6. 初訓練(後編)
「よし、じゃあ次は霧島、チャレンジしてみようか。」
「いやぁ〜、私、白瀬くんみたいな攻撃魔法、ちょっと使えないんですけど…」
灯里はつい、情けない声を出した。
何せ白瀬は学年トップの人材なのだ、ビリの自分はあんなことは出来やしない。
そもそも灯里は闇属性しか持っていない。
闇属性は解析魔法や干渉魔法、呪詛といった魔法が多く、あまり物理攻撃のバラエティが多くないし、灯里はまだまだ使いこなせていない。
「体術がかなり出来るって咲良からの資料にあったから、戦闘特化型の浄化をやってみたらどうだ?」
確かに灯里は体術が得意だ。
意外かもしれないが体術だけでいえば学年で5本の指に入っていたのである。
しかし…さっき見たように加護を纏わせて殴る、なんて芸当を果たして出来るのだろうか…。
少しでもコツを掴もうと灯里は白瀬に尋ねた。
「白瀬くん、加護の付与ってどうやってできたの?」
「そうだなぁ、さっきの紫の光が加護の力みたいなんだけど、まず、頭の中で浄化を強く念じて、身体の中心からその意識を抜き出して、結んだ印に加えて、魔法陣へ上塗りする、みたいな感じでやってみたんだよね。」
さすが、天才。橘の説明よりずっとわかりやすい。
「ま、力の使い方はとにかく訓練あるのみ!やってみるぞ!」
橘がまた球体を中央にセットした。
「ランクA、仮想演習展開」
先程とは違い、ドームの中には木が立ち並び、まるで林の中にいるような風景に切り替わった。
先程と同じように黒い渦から黒い塊が2つ、飛び出した。
今度の"穢れ"はウサギのような形をしていたが、全然可愛くない。ベタっとした泥のような質感がなによりも気味が悪い。
ニ体が跳躍し、灯里に向かってボールのように飛んできた。灯里は身体を反転させて避ける。
どうやって倒そうか、グルグル頭の中で考える。
先程の白瀬の言葉を思い出し、身体の中心から浄化の意識を手に流していく。
ホワ、と手のひらに力が宿るのを感じて見てみると、手のひらにうっすら紫の膜が張っているのが確認できた。
「やった!」
一瞬、気を抜いてしまった。
「霧島さん、後ろ!」
白瀬が危険を知らせて、短く叫んだ。
ドンッッッ
「ぐっ…!!」
後ろから一体がすごい勢いでぶつかって来て、灯里は衝撃で前に投げ飛ばされる。
前転で受け身を取りすぐに振り向く。
目の前に飛んでくる黒い塊が見えた。
咄嗟に左手を前に出し、塊から自身を守るように手のひらを開いた。
すると、無意識に小さな半透明の盾が出現する。
ガンッ!
穢れの攻撃を受け止める。
そのまま後ろによろけながら、
「え、えいっ!」
と拳を振ると、拳に浄化の光が纏って穢れを消滅させる。
「……あれ?消えた?」
灯里はポカンとする。
「……おい、霧島。」
「は、はい!」
「お前今、防護型と直接戦闘型を同時に使ったぞ。」
「えぇぇっ?!私そんなことしてたんですか?!」
白瀬も驚いたように目を見開く。
「そんなことって……普通は出来ませんよ。」
「えっ?」
灯里は自分の手のひらと拳を交互に見た。
灯里は驚きで固まる。
…しかし忘れていたが、演習用の"穢れ"は二体いたのだ、まだもう一体は消滅していない。
ものすごい勢いで飛んできたボールのように、残りの一体が斜め上から灯里の肩に直撃した。灯里は衝撃に耐えきれず弾き飛ばされる。
「霧島さんっっ…!!」
咄嗟に防護壁から出て来た白瀬が灯里を受け止めた。
「火陣一の段、火炎」
橘があっさりと残りの一体を消し去った。
ドームの中に静寂が戻る。
灯里は肩を押さえながら、俯いていた。
すると橘がゆっくり二人の元へ歩いてきた。
「いいか。浄化師として外に出た時、お前たちが絶対に忘れちゃいけねぇことがある。
それは、生き残ることだ。
だから最後まで気を抜くな。奴らはその隙を見逃さない。
そして、穢れにやられて傷を負ったって、絶望する必要はねぇ。穢れによる感染や怪我なら医療班がどうにかしてくれる。」
橘は二人の目を見て続ける
「でもな、一度失った命だけは、誰にも戻せねぇ。
新人のお前たちが最初に目指すべきなのは、強くなることじゃねぇ。生きて帰ってくることだ。
それだけは絶対に忘れるなよ。」
悔しい。
白瀬は優秀で、橘は強い。
自分だけが、まだ遠く後ろを走っているような気がした。
(……でも、ここで諦めたくない。いつか、私もみんなの隣で戦えるようになりたい。)
「はい、忘れません。」
そう返事をして、灯里はぐっと拳を握りしめた。
つづく




