43. 予告状
「"夏至"って明日ですよね…?」
今朝のニュースで、夏至祭の準備の様子が中継されていたのを灯里は思い出した。
橘は険しい表情で紙を見つめている。
「…そうだな。急いで出所を確かめよう。たぶん分析班がもう動いているだろうから、聞きに行ってみよう。」
橘はポン、と灯里の頭に手を優しく置いた。
「切り上げることになって悪いな、霧島。その鞭はもう自分の武器庫に持ってっていいからな。」
「あっ、はい…ありがとうございます。」
予告状が本物なら、残された時間は1日しかない。灯里たちは急いで階下へ向かった。
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灯里と橘は七班のメンバーと合流して早足で大会議室に入る。先ほど、全部門に緊急招集がかかっていた。
非番を除く、本部にいたメンバーが次々と大会議室へ入ってくる。ざっと250人ほどが集まり、それぞれ班に分かれて長机に腰を下ろす。
(こんなにたくさんの人が本部にはいたんだ…。)
初めて他部門のメンバーと集まった灯里はその人数の多さに圧倒されていた。
前方のスクリーン脇に立つ東雲が、発表台のマイクに向かって声を発した。
「急な招集に応じてくれた各部門の皆さん、ありがとうございます。皆さんもすでに目にしたり受け取ったかと思いますが、謎の予告状が届きました。」
パチン、と分析班員が部屋の照明を消した。入れ替わるようにモニターが明るくなった。予告状の文言がモニターに映し出される。
「この予告状の分析をしたところ、本物の襲撃予告であることがわかった。」
モニターの画面が霞が原周辺の地図に切り替わる。主にオフィスビルが立ち並ぶ場所に、複数の赤い点が点滅しながら表示されていた。
「これは新しく設置した検知器で検知された融合個体らしき穢れの残渣測定結果だ。さらに…」
東雲が手元のデバイスをフリックすると、地図の上に、薄いピンク色の円が、いくつも重なって現れた。
「従来の検知器の残渣測定の結果と組み合わせると、かなりの数の穢れがここに集まってきていることが判明した。」
会議室中の空気がどよめいた。灯里はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
モニターを埋めるいくつもの印を見つめる。
昨日まで訓練で相手にしていた融合個体が、明日はこの街に溢れるのかもしれない。
「他の地域では同じような残渣測定結果は出ていないから、霞が原が標的と考えていい。明日の夏至の夜、と送りつけられてきた予告状には書かれているが、それを信じる理由はない。」
東雲の後ろから、ロマンスグレーの髪を持つ、しっかりした体躯の壮年の男性がぬっと現れた。
「東雲の言う通り、今日は大丈夫だという証拠は何もない。総員、緊急配備を行う!本日の午後二時には配置につけるよう、全員準備をしろ!」
この人誰だったかな、と左に座る蒼をチラッと見た。灯里の視線に気がついた蒼がコソッと、灯里の耳元に囁く。
「環境保全局の局長だよ。普段、外交対応とか他省庁トップとの対応をしていて、滅多に一般局員の前に出てこないけど、あの人が実際のトップ。」
「そうだったんだ…」
東雲が再びマイクを受け取った。
「今回は特務遊撃班も出動する。なお、分析班、防護班からも一部班員を前線に配置し、融合個体への連携作戦に当たってもらう。詳しい配置については追って各班長へ通達するため、各員、まずはそれぞれのオフィスで待機だ。」
「「「はいっ!」」」
ガタガタと一斉に皆が椅子から立ち上がり、慌ただしく移動し始める。ピンと張り詰めた緊張感が会議室に広がっていた。
橘は手にした小型タブレットの画面を見ながらキョロキョロと誰かを探している。
「あ!おーい!早川〜!」
緑色のマッシュルーム頭が橘の声に反応してビクッと揺れた。ちょこちょことこちらに駆け寄ってきた早川翠は警戒したような視線を向ける。
「は、はい。なんでしょうか…」
「お前、今回は七班に付くことになったから。よろしくな!後で12階に来てくれるか?」
「やっぱりボク、前線なんですね…。」
早川はガクッと肩を落とした。分解魔法の発動が速いということだったから、なるべくしてなった配置なのだろう。
「七班は若手が多いから気楽だぞ〜!」
橘の励ましは早川には届いていないようだった。
つづく




