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6話 可愛くなくっちゃ意味がない

「なあ柊弥、他の奴の年齢なんてよく知ってたな」


 写真を何枚か撮り終わったところで、麻人が柊弥に話しかけた。柊弥がそれに答える。


「それこそ舞台挨拶の時に全員言ってましたから」


 この椅子の並びも舞台挨拶を想起させるという点では確かに間違っていないのかもしれない。

 しかし、何故他のPCの年齢まで覚えているのかと言えば、初日の朝、支給されたタブレットで舞台設定を含む登場人物の情報を念入りに確認していたからだ。

 麻人はそれを聞いて感心したように声を上げる。


「へえー、俺、舞台挨拶の内容なんて覚えてねえや。他の奴のプロフィールなんて全然気にしてなかったな。部屋に戻ったら確認してみるかぁ」


 麻人はそう言うと、今度は目の前の堂本に声をかける。

 

「堂本、もういいか?ちゃんと撮れたか?俺、半目になったりしてねえ?」

「はい、滞りなく。白檀様にもご満足頂けることでしょう」

「こうしてみると結局、無難な並びだったな。俺達姉弟を中心に隣がそれぞれの婚約者、後は使用人の三人が両端を埋める席順。何より俺がど真ん中だ」


 麻人は満足そうに頷いた。


「皆様、お疲れさまでした。本日のパーティーはこれにて終了でございます」


 堂本がパーティーの終了を告げた。

 それを合図に皆、安堵の溜息を付き、伸びをしたり肩を回したり、体を解しながらそれぞれ立ち上がる。

 これでやっと二日目が終わる。ゲームの中とはいえ今日も一日よく働いたものだ。

 皆が立ち上がる中、一人葵だけが座ったまま立ち上がろうとしない。


「葵ちゃん?」


 隣にいた蓮が葵に声をかける。


「……こんなの嫌……納得いかない」


 葵はそう呟いたかと思うと、急に立ち上がり自分の座っていた椅子を思い切り蹴り倒した。

 けたたましい音が食堂内に響き、食堂から出ようとしていた者も何事かと振り向く。


「こんなの全然楽しくない。電流とか、こんな!痛くて怖くて辛いことばっかり……オシャレも出来ない、美味しいモノも食べられない、自由じゃない、可愛いって言ってもらえない!!」


 葵は溜まっていた鬱憤を吐き出すように訴える。


「何で怒られなきゃなんないの!?何で言うこと聞かなきゃなんないの!?使用人としてちゃんと振舞え!?あたしだってメイドなんて役やりたくなかった!!お嬢様が良かった!!」


 葵がヒステリックに叫んだ。

 葵の剣幕にその場の人間はあっけにとられて呆然としている。そんな中、茜だけがはっきりとした侮蔑を顔に浮かべて、わざとらしく大きな溜息を吐いてみせる。


「貴女も懲りないわねえ、今度こそ解雇されたいの?」

「やってみなさいよ、出来もしないくせに!あたし知ってるんだから……あんたに雇われてるわけじゃないから、そんな権限ないって。侘助様が教えてくれたんだから!」


 まさか葵に言い返されるとは思っていなかったのだろう。茜は言葉に詰まってそのまま押し黙る。


「葵ちゃん、落ち着くんだ」


 柊弥が葵を宥めようと肩に手を置く。しかし、葵は柊弥の手を振り払って更に喚き散らす。


「葵って誰よ!?あたしそんなダサい名前じゃないもん!!もう全部全部嫌嫌イヤ……っ、GMあたしこんな役もうヤダ、替えてよぉ!」

『最上葵、著しくシナリオを侵害する言動により、ペナルティとして大幅にポイントを減点致します』


 GMの声がホールに無機質に響いた。しかし、葵の勢いは止まらない。


「あたしっ……あたしはねぇ……アイドルなんだから!」

「はあ?なんだそりゃ」


 その言葉に麻人が訳が分からないといった風に聞き返すと葵は麻人を涙目で睨んだ。


「ホントよ!今は……地下アイドルだけど、でも!ファンだってい、いるんだからっ……スポンサーもっ……このゲームだって女優になるための……っう……踏み台なんだから……ぅっ」

「駄目だ葵ちゃん、それ以上は本当にまずいよ」


 蓮が真剣に葵を制する。蓮の真剣さに、葵は一瞬たじろぐ。が、すぐにそれまで以上に目を吊り上げて親の仇でも見るかのような目で蓮を睨みつけた。


「あんた……あんたみたいなのが一番嫌い!なんなの!?男の真似なんかして、それで注目浴びて客の気引くつもり!?ホントは自分のこと可愛いって思ってんでしょ?だからそんな男の恰好して余裕なんでしょ?嫌な女!」

「……ちょっと、何を言ってるかわからないな」

「その男言葉マジでむかつくから!あんたメイドの役あたしに取られて悔しいんじゃないの?でもね、あんたのおかげであたしこんな目にあってんのよ!なぁんだ、全部あんたのせいじゃん!あんたなんかっ」


 葵が蓮に掴み掛かる。


「あんたがメイドやってればこんなことにならなかったのよ!あたしはっ!こんな役やるためにここにいるんじゃない!」


 そこまで叫んだとき、食堂の扉が開き数人の執事とおぼしき男達が現れた。

 ホールが異様な空気に包まれる。

 彼らは柊弥達や他のNPCの執事たちと同じ服を着ているが、ガタイが良すぎるうえに明らかに普通ではない……俗に言えば堅気ではない空気を纏っている。


「な!?やっ……嫌!何するの離して!」


 男たちは葵を取り押さえると、食堂から連れ出そうとする。


『最上葵、深刻なシナリオ侵害により審議の対象となりました。視聴者の皆様による厳正な審判が下されます』

「審議?え?ちょっと……や、だっ、乱暴しないでよ!……っスズイ!技能!技能使って!ダイス振って!」


 葵が昨日と同様に特殊技能を使ってその場を切り抜けようとする。しかし――


『この状況下で有効な技能ではありません。また最上葵に使用できるポイントは既にありません』


 GMの声が冷たく非情にホールに響き渡る。

 葵はありったけの罵詈雑言を吐き泣きじゃくりながら、引きずられるようにして運ばれていく。

 その様子を、他の人間は状況も飲み込めずに呆然と立ち尽くし、眺めることしか出来なかった。

 そして、葵は執事達によって食堂から強制退場させられた。

 残されたPL達は沈黙し誰も口を開こうとしない、否、開けなかった。何が起こったのか、皆把握出来ずにいる。

 すると、堂本がホールに響き渡るように二回手を打ってPL達に告げる。


「さあ皆様パーティーはもう終わりだとお伝えした筈ですが?」


 堂本が食堂からの退室を促した。そして、戸惑う柊弥と蓮にも本日の業務の終了を告げる。


「浅見、蓮。お前達も今日はもういい。ここの片付けは他の者にやらせる。自室に戻りなさい」


 その有無を言わさぬ言葉が、柊弥にはGMの言葉のように聞こえた。


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