第五話 人体実験
今回で戦争の話は終わりとなります、次からは新しい国での主人公の活躍に期待してください!
リーチェが死に既に一月が経とうとしている、春の訪れと共に戦争は終結へと向かっていた。
リーチェの駒は主の死と共に戦線から離脱している、小型核兵器は無い、だが同盟国は圧倒的な火力での制圧を行った。
既に土地や防衛戦で使用した川は放射能で汚染される、汚染は水流に流され次第に海へと流れ着く。
だが戦争はどちらかが勝たなければ終わらない、同盟国はこれ以上の被害を増やさないため、リーチェの死と同時期に突入をした。
小型核兵器の存在が無ければ戦線を維持出来ず、そのままなだれ込む様に同盟国軍は戦線を上げていく。
そしてとうとうドイズ国は降伏という形で戦争に幕を下ろした、そして10年にも続く戦いに終止符と打つ。
戦争は終わり、平和が訪れるかと皆は思った、だが戦争の爪痕は徐々に世界を蝕む結果となる。
放射能汚染は浸透し、雑草さえ生えない、風に流され、そして川にも流れ海へと汚染されていく、生き物を殺し農作物は愚か水産業さえも壊滅的な打撃を与える。
遠い国々には汚染の魔の手は無い、だがそれも時間の問題であろう、そして激戦地での放射能濃度は近づくことさえ許されないほどになっていた。
もし激戦地が土地を割るような大きな川を挟んだ場所でなければ被害は抑えられたかもしれない、だが実際は違う、この事はすぐに国々で問題視された。
汚染が進行していく中、比較的に被害が小さい国へ逃げる国民の数は後を耐えない、だが国にも受け入れる事の出来る人数は限られている。
ましてや貯蓄のない貧民層は国を出ることさえ出来ない、死んでいく土地とともに死ぬことが自分の運命だと既に諦めていた。
しかし同盟国を中心とした国々は諦めなかった、戦争の後始末は行わなければならない。
そこで開発が急がれた物は放射能に耐えうる事のできる抗体を作るための研究であった。
研究は長引いた、だが一人の男が光明を見る、それは放射能汚染による動物の変化である。
犬や猫、牛などといったペットや家畜が汚染された土地で生きながらえている瞬間を目の当たりにする。
研究者は動物を研究所へ持ち帰り、解剖し細胞から全てを調べ上げる、そして判明したことがあった。
目の前の犬は犬ではなかった、それは変化という生易しいものではない、新しく進化した生物である事が判明する。
動物は環境の変化に対応する為、短期間での進化という荒業を使ったのだ、だが短期間の進化は体への大きな負荷を与えたのだろう。
三つに首が別れた犬や、皮膚が爛れ目が三つになった猫など、しかしそれでもこの生物達は生きている。
そして実験段階ではあるが、科学者達は一つの特効薬を作り出すことに成功した。
細胞分裂を極限まで抑え、体の形状を進化に耐える事の出来るように考えられての事だ。
だがこの薬をまだ人に使うことはできない、まずは動物での実験、そして徐々に人間に近い動物へと変えていく。
ネズミから猫へ、そして猿へと、実験の結果だけで言えば成功といえるだろう、だが痛みに耐えられず息絶える動物は何体にも及んだ。
だがそれも痛み止めの注射を打つと和らぎ、成功率は飛躍的に伸びる。
研究者たちは考えた、次に行う為の実験体が欲しいと。
研究者達が求めるのは猿やゴリラなどの動物ではない、実際に使うことになる人間での実験を所望した。
その考えを国へ提案するが、人体実験は許される事ではない、だがそれでも薬を完成させなければ、人々は死に絶えるのは明らかである。
国は苦渋の決断として、囚人を使うことを決断した、そして数多の囚人から選ばれた存在、それは名もなきニコン人であった。
何故彼が選ばれたのか、理由があった、彼は以前亡命しニコン国へ来たが、罪に問われ幽閉され無期懲役を言い渡されていた、そして家族もおらず契約により名もない。
そして何より彼は第三次世界大戦を引き起こした一人とされていたからである。
だがその事は研究者には伝えられていない、ただの囚人だという事だけ、そして国は建前上の取引をした。
もしこの実験で成功を収め、君が生きていたのならば今までを不問にし一般の人々と同様生きていけるよう手配すると。
この話を持ちかけられ、彼は歓喜した、一生普通の生活など送れないと思っていた矢先に提案されたのである、飛びつかないわけがない。
彼は快く人体実験を承諾する、それが彼にとって人生の転機になるとはこの時は誰も知らない。
そしてその約束と共に新しい名が与えられた、名は「ジョン・ドゥ」名も無き者へ贈られる名である。
ジョンは拘束され目隠しをされた状態で部屋へとうされる、固いベッドへ寝かされると点滴を打たれる。
その中にはビタミン剤などの生きていくために必要な栄養素、そして痛み止めの効果がある。
薬が全て体に回ると、再び腕から何やら異物が入る、ジョンは腕に新薬を注射された。
痛みなどない、痛み止めが効いているのだろう、だが異常はすぐに現れた。
体全体を走る激痛、血が通常の倍以上の速度で流れているのではないかという程に脈打つ心臓、胸に耳を当てなくとも聞こえてくるほどに鼓動は高鳴っている。
だがそれは実際に起こっていた、体が火照りインフルエンザのときとは比較にならないほどの熱を発する。
通常の人間ならば熱により細胞は死に絶えるが、それ以上の速度で細胞が分裂を重ね増えていく。
数日が経ち、痛みが消えていく、だが鼓動は未だ鳴り止まない、そんな時であった。
何やら肌を撫でるように風が部屋の中のジョンに降りかかる、その風は何やら異臭を放っている。
金属のような匂いが鼻に纏わりつく、最初は極力息をせずに耐えていたが、それも長く続かない。
その異臭は何日も続いた、日に増していく異臭がする部屋の中ジョンは呼吸をし続ける、その異臭の正体が放射能によるものだと知らずに――――。
だが長らく続いた実験も終りを迎える。
既に体の火照りは無くなり、脈打つ鼓動は静かに鳴りを潜めていた。
異臭は止みそこから数日が経つと、部屋の扉が開く音が聞こえる、それに続くように複数人の足音が聞こえ始めた。
ジョンはやっと開放されると考えていた、だが違った目隠しや拘束具は付けられたまま連行される。
揺られる中、長く続いた実験のせいか頭の中は何も考えられない、そんな中、ジョンが連れて行かれた部屋は鼻を刺激するような生臭い鉄の匂いがした。
ジョンはその匂いを嗅ぐと、頭は覚醒した、その部屋はいわゆる拷問部屋である、ジョンはすぐに悟った、今まで何度も嗅いできたことのある血の匂い、そして自分の今の状態を考えればすぐに思いつく。
国からの約束など無かったのだ、今から自分は口封じに殺されるであろうと………。
再び椅子に拘束される、ジョンはこの実験されていたを耐え抜く事が出来たのは、国からの約束があったからである、学生時代のような普通の生活を取り戻したいという思い、だがそれは儚く散ることになる。
ジョンの目頭が熱くなる、死ぬ間際になり今までの事が走馬灯のように流れた、両親、学生時代、そしてドイズ国での事等、思い出してジョンは思った、ここで死ぬことで楽になれるのならそれもいいだろうと。
椅子に固定されたジョンは一切声を出さず時を迎えることとなる。
「利用してすまない、最後に君が大事に持っていたものを渡すよ……本当にありがとう」
最後の慈悲なのだろうか、一人の男がジョンに近づき懐にリーチェからの贈り物であるリボルバーを入れた後、一本の注射を腕に挿す。
その薬は一切痛みを与えず殺すためのものであった、そしてジョンは静かに命を引き取った………と誰しもが思っていた。
実際ジョン自身も死んだと思った、だが実際には仮死状態である。
しかし男達は気が付かない、そのままジョンを死体廃棄所へと搬送し全てが終わったと上に報告する。
死体廃棄所には数多くの死体が転がっていた、その死体は全て犯罪者や公には出来ない死体ばかり。
その中にジョンも居た、死体は一斉償却されるまでに時間はある、そのままジョンは目覚めなければ焼き殺されるだろう。
だがその時、ジョンの心臓は再び動き出した、まず通常の人間であれば起こり得ない事である、即効性の毒を受けた人間は、数分後には死に至る。
しかしジョンは中時間眠り続けた後のように、ゆっくりと体を起こす。
未だ鳴り止まぬ頭痛の中、手で頭を叩き無理やりと覚醒させる。
視界はボヤけ数歩歩くことさえままならない、だがそれも徐々に回復する。
視界に入ったそれは荒廃した土地に無造作に置かれた死体の山の上であった。
死体をかき分け山を降りる、ここはニコン国で間違いない、だがジョンの知っているニコン国とは違っていた。
目の間に広がった世界は水が綺麗で緑豊かな世界ではない、草木は枯れ果て地面は固い土、そしてなにより人の気配が一切ない。
ここはニコン国では無いのではないかという疑問が浮かぶのは当然の事であった。
荒廃した地面を何時間も歩き続け建物の前に立つとジョンは驚く、薄汚れた看板にはしっかりと子供の時からよくしっているニコン語が書いてある。
更に頭は混乱した、その看板には「ようこそヤマクチ県へ」と書いてあった、ジョンは記憶を絞り出し以前習ったことのある都道府県を思い出す。
「どうなってるんだこれは……」
それが彼のニコン国に来て発した最初の言葉であった――――。
誤字脱字、矛盾点などあるとおもいますが見つけ次第修正していきます。




