42. オーダーメイド
チーン、とエレベーターが最上階に着く音がした。朝日を受けた白いドームは、まるで巨大な水晶の中にいるようだった。その中心に、灯里は佇んでいた。
橘がドアを開け、静かな足音を響かせて彼女の元へ近づこうとした。
音に気づいた灯里が振り返った。
入り口のそばにいる橘を、そのアメジストのような瞳が映し出す。
深い紫が混じったストレートの髪が、はらりと彼女の肩にかかる。白い制服に映えるその紫に、橘は思わず息を飲んだ。
しかし、そんな空気を霧散させるように、彼女は思いっきり元気な声を出した。
「おはようございまーす!」
一気に先程までの凛とした空気が、明るい温かみのあるものへ変わる。
橘は眉を下げ、挨拶を返す。
「お早う。早いな、霧島。」
ふふっと灯里は得意げに微笑んだ。
「だって、あのあと千景さんに聞いたんですよ〜!やっと出来上がったって!もう、ワクワクしちゃって!」
「なんだ、もう知ってるのか〜」
ニヤニヤと笑いながら橘は肩に担いでいた細長い箱を灯里に見せる。彼はそれを床に置き、丁寧に包みを開く。
漆黒の革が光を受けて静かに艶めいた。
柄には色とりどりの魔石が埋め込まれ、その奥では淡い光を帯びた魔法陣が揺らめいていた。灯里は目を見開いた。
「触ってみて、いいですか?」
「どうぞ、お好きに。」
橘が灯里に手に取るようにと勧める。
サラリとした質感の持ち手を握り、箱からそれを取り出した。
真新しい革を引き摺らないように手でまとめて持ち上げる。
「う、わ、思ったより軽い…!」
「霧島の体格に合うように設計されたオーダーメイド品だからな。どうだ、この"鞭"は?」
「ものすごく握りやすくて手に馴染みます。これが、自分専用の武器かぁ…」
魔石がふんだんに使われたその鞭はとても華やかだった。
それに、重くない。
訓練の時に試しに使った鞭は重くて、腕や肩がすぐ疲れてしまっていた。…うん、これなら大丈夫そうだ。
「ありがとうございます!」
灯里はガバッと橘に頭を下げた。
「振ってみるか?」
こくっと頷いて、橘から離れ、距離をとる。柄を握ると、それは手に吸い付くような感触がした。
ヒュンっとまずは横に鞭を払った。
(速いっ…!)
鞭の先端の戻りが速い。まるで自分の腕が伸びたかのような操りやすさだ。
加護を付加し、次は宙を切り裂くように振り抜いた。キラキラと紫色の残渣が空気中を舞う。
その光は鞭の軌跡をなぞるように宙へ残り、灯里は光の粒に囲まれていた。まるでそれは彼女自身から発せられた光のようで、神秘的に橘の目には映った。
(すげえな…こりゃ、かなりの浄化力を持ってるんじゃねえか…)
灯里は鞭の先端を自分の方へ引き戻すと、ギュッと鞭を両手で握りしめた。
その両手を上に突き上げると、きゃーっ!と叫び声をあげる。
「たちばなさぁーーーん!これ、最高です〜!すご〜い、ぴったり〜!」
うさぎのようにピョンピョンと橘の元に駆け寄った灯里の頬は喜びで赤らんでいた。
「良かったな、霧島。最前線で穢れを浄化しまくってくれよ?」
「はいっ!班長!」
ふざけたように額の前で敬礼をする灯里を見て、橘は達成感に包まれた。
…突然、ドームのドアが開いた。
「橘班長!!大変です…!謎の文書が大量に環境保全局に送りつけられてきました!」
戦闘班員がプリントアウトした紙を橘に手渡す。
「……一体なんなんだ、これは。」
橘が目を落とした紙には、まるで穢れを使った戦いの予告状のような文言が書かれていた。
『止められるものなら止めてみろ。夏至の夜、穢れは街を覆う。隠し続けてきた真実を、世間に知らしめてやる。』
つづく




