12話 呼び出し
「ゲーム初日お疲れさん」
電子タバコを咥えながら、マネージャーのサエキは柊弥にねぎらいの言葉をかけた。
柊弥は宛がわれた自室でタブレットの画面越しにサエキを見ながら夕食を摂る。
夕食はNPCのメイドが運んできた。勿論名前など知らない。
使用人の身でありながら使用人に世話されるのもおかしな話である。
「さて、じゃあ報告して貰おうか」
「報告?何を?」
「ゲームの報告!」
サエキは頭を掻きながらそれ以外何があるのだというように言った。
「これからお前たちPLには、定期的に各マネージャーにゲーム中の出来事や自分の考えを報告してもらう」
そういえば、ゲームが始まる前にサエキが定期報告がどうとか言っていた。
しかし、行動を常に監視され、あまつさえその映像を配信されているのに何を報告することがあるのだろう。
「外から見ているだけじゃわからないこともある。PLの考えを知るのもマネージャーの仕事だ。そして、このシナリオは一応、推理モノってことになってる。ようは定期報告でPLとしての推理をマネージャーに聞かせろってことだ。シナリオの進捗に合わせて推理も変わっていくだろう。頭ん中整理するためにも必要なことだ。言える範囲内で助言もしてやれるしな」
マネージャーに自分の考えを表明してそれに対して助言がもらえるならかなり心強い。
「ま、俺たちマネージャーは担当するPLを勝たせるためにいるわけだから。その点は信頼してもらっていい」
「わかりました。改めて、よろしくお願いします」
「おう、任せろ。で、御厨蓮とはどんな感じだ?」
「……はい?」
何の脈絡もなくサエキから蓮の名前が出てきて思わず聞き返す。
「中々親しそうに話してたじゃないか。いいねぇ、モテるねぇ。研修中にあの子のこと助けてたもんなあ」
「……サエキさん、今この時間って推理パートってやつですよね」
「こんな序盤で何を推理しようってんだ。それに推理なら今日はもうしてただろ?御厨蓮と」
「聞いてたならもういいですよね。報告は以上です」
「まてまて!悪かった!早々に他PLと協力関係が出来て良かったな、うん」
にやけ顔のサエキはどう見ても柊弥の反応を見て楽しんでいる。
いい歳して中学生のような絡み方をする先輩や上司は結構いるよな、と柊弥は心の中で呟いた。
しかし、柊弥が期待していた反応を示さないとわかったのか、つまらなそうに溜息を吐いた。
「悪かったな、冗談だよ。どうせあいつ男PCだしな。お前が上司って立場なら優位に立てるだろうし、組むにはいい関係性のPCじゃないか?」
サエキの何気ないその言葉が柊弥の耳にやけに残った。
PC御厨蓮は男。わかっているが改めて言われると何故か胸がざわつく。
「サエキさんそれって――」
柊弥がサエキに問う前に、柊弥の腕輪とタブレットから同時に電子音が響いた。
「これは……柊弥、本館の娯楽室だ」
「シナリオ上のイベントですか?」
「ああ……まあ……とにかく強制だ行ってこい」
まだ、聞きたいことがいくつかあったのに、何なのだと不満げな柊弥を無視してサエキは通信を一方的に切ってしまった。
柊弥は仕方なく娯楽室に向かうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
娯楽室は本館二階にある。
一個人の所有する道楽の為のものにしては豪華すぎるその部屋は、娯楽室というよりも、最早遊技場の域である。
まず目を引くのは深緑のビリヤード台。個人宅でビリヤード台を設置できるスペースを有するだけでも富裕層に違いないが、この娯楽室はビリヤード台を置いても余りある広さがある。
奥の壁を見れば、五十インチ以上ありそうな大型テレビ。オーディオ機器が完備された、所謂ホームシアターシステムというやつだ。
そしてオセロ、チェス、将棋、囲碁、麻雀等のボードゲーム。麻雀に至っては雀卓まで設置されている。
そして、本棚には国内外の推理小説。ちなみに館には書庫が別に存在するがここにあるのは推理小説のみだ。
その他にもスロット、ダーツ、通信カラオケまで、ざっと挙げただけでもこれだけ揃っているのだから、やはり金の掛かり方が違うと改めて思う。この洋館は部屋数もさることながら設備的にも最早ホテルと言っても遜色ない。
柊弥が娯楽室を訪れると、既に三人の人間が集まっていた。
スタイリッシュなテーブルの周りを革張りのソファがぐるりと囲んでいる。その広いソファの一角を陣取って、足を組んで座っているのは東雲麻人だ。
麻人は柊弥に気付くと、手を挙げて気さくに声をかける。
「おう!わりぃな呼び出しちまって。あんたも何か飲むか?そこの冷蔵庫に色々入ってんぞ」
テーブルにはワインボトルとグラスが置いてあり、麻人は室内にある冷蔵庫を指して柊弥を誘った。
柊弥は麻人の勧めをやんわりと断り、他二人にも目を向けた。
冷蔵庫からチーズを取り出して麻人の隣に腰掛けたのは小峠蘭子だ。蘭子が空の二つのグラスにワインを注いで一つを麻人に手渡す。そして二人はグラスを傾け優雅に乾杯した。
一方で、そんな二人には目もくれず、本棚を眺めているのは御厨蓮だ。
柊弥は麻人に視線を戻す。
「呼び出したとおっしゃいましたが……我々は麻人様に集められたのですか?」
てっきりシナリオ上のイベントだと思っていた柊弥は麻人に問う。
「んー、その様ってどうも慣れねえんだよな。歳もそう離れてねえし……みんな名前呼び捨てでよくね?」
麻人は腕組みをして不満を漏らす。
「それは致しかねます。私共はあくまでも使用人ですので」
本棚を眺めていた筈の蓮が、すかさず麻人に答える。
そんな蓮に麻人は肩をすくめた。
「ま、良いけどよ。他の三人は何してんだ?早く来いよな、こっちはわざわざ技能使って集めてんのに」
どうやら麻人の特種技能によってここに集められたらしい。それもPL全員。
何らかの強制性を持った技能のようだ。
「ちょっと、なんなのぉ……っ!急に娯楽室に行けって言われてっ……急いで来たんだけど!?」
娯楽室の扉を乱暴に開けて、飛び込むように入ってきたのは最上葵だった。
「よ、じゃじゃ馬メイド、わりぃな呼んだの俺だ」
「っはあ!?あんたが……っ、麻人様がお呼びになったんですかぁ?あたしぃ今、めちゃめちゃめちゃ忙しいんですけどっ!」
苦しそうに息を切らしているところを見ると急いで来たというのは本当らしい。
「あたし、お風呂入るところだったのにぃっ」
確かに、昼間は高く結われていたツインテールは解かれ、衣服も着崩れている。
女性にとって風呂は余程忙しく重要なものらしい。
「葵ちゃん葵ちゃん」
蓮が憤慨している葵に近付いて、にやりと笑うとこっそり耳打ちをした。
すると、葵の顔にさっと朱が走り、その赤面した顔のまま蓮を睨み付けた。
「蓮君それセクハラだよ!」
「へへっ、だってお風呂とか言うから~」
昼間と違って地獄耳を発揮出来なかったが、蓮の顔付きと葵の反応からしてろくな発言でないことは想像できる。
青年のロールというよりもそれはオヤジのロールだろう、とツッコミたい。
「で、なんなんですぅ?早く終わらせてくれません?」
「うーん、まだ全員揃ってねぇが……まあ、かえってその方が良いかもな」
麻人はソファから立ち上がると腕を組んで仁王立ちになった。
「あんたらにPLとしての立場を聞いておこうと思ってな」
「PLとしての立場?」
蓮が訝しげに聞き返す。
「昼間白檀のじじいが言ってただろ。謎を解いた者が当主になるって……あんたら、誰につくつもりだ?」
「麻人様、それはどういった意味でしょうか?」
麻人の言葉に、今度は柊弥が問う。
「いいか?白檀のじじい……爺ちゃんは東雲の血を引く者は誰でも当主になる資格があると言った。それはつまり、当主になれるのは俺か茜かどちらかってことだ」
確かに使用人の柊弥、蓮、葵には相続権がない。更に言えば婚約者の藤太と蘭子も同様である。
であるならば、どうすればいい?
はじめから当主になる資格すらないのに。
麻人が歩み寄り、柊弥を励ますかのように軽く肩を叩く。
「まあまあ、諦めた顔すんなって、柊弥さんよぉ。何のために呼んだと思ってんだ?」
麻人は得意気に使用人三人に向かって提案する。
「お前ら、俺につけよ」




