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『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している』  作者: スコ平おじさん


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第十二話 英霊の檻と、人質のロジック

土曜日。静まり返った週末の校長室で、俺たちは国家権力の「本当の卑劣さ」と対峙していた。


いつもなら盆栽の手入れをしている校長先生は部屋の隅で完全に気配を消し、担任の山崎先生は恐怖でガタガタと震えている。

応接ソファの対面に座る文科省の成瀬調査官の隣には、俺の今世の親(親父とお袋)、そして御剣の父親である自衛隊の補給統括官が座らされていた。


成瀬は薄汚い笑みを浮かべたまま、彼らの前に掲示板のログと、赤字で「退学処分」と書かれた通知書を突きつけた。


「お父様、お母様。お子さんたちはネットにデマを流して国家を侮辱している。このままでは退学処分は免れません。それどころか……御剣統括官、あなたのような防衛省の重要職にある方の身内に、このような国家不信を煽るアカウントの管理人がいたとなれば、今後の自衛隊内での立場がどうなるか、分かりますね?」


親の人生、そして家庭の平穏を人質に取った、最も陰湿な脅し。成瀬が差し出してきた買収アメを大笑いして一蹴したことへの、国家権力からの明確な報復ムチだった。


「お前、なんてことをしてくれたんだ……!」

俺の親父が青ざめて俺を怒鳴りつけ、お袋は涙目を浮かべている。

だが、御剣の父親だけは、微動だにせず重苦しい表情で娘を見つめていた。


校長室を支配する、逃げ場のない絶望的な空気。

成瀬は勝ち誇ったように背もたれに体を預け、鼻で笑った。


「賢い君たちなら分かるだろう? 今すぐその手にあるスマホで管理人IDを私に渡し、スレッドをすべて消去すると誓いなさい。さもなければ、君たちの家族の未来はここで終わりだ」


大人の用意した完璧な包囲網。

だが、前世で就職氷河期という社会の不条理に散々泣かされ、世界の裏側のデータを貪り読み続けてきた俺の脳は、この脅しに対して恐怖など一ミリも抱かなかった。あるのは、底冷えするような「怒り」だけだ。


「親を人質に取れば、俺たちが黙ると思ったか、成瀬さん」


俺は一歩前に出て、成瀬の冷酷な目を正面から見据えた。


「あんたたち国の上層部は、そうやって昔から『一番大切な身内』を犠牲にして、他国に媚びを売ってきたもんな。……御剣、スマホはまだポケットの中にしまっておけ。まずは言葉で、この大人たちに『事実』を陳列してやろう」


「ええ、佐藤くん。喜んで」


御剣怜が、いつもの隙のない知性を瞳に宿し、成瀬を冷酷に睨みつけた。

佐藤は遮る成瀬の言葉を無視し、校長室の空間へ、調べ上げてきた冷徹な事実を叩きつけ始めた。


「成瀬さん。東京都小笠原村に属する我が国の領土【硫黄島】の現在の実態を知っているか? 大東亜戦争で最も激しい戦闘が行われたあの島には、今なお【一万人以上の日本兵の遺骨】が、滑走路の下に埋まったまま回収できずに放置されているんだ」


「それがどうした、過去の戦争の話など――」


「過去じゃない、現在の話だ! 島全体の重要な管制権や運用権の実質的な主導権を外国軍(米軍)が握っているため、日本政府は自由にスコップを入れることすらできない。我が国の領土でありながら【一般の民間人は行くことすら完全に禁止】されており、【遺骨収集の極めて限られた短い期間】しか上陸は許されない。自国の領土で、国のために命を捧げた先祖の骨すら自由に拾い集めることができない。これが我が国の『主権の檻』だ」


成瀬の顔から余裕が消えかける。だが、俺たちの陳列は止まらない。


「そして、我が国の英霊を祀る【靖国神社】。国のために命を捧げた人々を国が公式に追悼することは独立国として当然の権利だが、我が国では外国からの不当な批判を恐れ、政府のトップが参拝することを自ら自粛し、他国の顔色をうかがうための政治道具にしている。……そして何より、あんたたちが一番隠したい自衛隊の現場の数字がここにある」


ここで、御剣が隣に座る自分の父親の目を真っ直ぐに見つめ、凛とした声で成瀬に言い放った。


「成瀬さん、防衛省のデータなら、そこにいる私の父の部署が一番よく知っているわ。かつてのイラク派遣の際、現場の自衛官たちは憲法9条の制約により『自分から発砲すること(武器使用)』を厳しく制限されていた。その結果、現地で彼らが強いられたのは【迫撃砲やミサイルの攻撃をただ無抵抗で受けるしかない極限の恐怖】よ」


校長室の空気が、完全に凍りついた。御剣の父親の肩が、ピクリと揺れる。


「生きるか死ぬかの戦場で盾になることだけを強要され、反撃の権利すら奪われた現場がどうなったか。帰国後、数多くの自衛官が精神を病んでうつ病を発症し、自決(自殺)へと追い込まれた冷徹な数字が存在するわ。……他国の盾として世界トップクラスの軍隊(自衛隊)を維持させられ、現場に命を懸けさせながら、攻撃を受けても発砲すら許さずうつ病に追い込む。その上、死んだ英霊の骨すら拾えず、その追悼すら他国の許しがなければ行えない」


御剣は一呼吸置き、成瀬の胸元を指差した。


「一番大切な先祖や、今まさに命を懸けている現役の家族を真っ先に人質に差し出し、他国に媚びを売って保身に走っているのは――成瀬さん、あんたたち政府(大人)の方でしょう!!」


「貴様ら……っ!!」


成瀬が顔を真っ赤にしてテーブルを叩き、立ち上がった。

「統括官! 娘のこの無礼な発言を何とかしなさい! あなたの首が飛ぶんだぞ!」


成瀬が怒り狂って御剣の父親にすがりつく。

だが。


「……成瀬調査官」


それまで頑なに沈黙を守っていた御剣の父親が、地を這うような低い声で呟いた。彼は、握りしめた拳から血がにじむほど強く身を震わせながら、ゆっくりと立ち上がり、成瀬の顔を冷酷に睨みつけた。


「娘の言ったことは、すべて我が部署が『保存』している、紛れもない事実です。現場の部下たちの血の滲むような犠牲を、これ以上の政治利用の道具にすることは――自衛官として、親として、到底容認できない」


「な、何だと……!? あなたは自分のキャリアを捨てる気か!」


「元より、嘘の上に座るキャリアなど未練はない。……成瀬調査官、お引き取りください。これ以上、我が身内に脅迫を続けるのであれば、防衛省の警務隊(身内の警察組織)を動かさざるを得ん」


「くっ……狂っている……! 親も子も、どいつもこいつも正気じゃない!」


身内(自衛隊)からも完全に見限られた成瀬は、顔を真っ白にして震え出し、突きつけていた退学処分通知書をひったくるように掴むと、逃げるように校長室を飛び出していった。


静寂が戻った校長室で、御剣の父親は娘をじっと見つめ、小さく「……すまなかった」とだけ呟いた。すべてを察した俺たちの親も、もう俺を叱る言葉を失っていた。


「話はそれだけね。お父さん、私たちは私たちの戦いを続けるわ。失礼します」


御剣はそう言い残し、俺の隣を悠然と歩き出した。


学校からの帰り道。夕日が赤黒く住宅街を染める中、俺たちはスマートフォンの画面を開いていた。

校長室での直接対話は終わった。ならば、次はこの勝利の事実を、本来の戦場であるネットの海へ投下する番だ。


攻撃のノイズでブラウザの投稿画面は完全にフリーズしている。普通なら手も足も出ない状況だ。だが、前世でネットの黎明期からその裏側を見てきた俺にとって、こんなものは障壁にすらならない。


「文字データだけのパケットにして、サーバーのAPIへ直接コマンドを流し込む。通信のミリ秒単位の一瞬の隙間を狙うぞ」

俺はキーボードを電光石火のスピードで叩いた。文字だけの暗号化パケットが、大人の目潰し(サイバー攻撃)をすり抜けてサーバーの心臓部へと一瞬で突き刺さる。


管理人IDによる第十弾のスレッドが、ネットの海へ爆撃のように着弾した。


『オキュパイドジャパンの事実陳列』

『第十弾:英霊の骨すら拾えず、追悼すら許されない国――主権の檻』


俺たちが校長室で大人のプライドを粉砕したあの【硫黄島】【靖国神社】【イラク派遣の自衛隊の闇】の一次ソースが、ネットの最前線に躍り出た。


毎日支払っている電気代や人口の話から、ついにこの国の「魂と尊厳」のあまりにも惨めなバグが暴かれたことで、ネット住民たちの狂熱は過去最大の「怒り」の濁流となって爆発した。国側の荒らしを力ずくで押し返す物量で、この事実がネット中へ大拡散され始める。


「硫黄島って民間人は立ち入り禁止なのか……しかも遺骨がまだ一万人も埋まったままって」

「イラク派遣の自衛官がうつ病や自殺に追い込まれたの、ガチの防衛省データじゃん。撃っちゃいけないのにミサイル浴びるとか正気かよ」

「管理人の言う通りだ! 家族を人質にして脅してくる役人どもが、一番国と自衛隊を裏切ってる!」


画面の向こうで広がる、国家のシステムを完全に凌駕した民衆の地鳴りのような怒り。それを見つめる俺と御剣の目の前で、平穏という名の砂上の楼閣は、今度こそ音を立てて崩れ去ろうとしていた。


(第十二話 終)

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