066 地裂怒涛が真の力を発揮するのは、二撃目だという事を教えてやる!
倚天太白が沙門の前で、崩れ落ちたのと同時に、大岩の陰にいた烈鬼も、その場に崩れ落ちる。
「い……糸に、気を……つけろ」
意識を失いかけながらも、烈鬼は最後の気力を振り絞り、仲間に情報を残すべく、消え入りそうな声で、言葉を続ける。
「奴の糸は……不朽……装甲の、隙間に……入り込……む」
それだけを言い残し、烈鬼は完全に気を失う。
俯身耍で操っていた殭屍を破壊されてしまえば、術者は気絶状態に追い込まれてしまうのだ。
「まさか烈鬼が、倒されるとは……」
地に伏した烈鬼を見下ろしながら、愕然とした表情で呟く剛鬼に、艶鬼が食ってかかる。
「お前がさっさと、地裂怒涛の二撃目を放たないからだよ!」
「放てるものなら放っている! 溜めが間に合わなかったのだ!」
剛鬼は負けずに、強い口調で言い返す。
広範囲に大破壊を引き起こす、地裂填星の大技である地裂怒涛は、一度放ってしまうと、再度放つ為には、屍気を溜める時間が必要となる。
故に、剛鬼は二発目を放つ為に、地裂填星に屍気を溜めさせていた。
だが、地裂填星が屍気を溜め終わる前に、倚天太白が倒されてしまったのだ。
地裂怒涛に必要な屍気を溜めるのに、長時間かかる訳ではない。
沙門と倚天太白を操る烈鬼の戦いが、その動きと攻撃の激しさの割りには、大した時間が過ぎずに、決着がついってしまった所為である。
「――だが、ようやく溜まった!」
地裂填星の目を通し、倚天太白が倒れている辺りに、まだ留まっている、沙門の姿を視認しながら、剛鬼は声を上げる。
地割れだらけの地面の中で、比較的整っている辺りに跪き、左手を押さえている沙門の姿を。
「倒されたとはいえ、烈鬼は役割を果たした! 初撃の破壊範囲に、四季王沙門を留め切ったんだからな!」
剛鬼は不敵な笑みを浮かべながら、強い口調で言葉を続ける。
「地裂怒涛が真の力を発揮するのは、二撃目だという事を教えてやる!」
地裂填星は、下ろしていた地裂狼牙を振り上げると、剛鬼と共に鋭い声を発する。
「食らえ! 真の地裂怒涛……地裂海嘯!」
直後、地裂填星は地裂狼牙を、勢い良く振り下ろす。
夜の空気を震わす程の、爆音の如き衝撃音を響かせ、地裂狼牙が大地を打つ。
地裂怒涛の初撃と、振り下ろされた攻撃の威力自体は変わらないのだが、攻撃が発生させる現象が違う。
何故なら、初撃と殆ど同じ方向に向けて放たれた、地裂怒涛の二撃目は、既に破壊し尽くされた大地に、再び襲い掛かるからだ。
初撃は大地を衝撃波で砕いた上で、あたかも土砂岩石群が作り出した、荒れ狂う大波……怒涛の様に、土砂や岩石群を大量に弾き飛ばしながら、猛然と突き進む地割れだ。
だが、既に破壊し尽くされた範囲に、二撃目の地裂怒涛が襲い掛かった場合、地面を破壊する分の破壊力が不要となり、それがそのまま土砂岩石群を弾き飛ばし、舞い上げる力として上乗せされる。
当然、土砂岩石群が作り出した、地を駆ける荒れ狂う大波の大きさや勢い……威力は、初撃を遥かに上回る。
故に、初撃が破壊し尽くした範囲に放たれる、二撃目の地裂怒涛は、大波を越える津波という事で、津波を意味する海嘯の名を持つ、地裂海嘯となるのだ。
烈鬼の倚天太白と、剛鬼の地裂填星の連携の締めが、この地裂海嘯。
初撃の地裂怒涛を跳び越えた沙門を、倚天太白は倒せずとも、初撃の地裂怒涛が破壊した範囲内に留めておくだけで、回避も防御も困難である、地裂填星の地裂海嘯に繋げたのである。
剛鬼の「倒されたとはいえ、烈鬼は役目を果たした!」という発言は、烈鬼の倚天太白は倒されたが、沙門を初撃の地裂怒涛が破壊した範囲内に留めておくのには、成功した事を意味していた。
地裂海嘯で沙門を仕留める為の条件を、倚天太白と共に倒されながらも、烈鬼は整えていた。
そして、沙門はといえば、倚天太白と烈鬼を倒したものの、大きな損傷を身に受けていた。
特に左腕の状態は酷く、内功を駆使して必死で止血を続け、何とか出血は止めたのだが、応急処置でどうにかなる程の傷ではなく、この戦いで左腕は、もう使えないのは明らかな状態。
何とか止血が終わった段階で、沙門は視覚だけでなく、轟音と地面の振動からも、地裂怒涛の二撃目が放たれたのを察する。
(さっきの土石流みたいな奴か!)
地裂怒涛や地裂海嘯という名を知らないので、「土石流みたいな奴」と表現しつつ、周囲を確認。
地裂填星の初撃では、倚天太白と連携していたので、残り二体の内の一体……胡蝶熒惑が、接近して来ていないかどうかを、確認したのだ。
周囲に胡蝶熒惑の姿は無かったので、沙門は地面を蹴って跳躍。
地面が揺れているせいで跳び難いのだが、それでも前回以上の十五歩程の高さまで、沙門は一気に舞い上がる(十五歩は二十二メートル半)。
前回以上の高さで跳んだのは、十歩程の高さまで跳んだ前回、荒れ狂う土砂岩石群に、危うく巻き込まれそうになったので。
跳び難い状況ではあるのだが、必死で前回以上の高さで、沙門は跳んだのだ。
(――え?)
宙に舞い上がりながら、地響きを立てて空気を震撼させ、迫り来る土砂岩石の大波を目にした沙門は、異変に気付く。
(どうなってるんだ? さっきのより高いじゃねぇか!)
土砂岩石群の大波が、前回の倍以上の高さである事に、沙門は今になって気付いた。
自分が跳んだ高さでは、襲い来る土砂岩石群の大波……いや、津波を回避出来ない事にも。
右掌から掌力を下に向けて噴射し、跳躍の高さを上乗せしようとするが、それだけでは間に合わない。
(回避は無理だが、これにまともに巻き込まれたら、やられる!)
その現実を悟った沙門は、無数の弾弓の弾丸に匹敵する威力がある、土砂岩石群による損傷を抑える為、内功を硬功に切り替える。
皿に、右手で腰包から、予備の飛錘を取り出すと、その縄に硬気を流しつつ、迫り来る地裂海嘯に向け、硬気の盾……花錘を展開。
(持ち堪えるのは無理でも、これで威力を少しでも殺げれば……)
殺げれば、助かるかも知れないと、心の中で独白している最中に、地裂海嘯が沙門の元まで辿り着く。
展開した花錘ごと、荒れ狂う土砂岩石群の津波に、沙門は飲み込まれてしまう。




