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3話 パーティーナイト

 食堂の様子は昼間とはまた違った様相を見せていた。

 ビュッフェスタイルの立食パーティーの為、ホール中央のメインテーブルには色とりどりの、見目にも美しく食欲をそそる料理の数々が並んでいる。勿論、その味は言うまでもなく絶品である。何故わかるのかと問われれば、それは柊弥も蓮も厨房にてシェフの計らいで味見ついでにご相伴にあずかったからだ。

 柊弥と蓮は壁際で、例のごとく並んで待機の姿勢でホールの様子を眺めている。

 ホームパーティーと言えども、資産家の豪邸で催される立食パーティ故に、ゲストも家人もフォーマルな装いである。女性陣はイブニングドレス、男性陣はタキシードというドレスコードまで徹底されている。特に女性陣の気合の入りようは目に見えて明らかだ。


「いいねえ、女性が華やかだとそれだけで食事も酒も一段と美味くなる」


 侘助が茜、蘭子、橙子の女性陣に囲まれながら、それぞれを褒めちぎっている。


「侘助叔父様は本当にお世辞がお上手ね、でも素直に嬉しいわ。藤太にも見習ってもらいたいくらい」


 茜が屈託のない笑顔を見せている。


「ホントね、麻人ももう少し褒めてくれたらいいのに。せっかくこんな素敵なドレス用意して頂いたんだもの」


蘭子もここぞとばかりに茜に便乗する。PCの関係性としては微妙な立場の二人だが、こういう話題に関しては意気投合しているようだ。


「そうよねぇ、せっかくこんなに可愛く綺麗にしてるんだから婚約者だったら一言二言ちゃんと褒めるべきよね?うちの人もそういうの苦手なのよ」


 橙子も加わり、男性陣への不満に話が盛り上がっている。女三人集まれば姦しいとはよく言ったものである。

 そんな女性三人と侘助から少し離れたところで残りの男性陣、松之、麻人、藤太の三人がその様子を眺めている。


「なんか、俺たち悪者にされてねえ?」


 麻人がローストビーフとクリームチーズのピンチョスを口に含みながら、憮然とした態度で言った。


「い、一応僕、褒めたのに……似合ってるよって」


 藤太も今回ばかりは納得いかないといった様子で呟いた。


「侘助の奴は昔からそうさ。だがね、男はむやみに軽口をたたいて女に媚びればいいというものではないのだよ。頼りにされる男とは、言葉少なくともどっしりと構えていなくてはならん。それが当主、それが経営者というものだ。そう思うだろう?」


 松之が若者二人に苦言を呈しつつ同意を求める。そうして、麻人と藤太は松之による当主とは如何様にあるべきか、男の生き様とは何か、更には経営論といった講義を受けるはめになるのだった。

 しかし、皆なんだかんだで話も盛り上がり楽しそうである。


「案外、仲良く楽しそうにしてますね」


 蓮が柊弥に話しかける。柊弥は美しく着飾っている女性陣を見て、ふと疑問に思った。


「蓮は……やっぱりあっち側が良かった?執事なんかじゃなくてさ」

「いや、自分はあんな風に複数人で談笑するのは苦手なので」

「そうなのか?」

「複数人で集まって話すと、誰に向かって何を話せばいいかわからなくなるんですよね。一対一なら、そんなことないんですけど」

「ふうん」


 柊弥は意外に思いつつ、聞きたかった答えと若干ずれているとも思った。煌びやかな彼女たちをこうして裏方として眺めていて、自分も着飾って女性として華やかなあちら側を演じたいとは思わないのだろうか。

 柊弥は横目で蓮を盗み見る。

 単純に勿体無いと思う。蓮がドレスを着たら、と頭の中で想像する。どんなドレスが似合うだろう。露出の高いドレスはあまりよろしくない。似合わないとは言わないが、やはり上品さがあった方がいい。清楚で上品、多少の可愛らしさもあった方が好みだ。今は単純に後ろで一つにまとめられている髪も、例えば首筋が見えるような髪形にするのもいいな、と蓮の白い頬を見て思う。

 どうして、蓮は男性PCなのだろう。


「鼻の下のばしちゃって……いやらしい」

「えっ!?」


 横から聞こえてきた言葉に、柊弥は驚いて口元を抑えてそちらを見た。

 いつの間にかすぐ隣に葵が立っていた。


「なによ……女に囲まれて……誰にでもお世辞言って……軽い男」


 葵は女性たちに囲まれ上機嫌で話に興じる侘助を唇を噛んで睨みつけている。

 一瞬、自分のことを詰られたのかと思った柊弥は人知れず胸をなでおろした。


「柊弥君も蓮君も、ぼさっとしてないで働きなさいよ」


 そうは言うものの、やることなどほとんどない。ビュッフェスタイルの食事は配膳の必要もないし、準備は全てパーティーが始まる前に済んでいる。勿論、柊弥と蓮は堂本の指示の元、しっかりと執事として職務を全うした。パーティー中やることとといえば、空いた皿を下げるか、たまにドリンクを補充するくらいだ。

 それも、葵と他のメイドがやってしまうため、柊弥と蓮は本当にその様子を眺めているだけなのである。


「何であたしばっかり、こんなことしなくちゃなんないの」


 それは、堂本の指示だからである。葵に出来るだけ仕事をさせろという指示。

 葵は本日の使用人としての業務を丸々放棄した。このパーティーの準備にも顔を出さなかった。それを堂本に説教されたのだ。蓮曰く、それは堂本を介したGMからの厳重注意ではないかと言う。蓮自身も厳しくテコ入れされたこともあり、GMが役割演技に並々ならぬこだわりをもっていると感じたらしい。現に葵はメイドとしての役割演技の放棄と言う名目でペナルティとしていくつかポイントを失っていた。


「でも葵ちゃん、こうやって仕事してればお給料が……ポイントが貰えるよ?」


 蓮が励ましの言葉をかける。


「そんなの、どうでもいい。あたしだって綺麗なドレス着て可愛いって言われたい。ビュッフェで好きなもの食べたい」


 葵は恨みがましく茜や蘭子を見つめる。

 そんな葵を見て、その反応は至極もっともだと柊弥は思う。

 そうは思うものの、では自分はどうかといえば、御曹司や婚約者としてあんな風に談笑するよりも壁際で裏方として大人しくしている方が気楽だ。立食パーティーは兎に角しゃべり続け、話を聞き続けなければならない。食事など二の次で、基本座ることも出来ない。それがマナーだ。正直、仕事上で出席するのでなければご遠慮願いたいと常々思っていた。結局その辺は適材適所、自分には向かないだけだ。得意な人間もいればそうでない人間もいる。

 相変わらず話に花を咲かせている面々を見て、流石だと感心する。架空の設定を遵守するなか、よく話が尽きないものだ。しかし、情報収集としてこの場を活用するには絶好の機会だ。

 彼らの話を立ち聞きしてわかったことがいくつかある。

 まず、東雲白檀は近年体調が優れないらしく、この洋館も療養の為に白檀自身が誰に相談することもなく買い取った物だということ。余生を自分の好きな場所で過ごす為に、事件の起こったミステリーの舞台そのものの様な洋館を選んだのだろう。既に東雲グループの実権が松之に移っているのは初日の話からも明らかであるが、経営の現場からはもう何年も退いているらしかった。

 そしてこの洋館に居を構えたのが約二年前。その一年後、つまり去年の話であるが、白檀の妻が他界した。

 白檀の妻、東雲芙蓉(しののめふよう)。この地で亡くなった彼女の墓は東雲本家の墓とは別に、この洋館の敷地内にある。

 そしてもう一つ、使用人の居住区である別館だが、元々は療養所だったらしい。本館として住まわれているあの立派な洋館も、個室の多さや娯楽室があることから宿泊施設だったのは見てとれる。元々この地は転地療養を売りとしたリゾート地だったのではないだろうか。

 他にも広い敷地内には息子の松之や侘助ですら把握していない場所があるらしいが、これらの情報が連続殺人事件とどう関係してくるのか、また関係ないのか、それはまだわからない。

 そんなふうに、ホールに響く談笑の声に耳を傾けつつ、不平不満を漏らしながら葵が簡単な仕事をこなすのを眺めていると、隣にいた蓮が何かに気付いたように顔を上げた。

 

「あ、堂本さん」


 蓮の言葉にホールの入り口に目を向けると、それまで食堂を離れていた堂本が戻ってきたところだった。

 柊弥は堂本に声をかける。


「堂本さん、お疲れ様です。白檀様のご様子はいかがでしたか?」

「ああ、いつも通りだ、心配するな」


 この立食パーティーは当然、当主である東雲白檀の主催ということなのだが、肝心の主催者である白檀の姿がない。

 白檀は常に食事を自室で取っており、それどころか殆ど部屋に籠っていて滅多に出てこない。体調もあまり良くはないらしい。

 堂本は談笑している松之に声をかける。すると、松之は何かを思い出したかのように侘助と橙子を呼んだ。


「さあ、そろそろお開きだ。侘助、橙子、我々は娯楽室で飲み直そう」

「飲み直すのは結構だが、どうせ話は次期当主の件だろ。楽しい酒にはなりそうにないな」

「ふふ、素面で話すよりは気が楽なんじゃなくて?」

「……兎に角、我々は失礼するよ。堂本、後は頼んだぞ」

「畏まりました」


 三人がその場を後にする。

 そして残された面々に堂本が告げる。


「皆様、これより記念撮影を致します」


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