表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している』  作者: スコ平おじさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

第六話 歪んだ防衛の形

第五弾となるスレッド『戦力を否定しながら世界トップクラスの軍隊を持つ矛盾と、日米地位協定の歪み』を投下すると、掲示板はまたしても激しい議論の戦場と化した。.


国家のハッタリ警告を逆論破したことで、スレの住民たちの本気度は跳ね上がっている。だが、今回は「憲法9条」という、現実の日本でも何十年と擦られ続けてきた最大のタブーだ。


当然、生半可な荒らしではない、ある程度『知識』を持った人間からの、極めて論理的な反論が書き込まれた。


『管理人さん、流石に今回は勉強不足じゃない? 憲法9条で戦力不保持って書いてあっても、国際法(国連憲章第51条)では全ての国に「固有の自衛権」が認められてる。国際法は国内法より優先されるから、自衛隊が存在するのは完全に合法だよ。自衛権があるんだから、何もおかしくない』


「……ふん。やっぱりこの反論が来たわね」


放課後の誰もいない教室。

ノートPCの画面に映ったそのレスを見て、御剣怜が鼻で笑った。

その表情には、すべてのチェスの指し手を読み切っているグランドマスターのような絶対的な余裕があった。


「国連憲章の自衛権、ね。ネットの法論争で必ずドヤ顔で持ち出される、定番中の定番の盾だわ。でもね、そもそもみんな大きな勘違いをしているのよ」


「ああ。普通の現代社会の人間なら『国連』という言葉の響きだけで納得して議論を終わらせる。だが、その言葉の正体こそが、このオキュパイドジャパンという世界の前提条件だ」


俺は不敵に笑い、キーボードに指を置いた。

国連憲章の自衛権という盾を、その言葉の真実で粉砕してやる。


【管理人より。国連憲章の『自衛権』を持ち出して自衛隊の存在を正当化しようとする者へ。その国際法の基準を語るなら、なぜ我が国だけがその自衛権すら歪められているのか、以下の『事実』を確認されたし。】


俺は、流れるようなタイピングで、次の事実データを画面に叩きつけた。


【1:そもそも『国際連合(国連)』の英語名は『United Nations』。これは第二次世界大戦における『連合国』という言葉そのものである。つまり国連憲章とは、戦勝国である連合国が作った世界秩序のルールブックに過ぎない。】


【2:その証拠に、国連憲章第53条、および第107条には、通称『敵国条項(Enemy Clauses)』がいまも文字通り残されている。この条文における『敵国』とは、第二次世界大戦の敗戦国――すなわち我が国『オキュパイドジャパン』やドイツ等のことである。】


【3:この条文の内容は『かつての敵国が再び怪しい動きを見せた場合、国連安保理の許可を得ることなく、周囲の国(連合国)はいつでも制裁や軍事介入を行ってよい』というものだ。】


【4:国際法上、我が国は今も『普通の自衛権を持つ対等な独立国』ではない。いつでも他国から合法的に武力介入され得る『潜在的な占領対象(敵国)』としての枠組みから、1ミリも脱却できていない。】


一瞬で、スレの進行がピタリと止まった。


自衛権があるから普通だ、と信じ込んでいたスレの住民たちにとって、「国際連合」という奇麗な言葉の正体が「自分たちを縛り続けるための連合国」であり、いまだに「公式の敵」として登録されているという事実は、あまりにも重すぎる冷水だった。


「嘘だろ……敵国条項って本当にまだ残ってるのか?」

「ググったらマジで国連憲章の原文に出てきた。翻訳も連合国になってる……」

「憲法9条で縛られ、国際法でも敵として扱われながら、他国の防衛(米軍の盾)として世界トップクラスの軍隊を維持させられている……。これが、この国の本当の形なのか?」


ドヤ顔でマウントをとってきた知識人気取りのレスは、二度と書き込まれることはなかった。

圧倒的な一次ソースの前に、ネットの狂熱が静かな戦慄へと変わっていく。


「……お見事。これでネットの知識層も完全に黙ったわね」


御剣が椅子の背もたれに体を預け、満足そうに息を吐いた。

だが、彼女がスマートフォンを俺に向けた瞬間、その冷徹な横顔にわずかな緊張が走った。

画面には、彼女の父親が所属する自衛隊補給統括部の、内部のセキュリティログが表示されている。


「お父さんの部署のサーバーに対して、上層部から臨時の監査が入ったそうよ。昨日私たちが陳列したデータの『流出元』を特定するために、完全に逆探知の網が張られ始めてる。これ以上、防衛省の内部から数字を引っ張ってくるのは不可能よ。お父さんにも迷惑がかかるわ」


ネットワークの向こう側で、国家の『本物の組織』が、冷徹なシステムとなって水面下で確実に俺たちを追い詰めようとしていた。


それでも、俺の心にあるのは恐怖ではなかった。


「問題ないさ。お父さんの内部データに頼るフェーズはもう終わりだ。雑魚を散らし、国が本気で俺たちを警戒し始めた今だからこそ、次のカードが活きる」


俺は手帳の次のページを開いた。


「次は、法律や軍隊なんていう遠い話じゃない。一般 of 国民全員の胃袋と命綱を握っている、最も身近で最も冷徹な数字を陳列してやる」


目に見えない国家の包囲網を背に受けながら、俺たちの『事実陳列』は、この国の生存の根幹へと牙を剥き始めていた。


(第六話 終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ