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『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している』  作者: スコ平おじさん


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第七話 胃袋の檻(おり)

自衛隊の内部データという強力な武器を失っても、俺たちの『事実陳列』は止まらなかった。

むしろ、目に見えない国家の監査網を背に受けたことで、俺と御剣の同盟はより冷徹な純度を増していた。


放課後の誰もいない教室。

御剣がスマートフォンをフリックしながら、ため息混じりに呟いた。


「佐藤くん、これを見て。最近のニュース、どこもかしこもお米の値上がりの話ばかりよ」


画面には『令和の米騒動、価格高著に悲鳴』『主食をお米から食パンや麺類に切り替える家庭が急増』という街頭インタビューの記事が踊っていた。


「みんな『お米が高くて買えないから、安いパンやパスタで節約しよう』って笑いながら話してるわ。……本当に、絶望的なほど何も見えていないのね」


「ああ。これこそが、この国の人間が陥っている最大の認知バイアス(思い込み)だな」


俺はノートPCを引き寄せ、管理人IDでログインした。

今回は内部機密など必要ない。国が一般に公開している、誰も見ようとしない農林水産省や資源エネルギー庁の公式データをただ並べるだけで、彼らの「逃げ道」がどれほど絶望的かが証明できる。


慎重に、第六弾となるスレッドタイトルを打ち込んでいく。


『オキュパイドジャパンの事実陳列』

『第六弾:米の高騰でパンに逃げる愚者と、ホルムズ海峡の絞首刑台』


俺は一切の感情を排し、冷徹な数字のカードを画面に陳列していった。


【1:昨今のお米の価格高騰を受け、多くの国民が『パン』や『麺類うどん・パスタ』へ主食を切り替えている。しかし、日本の小麦の自給率はわずか17%前後に過ぎない。つまり、国民がお米から逃げた先は、約8割以上をアメリカやカナダ等の外国からの輸入に依存している『完全なる檻の中』である。】


【2:そして何より、この国の食料を海外から運んでくる商船、およびエネルギー自給率わずか12%の命綱である『原油』の9割は、すべて中東の【ホルムズ海峡】を通過して運ばれている。輸入ルートがたった数週間封鎖されれば、船は止まり、主食は干上がる。これが、我が国の生存の現実である。】


【3:これに対し『我が国には約9ヶ月分(約250日分)の圧倒的な石油備蓄があるから、中東のホルムズ海峡が封鎖されてもエネルギーは問題ない』と反論する者が必ず現れる。だが、その数字の『中身』を算数したことがあるか?】


【4:備蓄の半分以上を占める国家備蓄は、各地の基地に『原油』の状態で保管されている。これを各地の製油所に運び、ガソリンや軽油として使える状態に精製して末端に届けるまでには、数ヶ月単位の膨大なリードタイム(時間の壁)がかかる。また、すぐに動かせる民間備蓄は日常の物流を回す最低限の運転在庫であり、これを取り崩せば瞬時に国内の流通網が麻痺する。エネルギーの備蓄はあっても、小麦の長期的な国家備蓄など存在しない。9ヶ月のカウントダウン付きの絞首刑台に座っているのが、この国の実態である。】


エンターキーを叩き、ネットの海へデータを放流する。

毎日食べている「ご飯やパン」の話、そして「9ヶ月の備蓄の本当の罠」が暴かれたことで、スレッドの拡散スピードはこれまでの数倍に跳ね上がり、ネット住民たちの間に生々しい恐怖が広がっていった。


     *


それから、三日後の放課後だった。

いつものように教室の隅でノートPCを開こうとした時、隣の御剣が、これまでにないほど強張った顔で画面をこちらに向けてきた。


「……佐藤くん、これを見て。サイバー対策班の動きが、自衛隊の内部監査だけじゃ収まらなくなってる。私たちの掲示板への接続ログ……プロキシを迂回する前の、大元の暗号化通信の足跡が完全に国側に解析されたわ。学校の固定IP(Wi-Fiネットワーク)からアクセスされた形跡が、上層部に特定されてる」


「何だって……? つまり、この学校の誰かがスレ主(管理人)だってことが、完全にバレたのか」


「ええ。もう時間の問題よ。国側が学校の設置管理者に照会をかければ、名簿から犯人を絞り込むなんて一瞬――」


その時だった。カツン、と静まり返った廊下に革靴の音が響き、俺たちの教室の前でピタリと止まった。ガラガラと引き戸が開けられる。


「――佐藤くん、御剣さん。ちょっといいかね」


入ってきたのは、担任の山崎先生だった。いつもなら呑気に出席簿を叩いている男の顔が、今は見たこともないほど蒼白になっており、その奥の目は明らかに恐怖に怯えていた。


「今、職員室に『上』から連絡があってね。文部科学省の担当者と、政府の調査官を名乗る人物が校長室に来ている。……二人に、折り入って話があるそうだ」


俺たちがこの国の「生存の命綱」に触れ、ネットの足跡から特定された瞬間、国家のシステムは、より静かで、より拒絶できない形で、俺たちの日常を完全に侵食しにやってきたのだ。


(第七話 終)

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