」
刃の風が荒れ狂うように戦場を駆け抜ける。いくつもの刃の風が先頭で襲ってきていた魔物を貫通して切り裂いていく。
無数の風が通った後には魔物は残っていなかった。辛うじて風に当たらなかった魔物たちは我先にと逃げていった。
逃げていく魔物を見ながらシュンたちはハイタッチなどをし、喜び合う。
Bランクの冒険者たちは死ななかったことが奇跡というかのように喜んでいる。
どうやらシュンたちの実力も分からないので死を覚悟してやってきていたようだ。
こうして、突発的に起こったスタンピードはあっけなく殲滅されてしまった。
個人的に爆裂魔法に憧れていたので爆発魔法として使ってしまいました。火属性魔法と言ったらこれじゃねえだろというツッコミは御容赦下さい。
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