8. 医療班
4階に降り立つと、そこはまるで病院の廊下だった。
先程までのホテルのようなラウンジとは大きく異なり、消毒液の匂いがするスッキリとした空間が広がっている。
内部用エレベーターホールから右手に進むとナースステーションのようなスペースになっていた。
「すみません。訓練で怪我をしてしまったので、治療をお願いしたいのですが」
灯里が言いづらいと思ったのかもしれない、白瀬が中にいるスタッフへ声をかけた。
すると、白瀬に話しかけられたスタッフが満面の笑みで他のスタッフへ声をかけた。
「きゃーーー!みんな来てーーー!咲良ちゃんの言った通り、ピチピチのイケメンよぉ〜!!」
甲高い明るい声が廊下に響き渡った。
すると、至る部屋から白衣を着たスタッフが出てきてナースステーションへ集まってくる。
彼女たちは口々に、
「ちょっと!どこ!会いたい!」
「わっ!ほんとーにイケメーン!!」
と興奮して騒ぎ、白瀬を取り囲んだ。
「え?え?えぇっと、あのぅ…」
女性たちの勢いに、さすがの白瀬もたじたじになっている。
灯里もさっきまでのフロアの雰囲気との差に目を白黒させた。
(流石は白瀬くん…普段見慣れないイケメンほど興奮するものはないわよね…)
女性スタッフの数もこのフロアは多いなぁと眺めていると、そんな灯里に男性スタッフが声をかけた。
「今日、入局した霧島さん、で合ってるかな?さっき、橘からメッセージを貰ったんだ。こっちで治療しようか」
薄茶色のウェーブかかったやや長めの髪に、優しそうな相貌のその人は、今日会った戦闘班のメンバーとはちがい、柔らかな雰囲気を纏っている。
「医療班、第一班班長の藍川です。よろしくね。」
「きっ、霧島 灯里です!よろしくお願いします。」
治療室に入ると、肩の治療のために着替えてねと衝立の奥に通された。
藍川は続けてゆっくりと話す。
「医療班に来て驚いたかな?医療部門はどこよりも女性が多いんだよ。1番危険が少ない部門だからね、戦闘向きではない解析浄化型の女性メンバーが多く所属しているんだ。解析浄化型の男性はどちらかというと分析部門に行ってしまうからね。」
ほら、東雲くんとか、と藍川は名前を挙げた。
ああ、なるほど確かに東雲は分析官だと自己紹介していたなと思いだす。
「藍川さんは分析班に配属されなかったんですか?」
治療用のタンクトップに着替えた灯里が衝立から出て来て尋ねた。
「うん、僕は元々国立医療魔導院にいてね、属性も水と光だから治癒士出身なんだよ。」
うわー、しっかり痣になってるね〜といいながら、藍川は患部を観察する。
「今回の演習用の穢れは本物じゃないから、治療に浄化は要らないんだ。治癒術で今日の打撲と切り傷を治していくね」
藍川は灯里の肩に手を翳すと印を結び、
「光陣一の段、浄光」
と唱えた。
ホワっと暖かい黄色い光が患部を覆い、じんわりと怪我をした部位が温かくなった。
光が消えると肩の傷だけでなく、その他の擦傷も綺麗に治っていた。
「ありがとうございます。なんか…恥ずかしいです、こんなに怪我しちゃって。」
と灯里が俯くと、
「戦闘班のみんなの怪我は僕たち非戦闘員を含めたみんなを守った勲章なんだ、だから恥じることはないんだよ。訓練だとしても怪我したらまたおいでね。」
と藍川はハチミツみたいな目を細めて言った。
(あたたかな人だなぁ…)
と和んでいると、
ーーーガラッ
「ここにいた。」
ぜぇぜぇと息を吐きながら白瀬が部屋に入ってきた。
どうやら女性スタッフ達から逃げてきたらしい。
「ここに来なくていいように、僕は怪我をしないことにする。…あの包囲網を突破する方が、訓練より難しい。」
よっぽど囲まれたのが怖かったのか、白瀬が決意を込めた目で言った。
「あはは、ここは男性が少ないから、イケメンを見るとみんな興奮しちゃうんだよね。許してあげて。まぁ彼女達の一番の推しは、怪我なんてしなくて滅多に医療班へ来ない人だからさ。」
「推し…って誰ですか?」
「ああ、特務遊撃班の霧島 恭弥班長だよ。ほら、今日もレベルGとやり合ってもかすり傷ひとつつかなかったでしょ?」
みんな極上のイケメンって彼のことを言ってるんだよね〜と、のほほんと藍川が笑った。
「フンっ、別にイケメンで強いだけでしょう、本当に大事にしなきゃいけないものをアイツは捨てたんだ。」
白瀬が吐き捨てるように言った。
「おや?彼が嫌いかい?確か君たち従兄弟だよね?」
と藍川は白瀬に尋ねた。
(えええ?!従兄弟?!今日顔合わせた時はまるで知らない人同士みたいだったけど…)
「ええ、嫌いです。彼は大切な家族に責任を押し付けて逃げた人間なんです。」
「そっか…。あ、そうだ、白瀬くん、怪我していなくてもこうして僕のところにたまにおしゃべりしにきてよ、ここ、怪我人以外で男性が極端に少ないから、寂しいんだよねぇ」
「…いいですよ、女性スタッフの皆さんから見つからない方法を教えてくれるなら。」
フッ、と白瀬の表情が和らいだ。
藍川はまるで心の澱みまで解してくれる、そんな力を持った人だと灯里は思った。
つづく




