7. 最強の浄化師
演習用とはいえ、穢れが勢いよくぶつかった肩は腫れて痛みが出てきた。
さらに受け身を取ったりしたことで、灯里はかすり傷だらけだった。
「よし、今日は初日だし、訓練はこれで終了にするか。霧島も医療班に行って、治療しよう。」
「このくらい、大丈夫ですよ。」
生傷が絶えないのは学園時代の体術の授業でも同じだ。それに自分だけボロボロなのは恥ずかしい。灯里は強がってそう言った。
「いいか、霧島。浄化師はいつ出動要請がかかるかわからない。だから出来るだけ常に万全の状態でいるべきなんだ。だから医療班へ行くんだ。挨拶も兼ねてな。」
きっとこれからしょっちゅうお世話になるんだから気にすんなよ〜と笑いながら橘は灯里達を連れて屋上から最上階へと続く階段を下りた。
「霧島さん、僕も挨拶に行きたいし、あとで一緒に医療班へ行ってみようよ。」
そう言って蒼が手を差し伸べてくれたので、ありがと、と素直に灯里は応えた。
ーーー
三人が最上階のラウンジフロアに着くと、突然、けたたましい警告音がフロア中に鳴り響いた。
ビーッ!ビーッ!
『東京都新田区にてレベルGの穢れ発生。班長クラス複数名出動要請、繰り返しますー、東京都新田区にてレベルGの穢れ発生。班長クラス複数名出動要請…』
「おい!第10戦闘班に医療班を送れ…!」
「感染者を運ぶ手配もしろ…」
バタバタバタバタ…っと慌ただしく目の前を隊員達が通り過ぎた。
「えっ?なに?出動要請?!レベルGってそんなに危ないの…?」
警告音と緊張感の漂う空気に灯里は青ざめる。
「ん〜、まぁちっと普通より大きめの穢れが出ちまったみたいだな。俺もちょっくら顔を出しに行くかなぁ…」
灯里達をどうしようかな、と頭を掻く橘の後ろから東雲が現れた。
「今回は貴方が行かなくても大丈夫ですよ。本来なら班長クラスが三名以上出動する案件ですが、恭弥が向かいましたから。
なんか身体が鈍ってるとか呟いてましたし、分析結果も渡してあります。安心してください。このくらいのレベルなら彼一人で十分ですから。」
つい、と東雲が目をやった先の大型モニターには新田区のどこかのビルの一角が写っていた。
— — —
新田区 東部地区
もう間も無く日が沈む街で、15メートルはありそうな恐竜のような形をした穢れが暴れていた。
ビルを薙ぎ倒し、立ち向かう浄化師を鋭い爪と鞭のような尻尾で薙ぎ払っていく。
何人かの浄化師たちが道の脇に引き摺られて避難させられている様子も映っている。
穢れに傷つけられたところから、黒い靄が出始め、負傷した身体に蛇のように黒い模様が巻きつこうとしていた。
その脇を、ひとりの男が歩いていく…。
(えっ、あれって朝連れて来てくれた人…)
「恭弥さん…」
モニターを見つめていた人の誰かから、その名前が溢れた。
恭弥は穢れから数メートルというところまで来ると、黒い刀剣を空中から顕現させた。
刀身に紫色の加護が走る。
恭弥に気がついた穢れが叫び声をあげた。
『ゴォォォォォ!!!』
巨大な尾っぽが恭弥めがけて振り下ろされる。
ドン!!
攻撃が当たる直前に恭弥は姿を消し、
次の瞬間。
遥か上空に恭弥の姿が浮かび上がり、風属性の魔力が渦巻いた。
スッ
一閃。
紫色の光線とともに、巨大な穢れの体に一本の線が走る。
数秒遅れてーーー。
ズズズズズ……
穢れが真っ二つに割れ、消滅した。
— — —
はーっと何処からともなく安堵のため息が漏れる。
(あんな何人も束になっても敵わないような穢れを一振りで倒してしまうなんて…人間業じゃないわ…)
灯里は見せつけられた圧倒的な強さに身を震わせた。
パタン、とタブレットを閉じる音がした。
見るとにっこりと笑った東雲が佇んでいる。灯里と目が合うと、
「ね、大丈夫だったでしょ?」
とちゃめっ気たっぷりにウィンクした。
「はい、でもなんであんなに強いんですかあの人…」
モニター画面をじっと見つめたまま白瀬が抑揚のない声で呟いた。
「…そりゃ、彼は特別だからさ。」
「特別…?」
「五大魔貴族の黒家の血を引いているからさ。」
「し、白瀬くん、、?」
灯里が初めて見るその冷たい横顔にとまどって声をかけると、白瀬は誤魔化すように微笑んだ。
「そうだ、霧島さん、医療班に行こう?怪我の治療をしてもらわなくっちゃ。」
「医療班は4階にある。ビル内部用のエレベーターを使って行ってこい。俺は一旦戦闘部へ行ってるな。治療が終わったら12階に顔を出してくれ。」
橘は、灯里たちがビルへ入る時に使った外部用エレベーターとは別の、内部移動専用エレベーターを指差した。
はい、と頷き、灯里と白瀬は橘と東雲と別れて医療班へ向かった。
つづく




