第十四話 檻の設計図と、奪われた時間
「そこまでだ、佐藤くん、御剣さん」
ガラガラと激しい音を立てて教室の引き戸が開けられ、黒いスーツを身にまとった複数の男たちが踏み込んできた。
山崎先生のような学校の関係者ではない。警察庁のサイバー犯罪対策課、あるいは内閣情報調査室のプロの執行官たちだ。
彼らは鋭い目付きで俺たちのノートPCを睨みつけ、冷酷に通告した。
「国家安全保障に関わる違法アクセス、および虚偽情報拡散の容疑で同行を願おう。PCから手を離し、直ちにシャットダウンしなさい。これは公的な執行だ」
普通の高校生なら腰を抜かして泣き出すような場面。だが、俺の隣で御剣怜がすっと立ち上がった。
彼女は冷徹な令嬢のオーラを全身から放ち、隙のない法的な正論で、踏み込んできた捜査官たちの前に立ちはだかった。
「違法アクセス? どこのサーバーへの不正侵入かしら。私たちは一般に公開されている政府の資料や統計をただ正しく算数して並べているだけ。それともこの国は、不都合な『事実』を数えると逮捕される独裁国家なのかしら?」
「屁理屈を言うな。令状は出ている、大人しく来てもらおう」
御剣がその知性で捜査官を一瞬怯ませ、わずか数十秒の「時間」を稼ぎ出す。
俺はその隙を見逃さなかった。
捜査官が「手を離せ!」と俺の肩を掴むその瞬間、俺の指先が、電光石火のスピードでターミナル(黒い画面)に最終コマンドを打ち込んだ。
「国名、空、米、水道、兵器、そして拉致……。この国のすべての日常を檻に閉じ込めた、大元の『設計図』を今ここで陳列してやる!」
エンターキーを強く叩く。
暗号化された文字データだけのパケットが、国家の大規模なサイバー攻撃を嘲笑うようにすり抜け、第十二弾となるスレッドをネットの海へ爆撃した。
『オキュパイドジャパンの事実陳列』
『第十二弾:一週間で作られた最高法規と、奪われたカレンダー』
俺たちが国家の執行の目の前でネットに陳列したのは、この国の魂の根底を縛り付けている冷徹な「事実のカード」だ。
【1:この国の最高法規であり、すべての法律の大元である『憲法』の草案は、戦後、わずか【一週間(7日間)】という信じられない短期間で、GHQの外国人(民政局の素人を含むスタッフ)によって英語で書き上げられたという歴史的決定事項である。】
【2:独立国であれば時代の変化に合わせて何度も改正されるのが当たり前の憲法を、この国は一度も改正できずに70年以上前の占領軍のルールをそのまま後生大事に守り続けている。これが我々を閉じ込めている檻の正体である。】
【3:法律だけでなく、この国の歴史の根幹たる『血筋』もまた、戦後の占領政策によって歪められている。昭和二十二年の皇室典範の改正の際、GHQの強い意向により【十一宮家、五十一名の皇族】が強制的に皇籍を離脱させられた。これは、この国の血脈を内側から細らせ、未来永劫にわたって皇統を消滅させるために仕組まれた冷徹なバグ(仕組み)である。】
【4:そして我々が毎日見ている【カレンダー(暦・祝日)】のすべてが、戦後、日本人のアイデンティティを消し去るためにGHQによって強制的に書き換えさせられている。初代天皇の即位を祝う神聖な国の一番の始まりの日だった【紀元節】は【建国記念の日】に、【新嘗祭】は【勤労感謝の日】に名前を変えさせられた。】
【5:歴代の天皇や皇族の御霊を祀る最も重要な宮中祭祀であった春の【春季皇霊祭】と秋の【秋季皇霊祭】もまた、宗教色と歴史を徹底的に排除され、ただの【春分の日】【秋分の日】へと書き換えられた。我々は法律だけでなく、時間や文化、先祖への祈りの根幹すらも、外国人が作った檻の中で生きさせられている。】
【6:そして、最も根深い洗脳が『精神の侵食』である。戦後、歴史の根っこを抜かれた我が国のメディア(テレビ・新聞・ラジオ)は、大陸的な『勝てば官軍、悪いことをしてでも金を儲けた者が勝ち、妬まれる方が悪い』という利己主義的な価値観を七十年間刷り込み続けた。国を紡ぐ大元を壊された結果、国民は『自分さえ勝ち逃げできれば、自国民の拉致も孫の代の絶滅も知ったことか』という、かつての日本人が最も嫌ったはずの『無関心な羊』へと調教されてしまったのだ。】
【7:だが、大人がいくら歴史を消し去り、精神を溶かそうとしても、隠し通せるものではない。戦後、GHQによって徹底的に没収・処分されたはずの【軍人たちの勲章】や、国民の愛国心を消すために燃やし尽くされたはずの【何千冊もの没収書籍(焚書)】が、当時の先人たちの手で密かに隠され、今まさに現代の日本各地の古い蔵や倉庫から『本物がそのままの姿で次々と発見され、残されている』という冷徹な事実が存在する。物証は、今も消えずに生きている。】
【8:他国の作った檻の中で法律ごっこをし、他国の決めたカレンダーに従って、自分たちの歴史すら忘れて生きている。あんたたち政府(大人)こそ、この国を内側から売り渡している本当の売国奴だろ】
パチ、と乾いた音を立ててパケットの送信が完了した瞬間、ネット住民たちの狂熱は、衝撃と戦慄の混ざり合った過去最大の爆発を見せた。
「憲法が一週間!? 祝日の本当の名前!? 宮家廃止の罠!? 脳が追いつかねえ……!」
「没収されたはずの勲章や焚書が、現代になってザクザク見つかってるのガチのニュースじゃん!」
「教科書が嘘をついても、先祖が命がけで隠して残してくれた本物の証拠が、今まさに俺たちの前に現れてるんだ……」
「すべての謎が解けた。この国、根っこの部分から全部偽物にすり替えられてるんだ!」
さらに、俺の肩を掴んでいた捜査官のスマートフォンや無線に、上層部から「待て! 手出しするな! ネットが大変なことになっている!」と大パニックの連絡が一斉に飛び込んできた。
大人が力ずくで口を塞ごうとすればするほど、民衆の怒りの地鳴りは国家のシステムそのものをハッキング(麻痺)させていく。
俺の肩を掴んでいた捜査官の腕が、驚愕と恐怖でダラリと下がる。
文字のノイズを完全に突き破り、何百万もの民衆の怒りで明滅するPCの画面。俺と御剣は、動けなくなった目の前の執行官たちを冷酷に見据え、ここからすべてをひっくり返す最終回へ向けて、ただ静かに、最高に不敵な笑みを深めた。
(第十四話 終)




