外传:第一章:全球防御体系
GDI。正式名称は「全球防御体系」。英語名はGlobal Defense Institutionである。
地球連合軍および国際連合の管轄下に置かれた最高軍事機関であり、全世界の軍事体系と軍事力を統括する。ブルースターの人類にあって最大の権限と最高の地位を有する軍事裁決法廷でもある。
新纽约克は、阿美莉卡で最も重要な経済地域であり、アメリカ全土のエリート階級が集う場所だ。過去二度の世界大戦後、敗戦国から最も多くの経済的利益を獲得した土地でもある。世界の大半の国際組織が本部や支部を置いており、ブルースターのホモ・サピエンスにとって最重要の地と言っても過言ではない。
そして今、GDI――全球防御体系の本部ビルは、マンハッタン区東側の東河沿岸、国連本部のすぐ隣にそびえる金穹ビルにある。ブルースターのホモ・サピエンスの末裔たる現代人類の軍事力を決定づけてきたそのビルの内部で、ひとつの小さくない騒動が巻き起こっていた。
百余りの小国が連名で、太陽系の地球駐在全権代理人に「GDIを廃止し、より穏健で人道的な軍事防御機構に改めるべきだ」と上申したのだ。
これに対し、高盧側のスポークスマンは言った。
「全球防御体系はブルースターを侵略から守る最高の軍事組織であり、防衛力である。いかなる言い訳があろうと、廃止など許されない」
毛熊国側のスポークスマンは言った。
「この軍事連合の力が阻んだからこそ、国家社会主義という邪悪な思想と主義が世界に蔓延せずに済んだ。今日の貴重な平和こそ、この体制が存在する意義である。ウラー!」
阿美莉卡側のスポークスマンは言った。
「今年、お前たちの軍事費を一割増とする。我々が売りつける軍事装備を買うためにな」
会場には、呂宋国(ルソン国)の席があった。参会者である呂宋領事館の大使は、隣席のマラヤ大使と言葉を交わしている。二人の面持ちからすると、内容はあまり愉快ではないらしい。
両国はともに中華文明の属国であり、かつて外来民族から侵略を受けたこともある。国際的には、両国と彩雲国、越国、韓国、日子本国、琉球は並んで「華夏七小子国」と呼ばれている。華夏文明の影響を深く受けており、服装、文化、文字、言語、民族構成、経済の主体に至るまで華夏と密接不可分だ。
それゆえ、これら諸国は私的に行き来することも多く、王室同士が縁戚を結ぶことも珍しくない。新仲国の成立過程で重要な役割を担った彼らの近代交流史は、中学の歴史教科書でまるまる十ページを占める戦慄の歴史である。
「ハクオロ閣下は現在、国内の反乱鎮圧に忙殺されておられる。現世の厄災と大波を食い止める兵力を割くことはできぬ。我々中華七子国が団結して、天下の秩序を守らねばならない」
マラヤ王室の一員であり、GDI駐在副使でもあるイブラヒム・デルタ・イスカンダル・スルタン・アホンが、そう言った。その顔には明らかな焦りが浮かんでいる。
「然なり。アホン閣下のお言葉、ごもっともでございます」
呂宋島新宋連邦兼三大島嶼総代理人・趙天成が相槌を打つ。彼の表情も同様に冴えない。
「今や時勢は腐り果て、国際関係は混迷を極める。大国は傍若無人に振る舞い、小国は徒党を組む。旧き日の残影は暗がりに潜み、機をうかがっておる。野心家や陰謀家どもは、不埒な企みを巡らせておる」
「はぁ……まったく、多事の秋だな」
彼は嘆息した。
「システムが提示したノルマが高すぎる。我が国では若く精鋭な人員の消耗が速すぎる。このままでは、今後のストーリー、章、シーズンにおいて、我が国が望むような成績を収めることはできまい」
「今年もまた霊気の活性期が来る。各地の霊獣が騒ぎはじめれば、世界各地の人々はまた多くの災厄に見舞われることだろう。難民がイギリスやフランスへ流れ込むに違いない」
「だが、ただひとつの浄土は、国境を開いて難民を受け入れようとはしない。古代の賢明な聖王たちであれば、民の死活を顧みずにはおくまい。必ずや国境を開き、哀れな人々を受け入れたはずだ」
会議が終わった。二人は手を携え、金穹ビルの外に広がる「万族万国平和通り」を歩いていく。
趙天佑は、川の対岸にそびえるヒーロー協会の本部ビルを眺めた。それに比べると、GDIの本部はどうにも小ぢんまりとしている。まさかヒーロー協会と政府の内部役人との間に、何か黒い取引があるのではあるまいな。でなければ、帝国大厦よりもずっと豪奢な建物になるはずがない。
葉巻をふかしながら、ヒーロー協会の巨大なネオンカラーのロゴを見上げ、趙天佑の目には思わず渇望の色が浮かんだ。ルソン島のヒーロー協会とは比べ物にならない。規模も豪華さも、隔絶した世代差がある。
「いつ我が国にもこれほどの財力が生まれ、かくも絢爛たる協会を築き、趙宋に忠義を尽くす民間の英傑たちをすべて招き入れることができるようになるのだろうか」
趙天佑はぽつりと呟き、煙をひとつ吐き出した。白い煙が、たなびいていた。




