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第7話 帯電力者

挿絵(By みてみん)


 太陽がゆっくりと沈み、空が赤く染まっていく中、2人はカラスの鳴き声を聞きながら、しばらく無言のままベンチに並んで座っていた。


「おかげさまで、だいぶ血が止まってきました」


 瞳はハンカチを当てた自分の腕を見ながら言った。


「おお?」


 全はバリボリと音を立ててカップ麺の麺をかじりながら適当に返事をした。

 口の中のものをゴクリと飲み込んだ全は、空になった容器の中を覗き込み、すぐに2つ目のカップ麺の中身をかき回し始めた。


「ぷ…………。くす、くすくす、無創さんって、変な人ですよね。さっきのことといい…………、くすくす。てっきり職業は格闘家か何かだと思ってました」

「え? 何で?」

「だって、さっきのモンスターが逃げた理由って、無創さんが強そうに見えたからですよね?」

「はは、いやぁ、まさか。このカップ麺の匂いが嫌だったとかじゃね?」


 全は自分のズボンにカップ麺の細かい欠片が落ちているのに気がついた。


「あ~くそ、服これしか持ってねぇのに」

「洋服を安く買うなら、この近くの古着屋さんがおすすめですよ」

「いや、俺は夏服と冬服の違いが分からんし、サイズの見方も知らんから…………」

「そ、そういうことでしたか…………」


 全は苦笑いを浮かべる瞳を横目で見たあと、ベンチに置いてあるレジ袋から電球が入った小さな箱を取り出し、そのまま蓋を開けた。


「ふん。俺は国越さんくらいの年齢の頃から、学校には行ってねぇんだ。もう日が暮れそうだし、そろそろ変な人と話してないで家に帰った方がいい」


 そう言い放った瞬間、全は手にした電球をパッと明るく光らせてみせた。

 全の指先から強い電流が放たれていたのだ。


「あ、それ、無創さんもできるんですね」

「あれ、驚いて逃げるかと思ったんだが…………」

「ちょっと借りてもいいですか?」

「うん…………」


 全は電球を瞳に手渡した。


「あれっ、あれっ、おかしいな。懐中電灯の電球ならできたのに」


 瞳は何度も電球の金具に指を押し当てるが、一向に光る気配がない。


「それは電球形蛍光灯だからな。光らせるには電圧が100ボルト必要だし、交流を発生させなきゃならないから初心者には難しい。…………というか、国越さんは帯電力者だったのか」

「はい、父からの遺伝で…………。父は昔、電能隊の隊員だったので、いろいろと教わりました」

「ほう。それなら将来、電気代を節約できるな」


 全は冗談めかして笑いながら言った。


「…………」


 しかし、瞳は黙り込んでうつむいてしまった。


「私は普通の人間として生まれたかったです…………。学校の先生たちが、授業中にいつも電能隊の悪口を言っているので…………」


 全は落ち込んでいる瞳の様子を見ると、困ったように頭をぽりぽりとかいた。


「俺もとにかくめんどくせぇことが嫌いで、開けたドアを閉めたり、下駄箱に靴を入れる作業を一生繰り返すのかと思うと、本気で死にたくなることがある。まして人間相手のごたごたなんてな…………。けど貯金が100万円くらいあるから、何も死ぬこたぁねぇかと思って、まだ生きてる」

「そうだったんですか…………」


 全はますます気まずそうな顔つきになる。


「…………すまんが、俺の頭じゃ気の利いた言葉なんて思いつかん…………。ただ、落ち込ませちまったならお詫びにこれをあげよう」


 全は割り箸の先でカップ麺の具を1つつまみ上げ、瞳の目の前に差し出した。

 よく見ると、それはカサカサに乾燥した小さなエビだった。

 瞳の顔が、ほんの少しだけ引きつる。


「…………いりません」

「ん~、そうか。じゃあ、この光るコンタクトレンズはどうだ。超小型のパソコンが内蔵されてて、インターネットも見れるから、テストのカンニングに使えそうだ」


 全は自分の右目を指さしながら得意げに提案した。


「あ、それはちょっと欲しいかも」

「ふむ、じゃあ」


 全は光るコンタクトレンズを外そうと、右目の下まぶたに人差し指を添えて引き下げた。


「あ…………、やっぱだめだ。これは目から安定した放電ができなきゃ動かせないから、さっきの電球を光らせるより難しい」


 全は手を下ろして言った。


「え~、でも、ちょっとだけ近くで見てもいいですか?」


 瞳は全の顔を至近距離から覗き込み、光るコンタクトレンズの表面に浮かび上がっているゲーム画面を興味深そうに見つめる。


「うわ。なんか凄い。こんなもの、どこで手に入れたんですか?」

「手に入れたんじゃなくて作った。…………というより、作る機械を作ったってところかな」

「作る機械?」

「別に大したことじゃない」


(何だかこうしてると──)


挿絵(By みてみん)


(あの子を思い出すな)


 全の脳裏に浮かんだのは、5年前、マリアと自分がベンチに座り、会話を交わしていた光景だった。

本作をお読みいただきありがとうございます。


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