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箱庭と精霊の欠片 すくうひと  作者: 日室千種


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王都11 (灯の影)

 読み終えた紙片を放り出し、義弟は長椅子に深く腰を下ろした。整えてあった明るい色の髪をぐしゃりと乱し、息をつく。

 憔悴しているのは明らかだ。王都に着いてから十日余り、体か頭を働かせ続けている。妹のため当然とは思えど、それでもまあ、予想より遥かによくやってくれている。

 夕食前の歓談のための部屋に入り家族を待っているこの時間に、ここまで疲れを見せてしまうほど、なのだろう。

 アリアルネは、そっとグラスを差し出した。


「おつかれね」


 気を取り直したように義弟は姿勢を正し、香り高い労いを受け取った。


「なんとか、片付きそうね」

「おかげさまで。大いに助かりました」

「出張るつもりはなかったのだけどね。つい、我慢がきかなくて。夫には、叱られたわ」


 あえて戯けて、肩をすくめる。

 つい先日家族となったこの男性との、距離を測る。


「あの人が、貴女を叱る? まさか」


 先日よりは、少し砕けた様子の義弟は酒に口をつけながら、笑みを含んだ。

 いや、というより、その見透かしたような言葉は何なのだ、とアリアルネは少し腹が立ったので、軽く仕掛ける。


「本当よ。あなたにすべて任せて、見極めなければならないって言ってたわ。ふふ、情報操作は苦手なくせに、そういうところは、押さえてるのよねえ」

「……それは、貴女は私には任せられないと判断したということですか」

「直球ね」


 意外に真剣な表情で見つめられ、アリアルネは顔に出さないまま、にんまりと笑った。どうやら、義姉からの評価が気になるらしい。まだまだ、妹の夫として自信がないということだろうか。

 アリアルネは、義弟から飲みかけの杯を取り上げた。

 入れ替わりに、仕立ての良いシャツの襟元を、二本の指の赤い爪で、つん、と突いた。


「どうかしらね。確かに、時間が少しかかりすぎだとは思うわ。ミリアンネ(奥様)も、かわいそう。ずっと、ほったらかしなんでしょう?」

「身辺警護は十分に」

「ふふ、心は、どうかしらね。きっと、傷ついてるわ」


 義弟は、答えない。ずるいところもあるようだ。

 目には目を、と、アリアルネは、あざとく、その青い目を覗き込んだ。


「貴方が、任せるに足りるかどうか、今からでも、証明して?」

「言われずとも。逃しは、しない」


 男が、その腕を伸ばし、アリアルネから再度杯を取ると、ぐっと呷った。

 揺らめく火が映り込んだか、金色がかった青い眼が、獲物を見据えるかのように鋭く細められた。見つめていたのは、箱庭師を貶める噂の根源か、それとも、箱庭師その人か——。



連日更新にお付き合いくださって、ありがとうございました!

そろそろ推敲済み文章ストックが切れるので、以降、不定期更新に切り替えます。

よければ、ブックマーク等、よろしくお願いします。

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