第2話 モンスター上陸
とある海域の上空では、全長50メートルを超えるアリ型モンスターが、マッハ1以上のスピードで飛んでいた。
その背中には、カンを含む4人の男たちが、空気抵抗などまったく気にする様子もなく仁王立ちしていた。
「ユピー! さすが殺傷力10万のグラトンモンスターだ! このスピードなら、日本到着まであっという間だぜ!」
ヌイは嬉々として叫んだ。
「じゃあ、そろそろ作戦を説明するよ」
「「「はい!」」」
3人はカンの方を向き、力強く返事をする。
カンが人差し指にはめている指輪型の装置を操作すると、空中に巨大な立体映像が浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、「日本は戦争ができる国になってはならない」と念仏のようにつぶやきながら銃器を廃棄する自衛官たちが、背後からグラトン兵に撃ち殺されていく光景だった。
「皆知っての通り、日本は平和宣言をして以来、非武装国家となった。自衛隊は解散し、警察官は銃を手放し、もはや入国管理さえまともに機能していない。唯一の例外として、電気能力警備隊、いわゆる『電能隊』がまだ存在しているが、偵察情報によると、もう彼らに独立戦争を勝ち抜いたころの力は残っていないらしい。だから、潜伏している兵士たちだけでも日本を侵略できると思うが、念のためボクたち三ツ星も空から戦況を把握し、もし仲間がやられたら、そこへ1人加勢に行く」
「ククク…………、ワクワクが止まりませんよ。日本のマスコミはほとんど掌握済みですから、久々に人目を気にせず暴れられる」
イエクは腰に差した刀の柄頭を、指で弾きながら不敵に笑う。
「うん。ただし、近代兵器を使用した場合はその限りではない。戦車や軍艦で日本を攻撃している様子を他国の衛星から撮られれば、我が国の立場は再び危うくなるだろう。だから、なるべく外国人観光客を装って暴動を起こすんだ。…………何か質問は?」
「「「…………」」」
「では、行こうか──」
日本のとあるデパートの食品売り場では、マリアが今夜の食事に使う3人分の食材を吟味していた。
住宅街では、道端で2人の中年女性がのんきに立ち話をしている。
「自衛隊はなくなったのに、何でまだ電能隊は残ってるのかしらねぇ」
「おかしいわよね。日本には絶対平和条項があるんだから戦争なんか起こるわけないのに」
繁華街では、デモ隊の声が、徐々に過激で荒々しいものへと変わっていた。
彼らを取り囲む機動隊員たちは、いつ暴動に発展してもおかしくない異様な緊張感の中、じっとりと手に汗をにじませる。
「腕立て1万回、始めっ!」
正面ゲートの金属プレートに『電気能力警備隊』と刻まれた施設のグラウンドでは、泥だらけのジャージを着た屈強な男たちが、目にも留まらぬ速さで腕立て伏せをこなしていた。
高空で停止飛行しているアリ型モンスターの上から、ヌイは地上の光景を見下ろしていた。
「くぅ~っ、電能隊め! 自国のために自分の特殊能力を使おうだなんて、いかにも右翼の発想だぜ! …………しかし、あんな雑魚どもを駆逐するのにカン首相まで出陣されるとは、いくらなんでもオーバーキルすぎやしませんか?」
ヌイは不思議そうにカンの方を振り返って尋ねる。
「ん~…………、それはあの方に言った方がいいだろうね」
カンが視線を向けた先をヌイが追うと、標高500メートルを超える岩山の頂に、街を見下ろしている男の姿があることに気づいた。
「な、ななななな、なぜオム様がここに!?」
ヌイは魚のように口をぱくぱくさせ、一瞬にして青ざめた顔から滝のような冷や汗を流した。
「ボクも詳しい事情は知らないけど、海外で優秀な軍人を探していらっしゃるとか」
カンとヌイが言葉を交わしている間、ウテスは両目の瞳孔を機械のように素早く回転させ、地上の様子をくまなく探っていた。
「ウテス、地上の様子はどうだい?」
カンがウテスに声をかける。
「今のところ、武装している勢力は電能隊以外確認できません」
「…………そうか。ならば地上の兵士たちに合図を送ると同時に、作戦の成功率を上げるとしようか」
ヌイたちはカンの方を見る。
カン以外の面々は、孵化した不気味なハチ型モンスターを見て、背筋を凍りつかせた。
ハチ型モンスターは小刻みに羽を震わせて飛び上がると、あっという間に高度20キロメートル以上に到達した。
カンは凶悪な笑みを浮かべ、上空に向かって片手を伸ばす。
「繁殖せよ、ナインティーン」
カンが力強く拳を握りしめた瞬間、ハチ型モンスターは打ち上げ花火のような音を立てて破裂した。
放射状にばらまかれた数千、あるいは数万もの卵は、どれもそのビー玉ほどの大きさからは想像できないほど質量が大きく、民家の屋根を突き破ったり、歩道橋の床版を貫通したりして、島全体に弾丸のように降り注いだ。
「「「っしゃおらあああああ!」」」
『合図』を聞いた瞬間、デモ参加者たちは突然狂ったように横断幕やプラカードを投げ捨て、四方八方へ猛烈な勢いで散らばっていった。
「やはり何か始まったぞ!」
警部補は警棒を構えながら叫んだ。
混乱に陥った地上の様子を見下ろしながら、カンとヌイが言葉を交わした。
「あの卵から孵化するモンスターは電磁波に敏感で、未来の電能隊員となり得る『帯電力者』だけを襲うように作られている。大半の卵は数年後に孵化するから、日本を占領したあと、ゲリラ軍の結成を防いでくれるだろう」
「地雷や不発弾のように長きにわたり国家を苦しめ続けるわけですね。恐ろしい…………」
(何だろう、今の大きな音…………)
両手にレジ袋を提げたマリアがデパートの自動ドアから歩道へ出ると、近くに路上駐車されていた車が、けたたましく盗難防止アラームを鳴らしているのに気づいた。
空から降ってきた卵の1つがフロントガラスを粉砕し、そのまま車体の底を突き破ってアスファルトにめり込んでいたのだ。
「あれって車上荒らし?」
周囲の通行人たちが話しながら車に近づいた瞬間――。
アスファルトにめり込んだ卵が、パキッと音を立てて孵化した。
突如として目の前に姿を現した全長20メートルを超える巨大なヘビ型モンスターを見て、マリアはその場で腰を抜かした。
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