47. 融合研究の真実
白瀬と橘の風魔法で、灯里もエネルギー管理局まで運んでもらっていた。
(うわー、ほんとに羨ましいな〜、風魔法…)
いつだったか千景がこの風魔法を"風タクシー"と名づけ、便利で羨ましがっていたことを思い出す。
三人はほどなくしてエネルギー管理局の正面入り口に降り立った。
以前、研修で訪れた時とは異なり、ビルの照明は落ち、ひっそりとしている。
数名の職員が慌ただしくビルから出てくる。
「まだ浄化師以外が残っていたのか…?もう随分前に緊急アラートが出て、霞が原から退避しているはずなんだが…。」
橘は顔を顰める。
すると灯里は、慌てて退避用の車に乗り込もうとする人影のなかに、見知った顔を見つけた。
「あれっ!黒崎さん?!」
「玲央!まだいたのか?」
灯里と蒼が焦った声で呼びかける。
二人の声に気がついた黒崎はキラキラとした金の目を丸く見開いた。
「うっわ!今回の緊急アラート、環境保全局絡みか〜。」
彼はサッと灯里たちに駆け寄った。
「実はさ、エネルギー生成部門でちょっとトラブルがあって、退避が遅れちゃったんだよ。僕、"穢れ"怖いから早く逃げるね?」
そう言いながら黒崎は、全く怖がっていない表情でパチリとウインクをした。
蒼がやや表情を強張らせた。
「玲央、まだ中に残っている人がいるのか?」
「え?うん。解析課の人が少し、まだいるかも。」
「それって……」
灯里たちは顔を見合わせた。
「黒崎くん、で合ってるか?俺は環境保全局の橘。悪いが、退避が遅れた職員を探すためにカードキーを貸してくれないか?貸与手続きは今ここでする。」
「もちろん!大丈夫ですよ。」
サッと黒崎がカードキーを橘に手渡す。橘はデバイスを起動し、小さな魔法陣を表示させ、その上にカードキーをのせた。カードキーはパァ、と白く発光した。
「よし、これでいい。カードキーは必ず返す。君も早く退避車に乗れ。引き留めて悪かったな。」
橘は黒崎の手をぐっと握り、礼を言う。またね、と蒼と灯里に手を振ると、黒崎は退避車の中へと消えていった。
退避車がビルを離れるのを見送ると、橘は難しい顔をして灯里と蒼を見る。
「何人か、魔術師がビル内にいるだろう。いいか、三人一組で移動するぞ。分散するほど不利になる。」
「「はいっ。」」
引き締まった表情で灯里と蒼は返事をする。橘が普段は自動開閉のビルエントランスにカードキーを翳し、三人はエネルギー管理局のビルに足を踏み入れた。
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照明が落とされたエントランスは薄暗く、静まり返っていた。天井付近のモニターは黒々として灯里たちの姿を鏡のように映し、いつもは宙に浮いている案内用モニターや細長いロボットも、退避に伴ってロビーの角で静かに停止している。
魔石がモザイクのように嵌められた中央の柱に月明かりが当たり、魔石に反射した光が不気味な色を地面に落としていた。
橘が声を落として灯里に尋ねる。
「霧島、心当たりがある研究室に案内してくれ。」
「はい、こっちです!」
灯里たちは水瀬の研究室のあるフロアへ向かうためにエレベーターへ乗り込んだ。人気のないビルの中で、エレベーターだけが低い駆動音を響かせる。
エレベーターの中で、橘はじっとドアを見つめている。その、思いつめたような横顔に灯里は不安を抱いた。
(そういえば橘さん、水瀬さんと同期って言ってたよね…心配なんだろうな…)
ポーン
エレベーターが研究室のフロアに着いた。
廊下は薄暗く、ほとんどの研究室は明かりが消えていて真っ暗だ。
しかし、廊下の突き当たりにある一室だけは、煌々と明かりが灯っていた。
灯里ははっと息を呑む。あそこは水瀬が連れていってくれた研究室だ。
「あの明かりのついた部屋がその研究室です!」
灯里が声を潜めて二人に伝えると、三人は足音を立てないように慎重に廊下を駆けた。
橘がカードキーでロックを解除する。カチャ……と小さな音を立て、研究室のドアを慎重に開けた。
廊下の暗さとは対照的な白く明るい室内に目が眩む。
白く照らされた研究室の中央に、水瀬が立っていた。その傍らには、補助員らしき二人の姿もある。
「幸人……お前、なんでだ……?」
橘が掠れた声で呟いた。
「やぁ、また会ったね、橘。それに霧島さんと白瀬くんも。…想像よりここに辿り着くのが早かったのは、霧島さん…の働きかな?」
いつもの優しい微笑みを消した水瀬が、黒い機械をいじりながら三人に冷たい視線を送る。
以前ショーケースの中で見たとき、その機器は淡い光を放っていただけだった。
しかし今は、黒い靄を渦巻かせながら、禍々しい光を明滅させている。
「水瀬さんのやっている"エネルギー融合"の研究って、魔法エネルギーじゃなくて穢れのエネルギーの融合だったんですか…?」
灯里の硬い声に、水瀬は小馬鹿にするように笑った。
「そうだよ。表向きは、魔石のエネルギー生成に応用するための融合研究――そういうことになっている」
水瀬は黒い機器に手を添えた。
「でも僕が研究しているのは、穢れそのものだ。ようやく完成したんだよ。穢れ同士を引き寄せ、融合させるシグナルをね」
「そんなものを、どうやって……」
「この研究を評価してくれる人がいたんだ。――君たちとは違ってね。」
「…っ!なんでそんな研究をしているんですか!お父さんを穢れのせいで喪った水瀬さんがどうしてこんなことをするんですか!」
つづく




