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4話 ご着席ください

「記念撮影って……何で急に?」


 堂本の突然の発言に麻人が尋ねる。


「白檀様のご意志です。この館の謎解きに挑む者たちを記念として写真に収めておくように、と仰せつかっております」


 堂本が話している間にも、NPCの執事とメイドたちが食堂内に椅子と写真を撮るための機材を運び入れ始めた。

 横一列に椅子が並べられる。

 その椅子の数は七脚。


「椅子が七脚ってことは……おい!お前らも写らねぇと駄目なやつだろ」


 麻人が壁際でその様子を眺めていた柊弥達を呼んだ。


「俺達も?使用人だけど一緒に写るのか?」

「椅子が七脚あるから、PL(プレイヤー)全員ってことですかね」

「やだぁ、どうせ撮られるならあたしもドレス着たい」


 柊弥達三人も椅子の周りに集まる。


「で、座る位置はどうする?俺、端は嫌だぜ。目立たないからな」

「そうねえ、私たち東雲(しののめ)の人間は中央かしら……」

「座る位置って上座とか下座とか決まりあるのかな?僕あんまり写真とか……目立つの苦手だから端がいいな」

「写真撮影に上座下座って関係あるわけ?ま、あたしは麻人の隣ならどこでもいいけど」


 どういった位置で座るか、話し合いが始まる。勿論、柊弥達使用人は意見を求められることはない。無難に東雲姉弟を中心に脇を婚約者で固め、後は適当に使用人の自分達が端で埋めればいいだけだろうと思うのだが、なかなか意見がまとまらないようだ。そして堂本は座る位置に関して何も言わず、カメラの後ろに立ち、その様子を見守っている。

 すると、葵が若干苛々した様子で舌打ちをした。


「どうでもいいから早くしてよ。立ちっぱなし歩きっぱなしで足疲れちゃった……」


 なかなか決まらない話し合いに痺れを切らしたのか、葵は直ぐ傍にあった椅子、向かって一番右端の椅子に何気なく座った。途端――


「きゃあああああぁ――っ!!」


 そのつんざくような鋭い悲鳴に、その場にいた全員が葵を見た。

 葵は椅子から転げ落ちて、その場に伏していた。

 その様子を間近で見ていた柊弥は、一瞬唖然としていたが、直ぐに我に返ると慌てて葵を助け起こした。


「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!!」


 体を揺すり、声を掛けるが反応がない。

 一瞬、最悪の事態を柊弥が想像したとき、葵が僅かに呻いた。


「……ぅ……あ」

「葵ちゃん、大丈夫か?」


 柊弥が呼びかけると葵は目を開けて上体を起こした。

 どうやら気を失っていたのは一瞬で、見たところ怪我もないようだ。 


「な、に……?なんかビリッてした……死ぬかと……思ったぁっ!痛かったよぉっ」


 半泣きで訴える葵は余程ショックだったのか激しく体を震わせている。

 柊弥は居た堪れなくなり、自分の上着を葵の肩にそっと掛ける。


「あ……ありがと、柊弥君」

「それよりどうしたんだ?急に倒れて、何があった?」

「わかんない。急にビリッって体が……すっごく痛くて……」

「それって電流か?」


 葵の話を聞いた麻人が物騒な単語を呟いた。

 その場が不穏な空気に包まれる。


「堂本……どういうことだ、説明しろ」

「皆様のお席はそれぞれ決められております。正しいお席に御着席ください」


 麻人が睨みを利かせて堂本に説明を求めるが、堂本はたった今葵が悲鳴を上げて倒れたことなど無かったかのように事務的に答えた。


「これは白檀様からの“ちょっとした謎々”だそうです」

「謎々?間違えたら電流を流されるのがちょっとした謎々だっていうのか?」

「はい、“幼児でも解ける謎々”だそうです」

「言ってくれるじゃねえか、ジジイ……」


 明らかな煽り文句に、麻人がぎりりと歯を食いしばる。そして、頭を乱暴に掻き毟るとそれまでとは打って変わって不敵な笑みを浮かべて高らかに宣言する。


「いいぜ……その謎、俺が一瞬で解いてやる!」


 それはまるで探偵小説のワンシーンのようだった。ホール全体が彼の為の舞台と化していた。


「まさに物語の主人公って感じですね」

「ホントだな」


 麻人の堂々たる宣言を傍目に、柊弥と蓮は感心したように呟いた。


「俺達の出る幕じゃないな」

「探偵役、取られちゃいましたね」

「もともと向いてないよ。しかし様になってるなぁ」


 遠巻きに小声で話を続ける柊弥達とは関係なく、麻人の独壇場は続く。


「大体なあ、こんなもん謎のうちにも入らねえぜ」

「え?麻人もしかして、もうわかっちゃったの?」

「ああ、モチロンだ。思い出してみろよ、この横一列に並んだ七脚の椅子……見覚えあんだろ?」

「あっ!そうか!」


 藤太が自分もわかったというように声を上げた。そんな藤太に頷いて、麻人は更に得意になって語りだす。


「藤太さんもわかったみたいだな。そう、俺たちはつい先日…こんな風に並べられた椅子に座らされていた筈だ。この椅子の並び……これは、舞台挨拶の時と同じだ!」


 麻人は並べられた椅子を指さして堂々と言い放った。

 すかさず蘭子が手を叩いて感嘆の声を上げる。


「そう!そうよ!思い出したわ、あたしたちこんな感じの椅子に横一列に並んで……すっごい麻人!簡単に謎を解いちゃうなんて!」

「だから言ったろこんなの謎のうちに入らねえって」


 麻人は向かって左端の椅子の前に立った。


「ここがあの舞台だと仮定すると、あの時の並びは舞台を対面にして俺は左端、つまり……ここだ!」


 麻人が声を張り上げる。その様はまさに舞台上の主人公であり、推理を披露する探偵を彷彿とさせた。

 麻人は椅子に座ろうとした。

 が、そこで柊弥が慌てて止めに入る。


「いけません!麻人様……っ」

「あ?なん……っだああぁあっっつぅ!!」


 柊弥の制止も虚しく麻人は椅子に座り、そして叫びと共に飛び上がった。


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