第四話 亡命
次で一旦戦争は終わります!
開戦の狼煙があがった、とうとう世界を巻き込む戦争の始まりである、そして後に語り継がれる第三次世界大戦であった。
リーチェが核兵器開発の指示を出し、既に二年ほどの時間が経過している、その間も戦争は続いていた、だがドイズ国の防衛戦である。
ただ時間を稼ぐことが唯一残ったドイズ国の勝利の鍵となるとリーチェは考えているからだ。
防衛の前線は統治国であるイヒレス国にある土地を分断するように大きく長い川である、その川は海から海へと分断しているため回り込む事も出来ず不落の城塞と化していた。
いくら軍事力のすぐれた同盟であっても突破するには時間を要した。
その間、リーチェは悠々と待つ、兵器開発が終わるその日まで。
そして遂に完成した、小型核兵器である、一般兵でも持ち一つで何十人、何百人と殺すことが出来る兵器。
非人道的な兵器を通常の兵士が持つはずがない、死んででも拒否するだろう、だがリーチェには駒が居た、命令をすれば拒むことのない駒が何人も―――。
だが小型核兵器を戦争に導入するほど量産は出来ていない、戦争を決定づける事が出来るのは更に年月を費やすであろう。
しかしリーチェに焦りはなかった、待てば勝てる戦い、そしてそれが世界の統治者となれる戦いとなれば普通は焦るはず、だがリーチェは動じなかった……。
第三次世界大戦が始まり既に7年が経とうとする、2042年、凶悪な兵器が戦場で鳴り響いた。
それは唐突な出来事であった、激戦区の中、放り込まれる手榴弾の様な物、敵兵は軽快し物陰に隠れやり過ごそうとした、その行動は正解である、投げ込まれたものが手榴弾であれば―――。
だが投げ込まれたものは違った、爆発と同時に眩い光と共に周辺を焼き払う、小型核兵器投入の瞬間である。
人は焼死し、爆破地には近づくことすら困難なほどの異臭を放つ、光を見たものは目を晦ませ武器を投げ捨て目を押さえる。
一回の投擲で約五十人程を戦闘不能とした、この投擲がもし人の集まる駐屯地などに数個投げられた時には、そこに滞在する軍人は皆焼き払われるであろう。
その光景を見て敵兵は明らかに士気が下がる、そして味方である兵士も同様に恐怖した、あの爆弾がもし自分に使われていたらと……。
この爆弾の話しはすぐに上へと伝わった、そしてその驚異は計り知れない事も。
今回、投擲された場所は激戦区の中心だったから良かったものの、もし駐屯地に放られれば、その後そこに滞在することさえ出来なくなる。
駐屯地になり得る場所は何処でもいいというわけではない、迅速に物資の供給が出来、尚且安全な場所でなければならない。
そこを潰されては今後に影響が出るのは明白であった、だが対処のしようがない、投擲され約十秒後に爆発するのであれば逃げることさえ困難であろう。
しかし核兵器を保有するのはドイズ国だけではない、今までは抑止力の為に保持していたが、今は違う、武器を持って武器を制す、そうしなければ戦争は困難を期す、こうして小型核兵器の投入と共に戦争は更に激化していく。
優は悩んでいた、その手には小さな爆弾がある、リーチェが開発した小型核兵器である。
他のリーチェの駒と同様に優にも命令が下されていた、今までの暗殺で培ってきた隠密行動を見込まれ、敵陣に忍び込み駐屯地にこの爆弾を投擲するという命令。
この爆弾一つで戦況は変わることはわかっている、だが命令され爆撃する予定地である駐屯地は街の中にある、これ一つで数百人もの関係のない人々を殺すことになる。
投げればいい、ただそれだけの事が出来ない、これが優と他の駒との違いであった、だがこの一歩を踏み出せば他の駒同様、優も成り下がってしまうだろう。
優は手にある小さな爆弾をそっと部屋の隅に起き、その代わりナイフを手に持ち自分の胸へと突き立てる、優が最後に考えた行動、それは自決であった。
だが刺そうと力を入れるが腕が凍るように動かない、もしこのまま死んだとしてもこの戦争は終わらない、代わりの誰かが優の命令を代わりに遂行するだけである。
ならばこの状況をどうすればいいか、自分には何の取り柄もないが、他にないものを持っていた、その事を考えついたときには優は手に持ったナイフを投げ捨て家を飛び出していた。
優は故郷であるニコン国へと連絡をした、その内容は亡命である。
今までの事情を全て話し、唯一自分だけが持ち得る物を取引の材料とした、それはリーチェからの信頼である。
だがニコン国は受け入れるはずがなかった、優という名は既にリーチェの犬であると他国に知れ渡っている、そこで優は誠意を見せる為にある行動を思いつく。
この内容はリーチェには話すことは出来ない、話してはただ無駄死にするだけである。
優はリーチェの指示通り、駐屯地へと向かった、時は既に2044年の冬、拮抗した戦争の決めてになる駐屯地への爆撃という名目である。
だが優の懐には一枚の紙だけ、ただ両手を上げ駐屯地へと近づいていく。
その優へ兵士は銃を突きつける、だが優は無抵抗に膝を付き腕を後ろへと組んだ、そのまま兵士に連行される。
牢へと幽閉される優は一つの紙を兵士に渡す、その紙には国の代表者しか持つことの許されない判が押されていた。
兵士は駐屯地に居る上司に渡す、その紙の内容はニコン国への亡命の条件が書かれた紙であった。
すぐに上へ連絡し確認を取ると、優は拘束されたまま別の部屋へと通される、その部屋にはヒゲを生やし貫禄のある男が座っていた。
「貴様の名は伊藤優で間違いないか」
「はい」
優は短く返事をした、その返事を聞き男は唸るように考え込むと、部屋を退室する。
優はその後姿を虚ろな目で見守り、次の帰りを静かに待った。
「後日、お前の客人が来る、それまで牢で待つことになるがいいか」
その問に頷き肯定した。
牢で一週間過ぎた頃、兵士の一人が優を牢から出した。
拘束されたまま通された部屋は、一週間前に通された部屋より更に豪華な作りとなっていた。
その部屋の椅子にはいかにも偉い人という言葉が似合う様な人が3人座っていた。
優は促さられるまま椅子へと座る、その両サイドには銃を携えた兵士に挟まれる。
「優といったか、いきなり本題へと入る、貴様が亡命するにあたって私達に何の利益を齎す」
優は一切考える素振りなど見せず、即座に返答する。
「現ドイズ国王であるリーチェの死、そして戦争を終結させ得る事が出来るほどの混乱を与える事が自分が貴国への亡命の手土産と考えています」
「その事が実際に出来るのならば考える、だが貴様が今までやってきた事は変わらない、貴様の亡命が承諾されても幽閉は免れないだろうがそれでも良いのか?」
「はい、それだけでも救いになります」
「ならばその覚悟を成してこい、話はそれからだ」
こうして優の亡命はリーチェの死と取引となった。
優は拘束具を外され駐屯地を後にする、ドイズ国へと向かう、リーチェと会うために―――。
リーチェと会う方法は至って簡単である、他の者ならば一度申請を出し受諾されなければならないが、優はリーチェの直属へと話を通せばリーチェへと伝わる、これは優の特権である。
時間が許す時間にリーチェは再びあの部屋へと足を運ぶだろう、それまで優は心を穏やかに保ち、時が来るのをただじっと待つ。
リーチェには駐屯地の爆撃に成功した体を装う、その報告を聞いたリーチェは二日後の夜、密会の申請を受諾した。
準備は整った、優には失敗は許されない、もし失敗をすれば今後一度もチャンスはないだろう、波打つ鼓動を抑えるためナイフを研ぎ続ける、失敗しないように、必ず息の根を止める為に……。
密会の日は雪が降っていた、冬も半ばであと一週間もすれば新年になる。
今日は十二月二十五日、クリスマスである、戦争中であるが街の中は明るくライトアップされていた。
戦争による沈んだ空気を少しでも変えるため国民が率先して行っているらしい、父親が戦場へと出ている子供は皆、サンタに父親の帰りを願っているだろう。
ならばサンタの代わりと言わないが、戦争を終わらせる手助けをしようと優は思う、世界への最大のプレゼントである。
冬場の寒さが優の頭を冷やしていく、歩く中雪を踏む音が心地よい、静かな幸せを噛みしめる様に歩いていく。
そしてとうとうリーチェと行われる密会室の前についた、辺りは誰も居ない、クリスマスの陽気な雰囲気はここまでは届かない薄暗い空間。
念のためにノックをした後、中には誰も居ないことを確認すると、ドアノブを回しいつも通り部屋に置いてある椅子に腰掛ける。
静かな部屋の中、平静を保とうとするが、カタカタと椅子が揺れる音が聞こえる、無意識のうちに貧乏揺すりをしていた、恐怖しているのだろうか自分のことであるが、わからない。
揺れる脚を強く叩くが揺れは収まらない、だがそんな時、扉のドアノブが回る音が聞こえた、小刻みに揺れていた脚はピタリと止まり、優は椅子から立ち上がる。
ゆっくりと開かれるドアの向こうには、雪が浅く積もった帽子を深く被っていてもわかるほどにリーチェは歪んだ狂気の笑みをしていた。
リーチェはソファに深く腰を下ろすと、帽子を外し真剣な表情へと変わる。
「お前がここに居るということは上手く行ったのだろう、よくやったこれで戦争は傾く、それでどうだ今日はクリスマスではないか、ささやかな贈り物を優に用意した」
そう言いリーチェは一つの小包を優に渡した、今開けていいのか優は戸惑っているとリーチェは早く開けるように促す。
綺麗にラッピングされた箱を丁寧に開けると、中には無骨だが見るからに高いだろうとわかるリボルバーが一丁入っていた。
全体が黒で装飾され、側面には溝が掘られている、試しに持ってみると手に吸い付くように馴染んだ。
初めてのリーチェからの贈り物、だがそれでも優の内心は揺らがなかった、リボルバーを再び箱にしまい、リーチェへと視線を戻すと、歪んだ笑みではなく、父親の様な柔らかな笑みをしていた。
「では、俺は行くとするよ、また何かあれば頼む」
そう言い終えると、リーチェはドアノブに手をかけ右へ回そうとした瞬間、優は動いた。
机の下で忍ばせておいたナイフを右手に持ち、暗殺で培ってきたスキルを活かし背後に近づく。
いくら頭の良いリーチェだろうが、国王である、戦場に出たことも無ければ、殺し合いなどしたこともない、優の殺気には気づくはずもなかった。
そして優が持ったナイフは首を頸動脈を狙い、斬りつけた。
突如の事でリーチェは戸惑った、だがすぐに気づく、今自分は信頼していた者に首を切られたのだと……。
放物線を描くように飛び出す血は部屋を赤く染め上げる、優の暗殺は鮮やかであった、返り血の一滴も浴びずやり遂げる。
「まさか父と同じ道を歩むとは……な、お前もいずれ俺と、同じよ……う………」
リーチェが最後に残した言葉である、最後の気力を絞り優へと伝える、人道的な行動はいずれ自分へと返ってくる、リーチェに相応しい死であった。
リーチェは背中から倒れるように床へと倒れた、優はリーチェの死に顔を見ることは出来なかった、目を背け手首を触り鼓動が止まっていることを確認すると、リボルバーの入った箱を脇に抱え部屋を出た。
扉を出ると、いつも護衛として連れてきていた者達が居た、何故優が先に出てきたのかと一瞬戸惑いの表情を見せたが、事前にリーチェから扉の前で待機するよう命じられており、中に入ることは許されなかった。
二人の男は遠ざかる優の背中を見ながら、いつまでも出てくるはずのないリーチェを待つこととなる……。
優は暗殺を成功させ、次に向かった先は自宅ではなく、先日幽閉されていた駐屯地へと向かった。
リーチェの事を報告と亡命についてを話すためである。
優は歩いていた、だがその足は徐々に徐々に早くなっていく、この国から……死んだはずのリーチェから離れたいが一心で―――。
移動中は何事も無かった、追手が来るかと考えていたが杞憂に終わる。
数日間の移動の最中、優は眠ることが出来ないでいた、眠れば悪夢に魘される毎日、リーチェが自分の首を刈り取る夢を連日連夜見てしまう。
早くこの呪縛から開放されたい、元の平和なニコン国へと行きたい、その願いはもう手の届く所まで来ている。
駐屯地に入ると、再び拘束された、事実確認が出来るまでの間だそうだが、その間も優は怯えていた。
優は今更考える、あのリーチェがあれだけの事で死ぬだろうか、もしかしたら生きているのではないだろうか、その考えが頭から離れない。
暗い牢の中、ただじっと待つ、待ち続けそしてようやくその日が来た。
一人の兵士が優を呼び別室へと移動させられる、扉を開きその先に居たのは先日に居た男達が同じ席に座っていた。
「リーチェ・ポースマンの死が確認された、これで戦況は大きく変わるだろう、良くやった、そして話しはここからだ、我が国はお前の亡命を認める、だが条件もある一度紙に目を通してほしい」
優は差し出された紙を読むと、そこには固い文脈で文字が連なっていた。
簡略化すると以下の通りである、まず優は人を殺しすぎた、それに対する政府の判断は無期懲役である、そしてニコン国では身分を全て捨てることを義務付けられた。
幽閉後の安全の保証である、もし優に殺された者と親しいものが居た場合、そして優の親族に対してのもの、マスコミから流れニュースになった場合を危惧してだろう。
そして最後はドイズ国の内部情報の提示であった、優は紙の内容を読み終わると、サインを書き最後に拇印を押した。
「これより受理された、だが牢の中で待つことになるのは承知してくれ、では準備が整い次第連行する」
こうして優は亡命という形でドイズ国を後にした―――。
誤字脱字、矛盾点は発見しだい修正していきます。
次話の更新は今日中に行います。




