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13話 勝者の条件

 東雲麻人(しののめあさと)の突然の発言に、柊弥含め三人は返答出来ずに沈黙した。

 すると、小峠蘭子(ことうげらんこ)がワイングラスをテーブルに置いてソファから立ち上がった。麻人の隣に立つと腕を絡ませ(しな)を作り笑顔で告げる。


「悩むことなんて無いでしょう?普通にプレイしてたんじゃ勝ち目なんて無いんだから」


 麻人を後押しするように蘭子が更に続ける。


「あたしは麻人の婚約者。当然麻人につくわ。で、あの貧弱眼鏡は茜さんにつく。東雲姉弟の婚約者であるあたしたちは必然的にそうなる。あとは自分の相手を勝ち馬に出来るかどうかなのよ」


 昼間、蓮が言っていたように婚約関係にある者同士は既に協力しあっているのは間違いないようだ。

 だが、この展開は予想外だ。

 麻人はそれぞれに問いかける。


「葵、お前は茜に虚仮(こけ)にされまくって嫌気が差しただろ?蓮、お前も茜には組しない筈だ。あんな仕打ちされたんだからな。柊弥、あんたはどうだ?使用人を指導する立場から見て茜は人の上に立つ器だと思うか?」


 柊弥は返答に窮した。どうも話が一方的過ぎてついていけない。


「約束する、俺が当主になったら十億は協力してくれた仲間に分配する」


 話を強引に進めようとする麻人に、どうしたものかと柊弥が頭を悩ませていると、娯楽室に未だ姿のなかった二人が(ようや)く現れた。

 東雲茜と里中藤太だ。


「あらあら?楽しそうな話してるじゃない?」


 茜が麻人に話しかけると、麻人は気まずそうに舌打ちをした。


「いたのかよ……どこから聞いていやがった」

「なあに?その言い草。さっき呼んだのは自分だって言ってなかったかしら?せっかく来てあげたのに」

「……ほとんど最初から聞いてんじゃねぇか」


 おそらくタイミングを見計らって部屋に入ってきたのだろう。

 茜は笑顔で語りだす。


「昼間のことでとやかく言われるのは心外だわ。あの状況でもたもた行動を躊躇していたら()()()の不評を更に買ってしまうでしょ?それに蓮、私はあなたを助けるために機転を利かせたのよ。馬鹿メイドに嵌められたあなたを……わかってるでしょう?」


 またも間接的に罵られた葵は、忌々しげに茜を睨んでいるが唇を噛み締めて我慢しているようだった。


「私は馬鹿は嫌いなの、馬鹿なメイドも馬鹿な弟も」

「おい茜、お前なんかに馬鹿呼ばわりされる筋合いねーぞ。昨日今日会ったばかりの他人に俺の何がわかるってんだ」

「まあ、麻人!姉のことを呼び捨てにしたあげく、昨日今日会った他人ですって!?……GM審議お願いします」

『物語の設定を著しく侵害する発言と認められます。ペナルティで十ポイント減点致します』


 麻人の腕輪からGMの声が響いた。


「ああ!?何でだよ!ある程度のメタ発言は許されるんじゃないのかよ!?」

「推理でも何でもない不要で過度なメタ発言はこの世界に相応しくないのよ。……ね?馬鹿な弟でしょう?こんな無能を主人に選んで大丈夫かしら?」


 茜がこちらに同意を求める。話の流れが完全に「麻人か茜のどちらかに組する」という方向に向かっている。

 そんな白熱する東雲姉弟の会話に割って入ったのは里中藤太だった。


「あの、皆、質問いいかな?そのポイントっていうのは、えっと……何なんでしょう?」

「藤太、その話は今すべきことかしら?」


 話の腰を折られた茜が藤太を横目で睨む。柊弥としては寧ろそっちの話が聞きたいと内心思った。

 藤太は必死に言い訳をする。


「だ、だって、定期報告中に急に呼び出されたからマネージャーに聞きそびれてそれで……っ」

『ポイントとは主に特殊技能を使うときに使用するものです』


 藤太の疑問に答えるように、室内のオーディオスピーカーからGMの声が響いた。


『特殊技能を既に使用した方はご存知かと思いますが、技能を使う際にはポイントを消費しなければなりません。皆さんにはあらかじめ百ポイントが付与されています。詳しくは各自タブレットPCでご確認下さい』


 技能も際限無く使えるわけではないらしい。しかし、一度に使用するポイントはどのくらいなのだろう。藤太と同じようにサエキに確認する前にここに来てしまった柊弥にはわからない。

 柊弥が考えを巡らせる間もなく、茜がわざとらしく咳払いをした。


「……話を元に戻すわ。そこの使用人の三人はどちらにつくのかしら?私?それとも麻人?」

「どちらにと言われましても……」


 柊弥が言葉を濁していると今度は麻人が詰め寄る。


「序盤の内に足場を固めておきたいんだよ。今の内に敵か味方かはっきりさせておきたい」


 こんな序盤に身の振り方を決めて、しかも宣言することに一体何のメリットがあるというのか。 

 どうも先程から麻人と茜のいいように話が進められているようで釈然としない。

 すると、柊弥の斜め後ろから盛大な溜息が聞こえた。


「そんなの、どっちも嫌なんですけど」


 後ろを振り向けば最上葵が憮然とした面持ちで腕組みをしていた。

 そして、高らかに宣言する。


「あたしは侘助様につくわ」

「は?何言ってるの?侘助叔父様はNPCでしょう?」

「だから何よ。東雲の血を引いてる後継者候補には変わりないでしょ。PLなんか信用できないし。まだNPCを味方に付けたほうがマシよ。どうせあたし達は当主になれないんだから」


 葵のその言葉を聞いて、柊弥は密かに葵を見直した。

 このゲームについて何も考えていないわけではないらしい。


「そういうことだから、あたしもうお部屋戻って良いですかぁ?業務時間外なんで。お疲れさまでした~」


 他の人間が止める間もなく、葵は言いたいことだけを言って娯楽室を出ていった。


「……本当に勝手な女ね。まあ、あんなのを味方につけても仕様がないし。で、どうするの後の二人は」

 

 茜は(はな)から葵には期待していないといった様子で、柊弥と蓮に話を振り直す。

 すると蓮が咳払いをして、おずおずと挙手をする。


「あのぅ、そう言われましても……自分は東雲家に雇われている使用人ですから、誰につくとか言われても」


 蓮が背を丸めて麻人と茜を交互に見て伺うように答えた。


「そういうことじゃなくて、PLとしての意見が聞きたいんだよ」


 麻人が少し苛立ったように食い下がる。


「そう、申されましてもですね……」


 蓮が宥めるように下手に出て遣り過ごそうとするが、東雲姉弟が納得する様子はない。

 まるで従業員の都合など全く意に介さないクレーマーのようだと柊弥は溜息を漏らす。どうも考え方が会社員だった頃のまま抜けていない。しかし、この手の手合は、ならぬものはならぬとはっきり言わねばらちが明かない。


「PLとして言わせて頂きますが、お二人のどちらかに組することは出来ません」


 柊弥があまりにもはっきりと断ったので、その場の人間は皆驚いたように柊弥を注視していた。

 すると、麻人の隣で成り行きを見守っていた蘭子が声をあげた。


「な、何でよ?あたし達も貴方達も東雲の当主になれないのよ?なら、東雲の人間に取り入るしかないじゃない」


 蘭子に続くように今度は藤太が柊弥に尋ねる。


「柊弥君も葵ちゃんみたいにNPCの人を選ぶの?」

「そういうことではなくて、無理だと言ってるんです。東雲の誰か一人を当主に相応しいと支持しそれを表明することは、役割上出来かねます。他の方への背信行為となり得ますし、使用人の立場で次期当主について言及することは役割演技(ロールプレイ)上致しません」


 丁寧かつ強い意思をにじませた口調で告げる。

 

「あくまで使用人の立場上、表立って支持不支持はできないって訳か」


 柊弥の言い分を黙って聞いていた麻人が、頭の後ろをかきながら呟いた。


「わかった、いいぜ。あんたらはあくまでも中立。表立って敵対しないってことだけでも良しとするぜ」


 麻人は再びソファに座り直し、グラスに残っていたワインを飲み干し一旦空にすると、蘭子に呼びかける。


「蘭子、飲み直しだ。付き合えよ」

「ふふっ……いいわよ」


 蘭子も麻人の隣に腰を下ろし、麻人の空のグラスにワインを注ぎ足す。


「あらあら、呼び出されてわざわざ足を運んだわりには何の収穫もなかったわね」


 麻人と蘭子の様子に、茜もこれ以上話しても詮無いと思ってか、追及する様子もなくあっさりと娯楽室の扉へと向かう。


「え?え?取り敢えず話はまとまったってこと……だよね?あっ、待ってよ茜ちゃん!」


 茜が話しに区切りをつけたのを見て、藤太もそれに続く。


「じゃあ、お先に失礼するわね」

「皆……初日色々あったけど、これからよろしくね。おやすみなさい」


 茜と藤太は連れだって娯楽室を出て行った。

 それを見届けて、麻人は柊弥と蓮に話しかける。


「呼び出して悪かったな。あんたらも、もう戻っていいぜ」


 麻人の言葉に、柊弥と蓮も軽く退室の挨拶をして別館に戻ることにする。

 ただ最後に、娯楽室を出る間際、麻人が二人に振り向かないまま背中越しに念押しする。


「さっきの話、本気だからよ。いつでも声かけてくれ。表立って支持するのは無理かもしれないけど、決して悪いようにはしねえよ」


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