旅と倒れた少女
遅くなりました。
フォレアの街を出て三日が経った。
想像よりもしんどくない旅で結構楽しんでいる。
馬車で酔うこともなく、魔物ももっと出ると思っていたのだがそこはクリスの出番でほとんどの戦闘を回避していて、やることがなさ過ぎてこの三日間で馬車の操縦を覚えてしまったほどだ。
覚えるのが早すぎると言われたが、前の世界の頃からこういうののコツは結構早くつかめることが多かった。
まあその分そこまで上達しないから何事もそこそこで終わっていたのだけど……
それに忘れがちになるがもしかしたら創造神の加護というティナからもらった加護の能力が発揮されているのかもしれない。まあ自分で使っているという感覚がないからわからないのだが。
そういえば、人族には加護が授けられるとか言ってたからシオリも加護があるんだよな。今度聞いてみよう。
「シュンさん、このあたり一帯には魔物の気配はありません。それにもうすぐ日も暮れます、そこの岩陰で今日は休みましょう」
馬車を運転しそろそろ聞こうかと思っていたところで、先にクリスが野営の申し出をしてくれた。
「わかった、なら今日はここで野営をしよう」
そうと決まると、馬車を停止させて、野営の準備をしていく。
三日目ともなると慣れたもので、それぞれ役割分担しながら準備を進めていく。
一日目はシオリがいなかったら……と思うほどの動きだったものだ。
テントを立てたりするのだが、前の世界でキャンプなどしたことのない俺は組み立て方などもちろん知らず、クリスも組み立てたことがないと、すると必然的にシオリがやることになる。さらに、馬車を引いてくれている馬もシオリにやってもらうとシオリに迷惑をかけっぱなしであった。
今では組み立て方も覚えたし、馬の世話もできるようになった。まあ、唯一の問題でかつ最大の問題であるのが食べ物だ。
一日目は各自のお弁当でいけた。問題が発覚したのは昨日だ。誰もまともに料理が出来ないというまさかの事態であった。シオリは食べられれば問題なしと肉を焼くしかできない。クリスは料理をしたことがないと。俺はというと学校の調理実習程度の技量しかないうえ、この世界の食材については全く知らないので、もう肉を焼き、買ってある携帯食の日持ちのするパンを食べるという食事になった。
本日もまた道中で倒したウサギの肉を焼いたものとパンという食事である。
そんな食事も終わり、見張りの順番を決め寝ることにする。
今日はほとんどずっと馬車を運転していたので、ゆっくり寝てほしいと言われ見張りは最後になった。
ぱちぱちと火の音が聞こえてくる中で考える。
昨日の夜の見張りの時、暇だったので二刀流の練習をしてみたが全然うまくいかなかった。
刀一本を使っていた時は両手だったり片手だったり自由に使えてやりやすかったのだが、二本となった時に片方に集中がいくと反対の手が全然使わなくなってしまうのだ。あと、左手の刀の扱いが難しすぎる。さらに、刀に魔力を通すのも試してみたのだが片方にしかうまく魔力が通らず、二本に魔力を均等にわたらせることの難しさを痛感させられた。こんなのでは、大戦で見た人族の体中に魔力を通すあの技はいつできることになるのやら。
うん、眠くなってきた。やはり馬車を運転して疲れていたのだろう。
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ドーン、ガーンという音で目が覚める。
「シュンさん起きてください。魔物の群れが襲ってきました」
飛び起きて、刀を取り出す。
そのまま声のしたほうに急いで向かうとシオリとクリスが狼型の魔物と戦っていた。
駆けつけた時には五十はいたであろう魔物の半数程度が既にやられていた。
「悪い、遅くなった」
「大丈夫です」
謝りつつ、襲ってきた魔物を斬りつける。
「おお、シュン殿遅いでござるよ、もう半分程度倒してしまったでござる」
「それは本当にすまん。大丈夫か?」
「うむ、最近あまり戦いがなくなまっていたのでちょうどいいでござる」
「ははは、それならよかったのかな」
とりあえずヤバそうな状況じゃなくてよかった。
それでも、二人が戦っているときに寝ていたという事実はなくならないので、魔法も刀も使って全力で殲滅していく。二人に戦わせていた罪悪感、俺が寝ているときに襲ってきたことを後悔させてやる。
刀に魔力を通し、一撃で屠りつつファイアーアローやアイススピアーなどの魔法も間で放ちつつ倒していく。
途中でイノシシ型の魔物も襲ってくるというアクシデントがあったものの、最後はクリスの広範囲にわたる魔法による攻撃で魔物を全部倒しつくす。
ただ、それなりに時間もかかり、倒し終わるころには日が昇り始めていた。
少し早めの朝食をとり出発をする。
俺だけが寝させてもらっていたので、俺が馬車を操縦し、二人には中で寝ておいてもらうようにする。
クリスが寝ていて周囲に魔物がいるか教えてもらえない分自分で周りを警戒しつつも、そうそう魔物が出てくるというわけでもなくゆったりと馬車に揺られ続ける。
遠くにいる魔物を魔法で倒し、魔法の練習をしたり二刀流の動きをイメージトレーニングしたりしながら進んでいると、ちょうど昼前ごろだろうか、ずっと一本の道だった街道が二手に分かれる道が出てくる。
どっちか分からず、二人に聞こうかと、馬車の中を覗くが二人は気持ちよさそうに寝ている。というか、二人の無防備な姿に見てはいけないものを見たような気がしてすぐに幕を閉める。
無防備すぎる、夜の見張りの時も思っていたのだが二人が全く警戒をしていないのだ。信頼してくれるのはうれしいのだが俺だって男、もう少し警戒をしてほしいものだ。理性を保ち、二人をなるべく見ないようにする精神統一が何気にこの旅の中で一番きついかもしれない。
と、今は道のことだな。まあ、二人を起こすのも悪いし地図はシオリから渡されている。
地図と今の道を見るにたぶん左に行く道がバルクということだろう。というかだいぶ予定より早い気がする。地図だとバルクまであと一日で着くような距離である。
やはり、いい馬車だと移動も早くなるのだなと思いつつ馬車を左の道に進ませていく。
しばらく馬車を進めると、前方に一つの黒い影が道にあることに気づく。
どうやら黒い影は人のようなので、急いで馬車を止め駆け寄る。
「おい、大丈夫か!おい」
倒れていたのは前の世界でいうと小学生くらいの少女だった。
声を掛けても起きないので、揺さぶりながら声を掛ける。息はしているようなので死んではいない。何かがあって、ここで倒れてしまったのだろう。
体をゆすりつつ、声を掛けていると少女の目が開く。
「おお、よかった。大丈夫か?何があったんだ?」
少女は状況を把握できていないのかゆっくりと顔を動かし、シュンが揺するために手を置いていた肩、そしてシュンの顔を確認する。もう一度確認をし直す。
少女の意味の分からない行動に疑問を顔に浮かべつつ、もう一度大丈夫か?と問いかける。
「キャァァァァァ」
返ってきたのは返事ではなく悲鳴と見事な右ストレートであった。
新ヒロイン登場です。
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